婚約者顔合わせの絶望
たどり着いた侯爵家の応接間は、静まり返っていた。
磨き上げられた長机の向こうに並ぶ両親と、隣で微笑みを浮かべる双子の妹:エリシア。
我が家とは、素材もスケールも何もかもが違い、私は思わず呆気にとられていた。
その光景を前に、私アリア・フォン・グレインフィールは少し緊張しているものの、気持ちには余裕を持っていた。
(私が選ばれることはない。)
侯爵家から持ち込まれた縁談は、名目上は「双子揃っての婚約者候補」だったが、その実態は誰の目にも明らかだった。
美しく、愛らしく、誰からも可愛がられるエリシアのための話だ。
だからこそ、私の心は決まっていた。
この縁談は、潔く辞退しようと――。
その代わり、自分だけを見てくれる人と、自分で選んだ恋をして結婚したい――そう夢見ていた。
今でも思い出す。
王城での社交界デビューの日。
思わぬ惨劇に見舞われた私に、優しく声をかけてくれた青年。
穏やかな微笑みと、知的で落ち着いた眼差し。
(また、会えるといいな……会えたら、私も頑張らなくちゃ。)
淡い期待を胸に抱いたまま、私は今日を迎えた。
扉が開き、侯爵家一行が入室する。
先頭に立つ長身の青年を目にした瞬間、私の世界は音を失った。
喉がひくりと鳴り、息の仕方が分からなくなる。
(――――嘘っ。)
あの日、運命だと思ってしまった人。
その彼が、妹の婚約者候補として、堂々とそこに立っていた。
「本日はお時間をいただき、感謝いたします。」
丁寧な挨拶が耳に届くが、意味を成さない。
視界の端で、エリシアが嬉しそうに微笑むのが見えた。
(……そうだよね。)
そういえば、初恋って適わないものだと誰かが言っていたのをふと思い出す。
さっきまでの余裕はなくなり、胸の奥で何かが音もなく崩れ落ちるのを感じた。
運命だと思っていた恋は、あっけなく終わりを告げたのだ。
それがわかり、私は何も見ないように、静かに視線を伏せた。
心を閉ざし、頭を空にして、この時間が早く過ぎるのを、
この気持ちが消えてなくなることを、ただただ願っていた。




