じゅりじゅりと白百合
樹里ことじゅりじゅりは、部のほとんどの人に言っていないが配信者だ。
もっと正確に言えば、エクリプスレイン公式の交流機能――エクリプスチャット内で、定期的に配信をしている。
顔出しはしない。
代わりに使うのは、エクリプスレインのユニットを模したアバターだ。
本人の好みで調整されたその姿は、派手すぎず、しかし見慣れた人にはすぐ分かる。
登録者数はそこそこ。
爆発的な人気ではないが、配信を始めれば固定の視聴者が集まる。
中堅、と呼ばれる位置だった。
部活では、ただの先輩だ。
カードの相談に乗り、試合を見て、時々厳しいことも言う。
配信者としての顔を知っている部員は、ひとりだけ。
りり。
配信では「白百合」と名乗る彼女だ。
白百合は、じゅりじゅりの配信に毎回出るわけではない。
時間が合った時だけ、気が向いた時だけ。
それでも、コラボの日だと分かると、チャットの空気は少しだけ変わる。
――今日は、そのコラボの日だった。
「エクリプスチャット、配信始めます。こんばんは、じゅりじゅりです」
アバターが軽く手を振る。
背景に設定された仮想卓の向こう側に、もう一体のユニットが表示された。
「こんばんは。白百合です」
落ち着いた声。
それだけで、チャット欄の流れが少し早くなる。
〈白百合いる〉
〈久しぶり〉
〈今日いい日だな〉
「そんな期待されるほどのことは話さないよ」
じゅりじゅりが苦笑する。
「いつも通り、雑談とカードの話だよね」
白百合も、変わらない調子で返した。
配信は、穏やかに進む。
最近よく見るデッキ構成。
安定するユニットの選び方。
全国を意識した時の考え方。
二人とも、必要以上に踏み込まない。
だが、曖昧なことも言わない。
そのやり取りが、チャットの空気を整えていく。
〈アントキングさんがギフトを送信しました〉
「ありがとうございます。いつも助かります」
〈牧島さんがギフトを送信しました〉
「牧島さんも、ありがとうございます」
名前を呼ぶだけの対応。
それで十分だった。
この枠では、それが当たり前だ。
「白百合は、こういう場だと説明が上手いよね」
じゅりじゅりが言うと、
「部でも同じこと言ってると思うけど」
白百合は少しだけ笑った。
確かにそうだ。
同じ部で、同じチーム。
普段から話す内容と、根っこは変わらない。
ただ、エクリプスチャットという場所では、
その考え方がより多くの人に届くだけだ。
配信は、あっという間に終盤を迎える。
「じゃあ、今日はこの辺で」
「来てくれた人、ありがとう」
「ありがとうございました」
白百合も、同じタイミングで頭を下げる。
配信終了。
アバターが消え、チャット欄の流れが止まった。
「今日も、特に何もなかったね」
じゅりじゅりが言う。
「それでいいと思う」
白百合は、あっさり答えた。
「カードの話ができれば」
同じ部で、同じチーム。
明日になれば、また部室で顔を合わせる。
それでも、今日の配信を見ていた誰かの中で、
“じゅりじゅり”と“白百合”は、
エクリプスレインの一部として、静かに残っていく。
翌日
マックスとリア部長が珍しく熱く語っていた
「昨日のじゅりじゅり見たか?」
「見たぜリア部長、良いよな!」
「昨日は白百合ちゃんもいたしな、思わず超ロイヤルギフト送ってしまったわ」
「さすが俺はSSRギフトが限界だったわぁ」
「額の問題じゃないさ」
二人の会話を聞いて
樹里とりりがざわついたのはまた別の話である。




