皇帝 チンギス・ハーン
えーっと、たしか3番の転移門だったかな?おっ、いたいた。
「いや~、遅れてごめんね、リリ。」
こいつは案内妖精のリリ、主に情報収集などの補佐を担当してもらっている。
「いいですよ。どうせ、説教でもされてたんでしょう?そんなことより、さっさと説明に移らせてもらいますね。」
「うん。今回の仕事は?」
「場所は、DZ‐3582宇宙の地球と言う星です。標的はチンギス・ハーン。モンゴル帝国の皇帝です。」
「条件と状況は?」
「条件は特に無いですが、なるべく本人のみを回収するようにとのことです。状況ですが、現在、大夏と呼ばれる国へ遠征をしています。しかし、首都興慶を取り囲んでおり、終結するのも時間の問題かと。」
「なるほど。次に行きそうな場所はどこかな?」
「恐らく、東の金領か南東の南宋との国境に向かうかと。」
ん〜、どうしたものかな、使えないっぽいんだよな〜、魔法。騎馬民族らしいし、敵国の弓兵に紛れ込んで、遠くから狙い撃つかな。
「よし、決めた。南宋との国境に向かおう。」
「わかりました。では、転移!」
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…地球・モンゴル帝国と南宋との国境付近
うっし、着いたか。
「南宋は私達から見て右の方にあります。が、向かう前に顔と服を変えてください。あと羽もしまって、ついでに弓矢なんかも作りだしておいてください。」
「わかった。けど、ここほんっとに魔力が少ないんだな。使ったら戻るまでにかなり時間がかかるだろうから、なるべく節約しなくちゃな。」
とは言え、天使の魔力はかなり多いから、時間がかかるわけでも無ければ、魔力不足にはならないだろうが。
「現時点での作戦は、南宋軍に紛れ込んで弓を撃ち込むという単純明快なものだが、異論は?」
「いえ、特には。ただ、こちらに来なかった場合は?」
「その時は、彼がいる場所に忍び込んで暗殺という形になる。彼の現在地を常に把握しておいてくれ。」
「了解。」
さて、南宋に向かうとしますか。
……7時間後
遠くない!?馬の数倍の速さで移動してるのに、全然着かないんですけど!?
「ねぇ、あとどのくらい?」
「あと半日くらいで着きますよ。」
「マジ?」
「マジです。」
うわぁ~嫌だぁ〜。転移魔法使いたい。だいたい、普段から魔法を使いまくっている天使が、魔法を使わないで活動しろって言われてできるわけが無いじゃないか。あぁいや、でも、魔力使い過ぎると帰れなくなるからなぁ。はぁ〜〜〜、やるしかない、か。
「おいあんちゃん、どうしたんだ?こんな所で突っ立って。しかも、虚空に話しかけて。大丈夫か?」
何だこいつは?どこから現れた?大体なんで私の感知に引っかかっていないんだ?
「何だ?警戒してんのか?ああ、まだ名乗ってなかったな。俺は、春明。見ての通り商人をしている。」
いや、こいつは魔力を一切持っていないんだ。感知に引っかからないのも当然か。それよりも、商人か。なにか情報を引き出せるかもしれないな。
「私は里宇。諸国を巡って修行をしていたんだが、先程、馬に逃げられてしまってな。」
「そいつは災難だったな。近くの村まで運んでやってもいいぜ?勿論、有料で。」
「助かる。ただ、この国の金は持っていないから、そうだな、この布でどうだ?」
さっき服を作ったときに余った布だ。質はそこそこ良いからな。十分足りるだろう。
「…いいのか?この布、めちゃくちゃ質が良いぞ?村まで連れて行くだけじゃ足りないと思うんだが。」
「いいんだ。私は、この辺りについて、あまり詳しくないからな。色々教えてくれると助かる。」
「そんなことでいいなら、いくらでも聞いてくれ。取り敢えず、出発するから荷台に乗ってくれ。」
そうして数日間、春明と共に行動することになった。
「なぁ、近々モンゴル帝国が攻めてくる、というのは本当なのか?」
「ああ、そういう話だな。実際、国境への兵の配備が増えて、穀物の買付も多くなってるしな。戦争がおきる可能性は高そうだが。まあ、俺としちゃあ儲かるから割と嬉しいんだよなぁ。で、それがどうした?」
「いや、モンゴル帝国には何かと因縁があってな。戦争に参加したいと考えているんだ。これまで磨いてきた、弓の腕前を披露する機会にもなるしな。」
「………村についたら少し時間をくれねえか?指揮官やってる叔父貴に頼んでみる。そろそろ部隊が村についている頃だ。」
「ありがとう。」
「あの布に比べればまだまだだよ。何よりそういうのは、達成してから言ってくれや。」
なんというか、何も無い街だな。
「おい、今何も無いって思っただろ。」
「いや、こう、なんというか、閑散としていていい街じゃないか。」
「それ褒め言葉じゃねぇからな!?まあ良い、ちょっとここで待ってろ。話してくる。」
そういえば、チンギス・ハーンって今何処にいるんだ?
「彼ならあと一週間もしない内に国境に辿り着く程度の速度で進軍しています。」
え?心読まれた?
「顔に出てました。」
「今から行って間に合う?」
「開戦には間に合わないでしょうが、戦闘中に着きはするでしょう。なので、近くの補給部隊と共に行動するのがよろしいかと。」
とすると、春明の交渉次第だな。
「お〜い、連れてきたぞ〜。」
「春明の叔父で夏夜という者だ。軍志願とは聞いたが、この部隊は補給部隊だ。戦闘はまずない。また、君の分の食料は用意できない。それでも良いならついてきたまえ。」
「それで構いません。私は、部隊のどの位置にいればよいでしょうか?」
「そうだな、君は弓が使えるんだったよな?最後尾付近で後方の警戒をしてくれ。」
「かしこまりました。」
取り敢えず戦場には行けるな。あとは、チンギス・ハーンが戦場に来るかだが。
…着いたか。いや~、何事もなく着いて良かった〜。これも日頃の行いってやつか。ま、天使だから善行以外のことなんて無いんだけど。
「里宇、前線の指揮官に話を通しておいたぞ。これからはそっちの部隊で働いてくれ。」
「ありがとうございます。」
「いやなに、こちらも君に助けられたからな。ああ、指揮官は左から3番目の部隊の所にいるはずだ。健闘を祈る。」
え〜っと、3番目3番目っと、ここか。指揮官はあの人かな?
「指揮官殿、里宇であります。ただいま到着いたしました。」
「ああ、夏夜殿から話は聞いているよ。なんでも、半里先から山賊を壊滅させたとか。もう、私には理解の及ばない領域だが、凄い腕前だね。」
「はい、見事フビライめを撃ち抜いてご覧に入れましょう。」
「いや、フビライは来ないと思うよ。というか戦争にもならないんじゃない?」
「そういえば、戦っている気配がしませんね。」
「こっちの方に軍が来そうな感じはあったんだけどね。まあ2箇所同時に攻めているし、本隊も興慶の周りの都市を攻めているから余裕が無いんじゃないかな。それに、彼は60を過ぎているからね。体力も衰えているんだと思う。」
「そう…ですか。」
「ちょっと、何処へ行くんだ?」
「ここに来ないなら用は無いなと思って。」
「君はこの国の者では無いようだしね、それは構わないが。取り敢えず、これを持って行きなさい。数日分の食料と山賊退治の報奨金だ。」
「ありがとうございます。」
よし、誰もいないな。
「リリ、チンギス・ハーンはいま何処に?」
「え〜っと、六盤山って所に陣を構えてますね。」
「近くに他の軍は?」
「いないです。」
暗殺か。面倒だな。というか天使が暗殺て、色々大丈夫か?ま、やるしかないな。
「転移魔法使っても大丈夫か?」
「暗殺ならそこまで魔力を使わないでしょうし、問題無いかと。」
……六盤山
やっぱ、転移魔法は楽だね。今日までの苦労が嘘みたいだ。
「一人近づいて来ます。」
ちょうどいい所に。
そ〜〜〜、ゴンッ!!
私は、兵士に近付いて弓で殴った。
「悪いが、暫く顔と装備を貸してもらうよ。」
これで堂々と潜入できる。あとは、彼の近くに行っても問題無い身分のやつまで顔と服を取り替えていくだけだな。
「持ち場を離れて何処に行っておった。」
ちょうどいい、次はこいつだ。
「少し、用を足していまして。」
「フン、これからは気をつけ……… ズゴンッ!!! …な、ぁ……。」
こんな感じで次のやつもいくか。
………夜
何人かに成り代わって話を聞いたところ、チンギス・ハーンは落馬して風前の灯火らしい。私、要らなかったんじゃね?もう遺言なんかも言ったあとみたいだし。
入り口から入ると、チンギス・ハーンと思しき人物が眠っていた。
「やあ。」
「ボロクル?いや違うな、誰だ貴様は。」
「おや、気付かれたか。私は天使リラウス。君は強すぎた上に長く生きすぎたんだ。だから、天から私という、特別なお迎えが来た。」
「か、顔が崩れて…。」
「ああ、正体バレちゃったしね。もう要らないかなって。」
「そもそも、天使とはなんだ?」
「君たちがテングリと呼ぶものの使いだよ。で、どうする?このまま私と行くか、抵抗するか。因みに、抵抗したらこの陣地を吹き飛ばす。」
やるつもりは無いけど、素直に従ってくれた方が楽だからね、脅しでもなんでもするさ。
「わかった、従おう。ただし、私以外には手を出さないでくれ。」
「勿論だ。さあ行こう。」
「いや、どうやって。って、なぜ私の体が目の前にあるんだ?」
「魂だけ抜き取ったからね。体ももうじき死ぬよ。」
さて、仕事も完了したし、帰りますか。
「転移して、リリ。」
「了解しました。」
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天界
いや〜やっぱり天界は良いね。魔力が満ちている。
「あの、私はどうしたら?」
「ああ、そこの光の柱の中に入ってくれ。心が洗われるよ。」
漂白って意味でね。
「わかりました。」
よし、あとは報告書を書いて今回の仕事は終わりだ。
残りノルマ 通常業務 10 ペナルティー 9
*この物語はフィクションです。なので、史実や現実の地理と異なる部分があっても別の世界だと納得して下さい。




