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超短編 崖際

「ねえねえ、もし崖際で、私とあなたのお父さんがぶら下がってて、どっちかしか助けられないとしたら、どっち助ける?」


また始まった。彼女は助手席でスマホを見るのに飽きたか、画面酔いをしたらいつもこの質問をしてくるのだ。


「またその話かよ。いっつも言ってるけど、そうやって人を試すような質問するなよ。その質問で俺がいい気分になると思う?」


「別に試してるんじゃなくて、ただ聞きたいだけ。怒んないでよ、ただの暇つぶしだし」


「じゃあ聞くけど、君だったらどうする?俺と、君のお母さんがぶら下がってたら?」


「そりゃあもちろん、あなたを助けるよ。どっちも同じくらい大切だけど、助けた後、寿命的に長く一緒に居られるのはあなたでしょ?」


「そういう理屈なら俺も君を助けるべきってことになるから君を助けるよ。この答えで満足?」


「別に試してる訳じゃないってば。あなたの本音を知りたいだけ。お父さんを選んでも私は怒らないよ?」


俺はもう何度もこのトラップで死にかけてきた。彼女の「本音を知りたい」は「私に都合の良い言葉が聞きたい」の意味を持つ。


「じゃあ本音で話すけど、俺ももちろん君を選ぶよ。寿命とかそういう理屈抜きで、君の方が大切な存在になっているからね」


「ふーん。そうなんだ。まるで地雷原でも歩かされているような慎重な答えだね」


「ほら、そうやって君はどちらを選んでも不機嫌になるじゃないか。そういうのを人を試すって言うんだよ」


「別に不機嫌になってないし。」


しばらく気まずい沈黙が続く。せっかくのドライブデートなのに、彼女の気まぐれ一つで台無しになりかけている。

いつもの自分なら最寄りのSAでアイスでも買って機嫌を直して貰おうとするが、今日はそんな気を使えるほどの余裕は無い。


「じゃあさ、もし私が出産の時に意識を失って、私かお腹の子供、どちらかしか助けられない。それを決めるのがあなただとしたら、どっちを助ける?」


「あっきれた。さっき俺が言ったこと忘れたか?人を試す質問するなって」


「いや、これは本当にあるかもしれない事だから、相談しとこうと思って。大事な事でしょ?」


「はあ、じゃあ君の体のことだし、君の意見を尊重する。これが俺の答え」


「ふーん。じゃあ、絶対に私を助けて欲しい。あなた一人で子育てができるとは思えないし、可能なら子供はまた作ればいい。生産元の私を助けておけば再生産は可能でしょ?」


「君のその発言はちょっと倫理的に問題がありすぎるよ」


「いいじゃん。私とあなたしか聞いてないんだし」


「君の理論なら、君と君のお母さんが崖でぶら下がってたら生産元である君のお母さんを優先して助けるべきってこと?」


「私の理論を理解しているならそういう思考にならない。あなたは理論的思考に問題があるみたいね」


ここで言い返したら負けだと思い、聞こえていないふりをした。


「じゃあ最後に聞くけどさ、私とあなた、どちらかしか助からない状況になったらどうする?私を助けてくれる?」


「そりゃあもちろん君を助けて貰うよ。君が大切だからね」


「私が大切ならあなたが生き残ってよ。あなたが居ない世界なんて、生きてる方が地獄だから。あなたなら私が居なくても幸せになれるよきっと。」


「また嫌味か?」


「ううん。嫌味でも何でもないこれは本当の本音。あなたなら大丈夫だよ」


彼女のこんな単純な言葉で許してしまう自分に呆れた。


「次のSA寄ろうか?クレミア奢ってあげるよ」


「え!やった~!SAで食べるクレミア大好き!」


俺は彼女の急上昇した機嫌に合わせるように、アクセルを思いっきり踏みこんだ。

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