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過去の影

空気は叫び声と剣の音で満ちていた。マンスーリはアウロラのそばに立ち、手は震えていたが、目には決意が燃えていた。彼には他に選択肢がないことを知っていた。アウロラは最後の力を振り絞って石の壁を支えながら、彼を見つめた。彼女の顔は青白く、息は荒かった。


「マンスーリ、もしあなたがそれをしたら…」彼女は言いかけたが、彼は遮った。


「何が起こるかはわかっている。でも、もしそれをしなければ、私たちは全滅だ」彼の声は堅かったが、その中に苦々しさがにじんでいた。彼は目を閉じ、自分のスキルに集中した。体内で何かがカチッと音を立て、まるで錠が壊れたかのように、奇妙でほとんど制御できない力が体に満ちていくのを感じた。


彼は手を上げた。その瞬間、周りのすべてがスローモーションになった。壁をほとんど突破しようとしていた敵たちはその場に凍りついた。マンスーリは力が抜けていくのを感じたが、止めることはできなかった。彼は拳を握りしめ、エネルギーの波が彼の体から迸り、通り道にあるすべてをなぎ倒した。敵は吹き飛ばされ、崩れかけていた壁は再び強化された。


しかし、その代償は大きかった。マンスーリは足ががくがくし、視界がぼやけるのを感じた。彼は膝をつき、かろうじて意識を保っていた。アウロラは彼に駆け寄り、目には不安が溢れていた。


「待つべきだったのに!」彼女は叫んだが、その声には感謝の念が込められていた。


「時間がなかった」彼は体を覆う弱さを感じながら囁いた。「でも今…今の私は役に立たない」


アウロラは彼の手を握りしめた。彼女の指は冷たかったが、力強かった。「あなたは私たちを救ったのよ、マンスーリ。それが一番大事なこと」


マンスーリが意識を取り戻す間、彼の思考は過去に飛んだ。彼は数年前、アルビディウルがエルフとの戦争の瀬戸際に立っていたことを思い出した。その時も今と同じように、すべてが限界まで張り詰めていた。エルフたちは誇り高く、閉鎖的で、人間や他の種族を信用していなかった。彼らは、自分たちの土地と魔法は自分たちだけのものだと考えていた。


マンスーリとアウロラは、当時まだ若く未熟で、その紛争の中心に立たされていた。彼らはエルフの評議会との交渉に送り込まれた。敵意に満ちた視線に囲まれながら、密林を進んでいたことを覚えていた。エルフたちは不信感を隠そうとせず、彼らのリーダーである長老ロラエルは冷たい軽蔑の眼差しで彼らを見つめていた。


「平和を求めて来たというが、何を提供できるというのか?」彼女は問いかけた。その声は風に揺れる木の葉のようだった。


アウロラはひるまずに一歩前に出た。「私たちは同盟を提案します。共に力を合わせれば、外からの脅威から私たちの土地を守ることができます。分かれていては弱いですが、一緒になれば無敵です」


マンスーリは、その時自分が無力だと感じていたことを覚えていた。彼はアウロラのような魔法を持たず、彼女のように説得力のある話し方もできなかった。しかし、彼は一人のエルフ、エルリアンという若い戦士が、憎しみではなく興味を持って彼らを見つめていることに気づいた。


「私たちは戦争を望んでいません」マンスーリはエルリアンに向かって言った。「私たちは平和に暮らしたいのです。それは誰もが望むことではないですか?」


エルリアンはうなずき、彼の支持が和平合意の鍵となった。ロラエルは不本意ながらも交渉に応じた。平和は達成されたが、種族間の緊張は残った。エルフたちは依然として人間を疑い、人間たちはエルフの魔法を信用しなかった。


マンスーリは、アウロラが彼の肩を軽く揺すったことで記憶から現実に戻った。


「戻ってきたのね」彼女は微笑んだが、その目には疲れが見えた。「私たちはこの攻撃の背後にいる者を見つけたわ」


マンスーリはゆっくりと立ち上がり、体中の筋肉が痛むのを感じた。「誰だ?」


アウロラは、数人の衛兵に拘束されている男を指さした。それは中年の男で、ぼろぼろの服を着て、やつれた顔をしていた。彼の目は恐怖でいっぱいだったが、そこには決意も見て取れた。


「彼は自分を『王』と呼んでいる」アウロラは言った。「でも、彼はただの貧しい男で、混乱を引き起こすために雇われただけだ。彼の家族は飢えており、お金のためにこれに同意したのよ」


マンスーリは男を見つめ、心に憐憫の情が湧き上がった。「彼をどうするつもりだ?」


アウロラは考え込んだ。「彼をただ解放することはできない。でも、処刑することもできない。彼は悪人ではない、ただ絶望した人間なの」


その瞬間、一人の衛兵が彼らのもとに駆け寄り、顔は青ざめていた。「フローレスの村が燃えています!襲撃を受けました!」


マンスーリとアウロラは視線を交わした。彼らには考える時間がないことを知っていた。


「これは後で片付けよう」アウロラは声を張り上げた。「今はフローレスを助けなければならない」


マンスーリはうなずき、再び体に弱さが押し寄せるのを感じた。しかし、彼は進まなければならないことを知っていた。「偽りの王」をどうするかという疑問は未解決のままだったが、今は人々の命がかかっていた。


彼らが街の外に出た時、マンスーリは体内で再び何かがカチッと音を立てるのを感じた。彼のスキルは、彼を弱らせたが、まだ彼の中にあった。彼はそばを歩くアウロラを見つめた。彼女の顔は集中し、目には決意が燃えていた。


「私たちは乗り越えられる」彼は彼女に向かってではなく、自分自身に言い聞かせるように言った。


しかし、心の奥底では、本当の戦いはこれから始まることを知っていた。そして、このすべての背後にいる者についての疑問は、まだ答えられないままだった。



貧しい世界

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