「戦争の影」
ヴァルニディスからの援軍で強化されたマンスーリア軍は、敵領土の奥深くへ進軍を開始した。ラルフィリウムでの一ヶ月に及ぶ防衛戦の後、戦況は転換点を迎えていた。マンスーリ、アウローラ、アルリナ、リラは主要な戦略地点を奪還すべく、先頭に立って攻撃を指揮した。
「我々はマンスーリアが屈しないことを示さねばならない」
マンスーリの声には揺るぎない決意が込められていた。
「一歩前進するごとに、勝利に近づくのだ」
その言葉に奮い立った兵士たちは、倍の力で戦った。彼らはヴェルニシアが以前支配していた数々の村を奪還。これは軍の士気を高め、マンスーリアの民に希望をもたらした。
進軍中、マンスーリは崩れかけた家屋に隠れる小さな影に気づいた。10歳ほどの少女だった。服はボロボロで、涙と泥で汚れた顔には恐怖が刻まれている。彼女はマンスーリを怯えた目で見つめていた。
「怖がらなくていい」
マンスーリは優しく声をかけ、膝をついた。
「私たちは助けに来たんだ」
しかし少女は返事もせず、震えだすとその場で気を失った。マンスーリは彼女を抱き上げ、冷たく弱々しい体に不安を覚えた。
「どうしたの?」
アウローラが心配そうに尋ねた。
「わからない」
マンスーリは答えた。
「だが、これは良くない兆候だ」
マンスーリたちが少女を介抱している間、敵軍は逆襲に打って出た。これは戦争開始以来、最も激烈な戦闘となった。領土を失いつつあることを悟った敵は、全力で反撃してきたのだ。
「持ちこたえろ!」
マンスーリの剣が魔法の光を反射させながら閃いた。
「マンスーリアのために!」
アウローラは防御バリアを展開し、アルリナとリラは最前線で奮戦した。だが敵の数が多すぎた。守備隊の戦力は尽きかけていた。
激戦の最中、ヴェルニシアの使者がマンスーリの前に現れた。青ざめた顔で、声は震えていた。
「和平を提案する」
戦場の喧騒にかき消されそうな声で言った。
「ただし、貴方がたが撤退するならばだ」
マンスーリは憤怒の眼差しで使者を見据えた。
「この期に及んで、我々が屈服するとでも?」
使者はうつむいた。
「これは提案ではなく要求だ。受け入れねば、戦争は続く」
戦いが終わると、マンスーリは戦死者の横たわる野原に立った。損失への心痛と共に、疑念が頭をよぎる。
「どうすべきか?」
彼はアウローラ、アルリナ、リラに問いかけた。
「戦い続けるか、和平を受け入れるか?」
アウローラは深く息をついた。
「降伏はできない。だが戦争継続も危険だ」
アルリナが頷く。
「マンスーリアの未来を考えねば」
普段は陽気なリラも、今回は深刻な面持ちだった。
「もしこれが罠だったら?」
マンスーリは目を閉じた。祖国を守りたい思いと、その未来への不安に胸が引き裂かれるようだった。
マンスーリは戦場に立ち、地平線を見つめた。戦争はまだ終わっていない。だが彼は、マンスーリアの運命を決する選択をしなければならないと悟った。
「成し遂げてみせる」
覚悟に満ちた声で宣言した。
「我が国を守る道を見つける」
アウローラは誇らしげに微笑んだ。
「私たちはいつも共にやってきたわ」
マンスーリは頷き、心に決意を固めた。さらなる試練が待ち受けていることを知りつつ、それに立ち向かう準備はできていた。
目を閉じると、意識の深淵から声が響いた。
「忘れるな……」
声は囁いた。
「お前は選択をしなければならない」
そして、静寂がすべてを包み込んだ。




