「試練の月」
ラルフィリウム村は、マンスーリア最後の砦となった。ヴェルニシアとアルヴィシアの軍は、損害を出しながらも攻撃を続けていた。防衛戦はすでに一ヶ月続き、守備隊の力は尽きかけていた。マンスーリ、アウローラ、アルリナ、リラは休む間もなく働き、防衛を組織し、兵士たちの士気を支えていた。
「耐え抜かなければ」
マンスーリは疲れで嗄れた声で言った。
「ここが落ちれば、マンスーリアも滅びる」
アウローラは魔法で防御バリアを張っていたが、彼女の力も限界に近づいていた。アルリナは弓を手に敵を射撃し、リラはその機敏さで敵の背後を攪乱した。
ある夜、敵軍は総攻撃を仕掛けてきた。彼らは第一防衛線を突破し、ラルフィリウムの守備隊は敗北の淵に立たされた。
「もう持ちこたえられない!」
一人の兵士が恐怖に歪んだ顔で叫んだ。
マンスーリは疲労の中、剣を振り上げた。
「降伏はしない! 我に続け!」
その言葉に兵士たちは奮い立ち、再び戦いに身を投じた。しかし、力の差は明らかで、敗北は避けられないように思えた。
その危機的状況の中、一報が届いた。他の戦線で活動していたマンスーリア軍が、旧領土の一部を奪還したという。これが戦況を一変させた。後方を失った敵軍は撤退を始めたのである。
「やったわ……」
アウローラは安堵に満ちた声で呟いた。
「我々の土地を取り戻した」
マンスーリはラルフィリウムの城壁に立ち、撤退する敵を見下ろした。彼の胸には希望が湧いたが、戦争が終わったわけではないことを理解していた。
次の吉報は、同盟国からの援軍到着だった。ついにヴァルニディスがマンスーリア支援を決断したのである。千人の精鋭兵がラルフィリウムに到着した。
「我々は支援に来た」
部隊指揮官が力強い声で宣言した。
「ヴァルニディスは、諸君の勇気を認める」
マンスーリは心に感謝の念が溢れるのを感じた。
「ありがとう。共に戦えば、勝利できる」
到着した兵士たちの中には、ヴァルニディス統治者の娘ライラの姿もあった。25歳の彼女はすぐにマンスーリの目を引いた。その自信に満ちた指揮官ぶりは、彼を感服させた。
「あなたは不可能を可能にした」
ライラは尊敬の念を込めて言った。
「真の指導者だ」
年下ながら、マンスーリは彼女との間に絆が生まれるのを感じた。二人は戦略や将来の計画について語り合い、次第に時間を共にするようになった。
アウローラ、アルリナ、リラはマンスーリとライラの接近に気づかぬはずがなかった。嫉妬が三人をむしばみ始めた。
「あの女とばっかり一緒にいる」
アウローラは悔しげに呟いた。
「年上なのに」
アルリナの目は険しく光った。
「何がいいんだろう、あの女」
普段は陽気なリラも、今回は深刻な表情だった。
「何とかしないと。彼女にマンスーリを奪われてしまう」
マンスーリはラルフィリウムの城壁に立ち、地平線を見つめた。戦争はまだ終わっていなかったが、国を守るために全力を尽くしたという確信があった。
「我々は耐え抜く」
彼はアウローラ、アルリナ、リラに向かって言った。
「共に成し遂げよう」
アウローラは誇らしげに微笑んだ。
「我々はいつも共にやってきた」
マンスーリは頷き、心に決意を固めた。これからも試練が待ち受けていることはわかっていたが、彼はそれに立ち向かう準備ができていた。
目を閉じると、意識の奥底から声が聞こえた。
「忘れるな……」
声は囁いた。
「お前は選択をしなければならない」
そして、全てが静寂に包まれた。




