「選択の代償」
戦争が始まったが、近隣諸国、ヴァルニディスを含め、中立を保っていた。誰もマンスーリアの必死の懇願にも関わらず、助けようとしなかった。小さな国が存亡をかけて戦うのを、世界はただ見守っているようだった。
「奴らは我々が倒れるのを待っている」
会議でマンスーリが言った。その声は苦渋に満ちていた。
「だが、我々は屈しない」
アウローラ、アルリナ、リラは黙って頷いた。彼女たちは、頼れるのは自分たちだけだということを理解していた。
ヴェルニシアとアルヴィシアの軍は急速に進軍し、次々と領土を占領していった。マンスーリアは土地を失い、英雄的な奮闘にも関わらず、軍は敵の猛攻を食い止められなかった。しかし、ラルフィリウム村の前で敵軍は停止した。小さな勝利ではあったが、マンスーリアに息をつく時間を与えた。
「ここで防衛を固めなければならない」
マンスーリは地図を見つめながら言った。
「ラルフィリウムが最後の防衛線になる」
アウローラが頷いた。
「魔術師たちを使って防御バリアを張れば、敵の進軍を遅らせられる」
ある夜、マンスーリは再びあの声を聞いた。スキルを失って以来、彼を悩ませていた声だ。
「選択をしなければならない」
声は囁いた。
「300人の命と引き換えにスキルを取り戻すか、それともスキルなしで戦い続けるか」
マンスーリは胸が締め付けられるのを感じた。そのスキルが戦争の流れを変えられることはわかっていたが、代償は大きすぎた。
「300人を犠牲にはできない」
彼は絶望に満ちた声で呟いた。
「他に方法はないのか?」
声は沈黙し、マンスーリは孤独と共に思考に沈んだ。
絶望の中、マンスーリはせめて一国とでも和平を結ぼうと決意した。彼はアルヴィシアの支配者に使者を送り、2000金塊の支払いと引き換えに和平を提案した。
「それは莫大な金額だ」
リラは不安げに言った。
「我々は既に借金を抱えている」
「選択肢はない」
マンスーリは答えた。
「少なくとも一つの脅威を止められれば、チャンスが生まれる」
アルヴィシアは条件を受け入れたが、それはマンスーリア経済に新たな打撃を与えた。今や国は商人だけでなく、敵国にも借金を負うことになった。
次の手として、マンスーリはヴァルニディスに同盟を提案した。しかし、ヴァルニディスの支配者は条件を出した。マンスーリが彼の娘、ライラと結婚することだった。
「彼女は25歳で、君はまだ17歳だ」
アウローラは疑念に満ちた声で言った。
「不公平だ」
マンスーリはため息をついた。
「もしそれがマンスーリアを救うなら、私はそれを受け入れる」
ライラは年上ではあったが、聡明で優しい女性だった。彼女はこの結婚が政治的な同盟であることを理解しつつ、マンスーリを支える覚悟を固めていた。
「私はあなたと共にいます」
彼女は決意に満ちた瞳で言った。
「共に両国を守りましょう」
マンスーリは宮殿のバルコニーに立ち、地平線を見つめた。戦争はまだ終わっていなかったが、彼は国を守るためにできる限りのことをしたという確信があった。
「我々は耐え抜く」
彼はアウローラ、アルリナ、リラに向かって言った。
「共に成し遂げよう」
アウローラは誇らしげに微笑んだ。
「我々はいつも共にやってきた」
マンスーリは頷き、心に決意を燃やした。これからも試練が待ち受けていることはわかっていたが、彼はそれに立ち向かう準備ができていた。
目を閉じると、意識の奥底から声が聞こえた。
「覚えておけ…」
声は囁いた。
「お前は選択をしなければならない」
そして、全てが静寂に包まれた。




