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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

A君の事情

作者: 天鈴

※【秘密のアルバイト】のメイン二人の話しを番外です。この話し単品でも問題ないようになっています。ボーイズラブ・女性向けです。苦手な方はご注意下さい。

「最初から貴方になんて興味なかったわ。あの人さえ振り返ってくれたらよかったのよっ」

 僕の初恋はそんな言葉で終わってしまった。

 父の店の常連で、すらりと長い手足は陶器のようで、黒い長い髪が肌に滑る様子が作り物みたいだった。甘く妖しく、僕の知らないことを教えてくれて、僕を騙して、最後まで騙しぬいてはくれなかった人。

「っ……」

 ドンッと廊下を歩く腕に通りすがりの生徒の肩が当たった。腕に絡みつくようにしてくっついていたクラスメイトのせいでふらついたせいかもしれない。

「ごめん。大丈夫?」

 下級生かもしれない小さな相手に視線を向けると、僅かに吊りあがった猫のような鋭い瞳でギリッと睨みつけられた。

 短い黒い髪と丸みのある顔立ちはまだ幼さを残していて睨まれてもかわいいなという印象を受ける。けれど、口を開いたと思うと。

「狭い場所で広がって歩くなよ」

 妙に通りのいい声がはっきりと言葉を紡いだ。

「あ、そうだね。ごめん」

「それに、べたべたするんだったら人目のないとこでやれよな。見ていてウザイし、邪魔」

 遠慮なく言われる言葉に目を瞬く。

 影でこそこそ言われたことはあってもはっきりと目の前で言われるとは思わなかった。

「なによ。こいつ」

「子供のくせにっ」

「こらっ、ぶつかったのは僕の方なんだから」

 腕に捕まったままの少女たちが口々に言うのをたしなめつつ少年へと視線を向けた。

 彼は高い声で文句を言われたのに不機嫌そうでもなくただジッと僕を見つめている。

 やっぱり猫みたいだ。

「そういう事、はっきり言われたの初めてだよ」

「は? 文句は本人の前で言わないとただの陰口だろ」

「うん。そうだね」

 不思議そうに言いきるこの子はきっと人の悪口なんていわないんだろう。その分、この言いっぷりでは敵も多そうだが。

 猫じゃなくてちわわだったかな。

「あんまり広がって歩くなよな。あ、そうだ」

 キーキーと喚いている女の子たちのことなど視界にも入っていない様子で小さな背を向ける。が、すぐ何かを思いついたようすで振り返った。

「ぶつかったのはこっちも同じなのに謝ってなかったよな。ぶつかってごめんな」

 僅かに目を細めて笑う表情が妙に綺麗で印象に残った。


----------


龍也たつや君と同じクラスになれてラッキーよね」

「やっぱり格好いいっ」

 キャーキャーと聞こえよがしに聞こえてくる黄色い声を流しつつ黒板に書かれた出席番号順の席へと腰を下ろす。

 偶然といえ一番後ろの席でラッキーだった。少しの差で教壇前になっていたところだ。後は廻りの席の男子が面倒な相手でなければいいんだけど。

 ちらりと横の席を眺める。

 朝から机に組んだ腕に顔を埋めて突っ伏して寝ている短い髪の頭。

 ほんの少し見覚えがある気がして、僕にしては珍しく自分からその机の人影を覗き込んだ。

 腕から少し覗く小ぶりな顔。

 閉じたままの瞳がゆっくりと開き、猫のような鋭い瞳が驚いたように見開かれた。

「……何?」

 すぐに不機嫌そうに細められる瞳には見覚えがあった。

 下級生にしても小さいと思っていたのに同級生だった事実に驚きながらも顔には出さずに笑みを浮かべる。

「気持ちよさそうに寝てるなって思って」

「あ、そ……」

 僕のことを覚えてないらしく面倒そうに大きくあくびをするとすぐに窓へと視線を向けてしまう。

 別にみんなに覚えてもらえているとは思わないけど、近づいてくる女子たちとそんな女子と知り合いになろうと近づいてくる男子に囲まれるのが当たり前だった僕にはけっこう新鮮だった。

 なんというか、こう突付いて反応を見てみたいというか。

 捕まえて撫で回したいというか。

 妙な気分に包まれながらも隣の席というだけで接点がないまま名前くらいしかわからない同級生はいつも教室で一人だった。

 やっぱりはじめに飛ばしたのが悪いのだとは思うんだけど。

 僕と近づきたがった女子に頼まれた男子の一人が彼と席を替わってもらうと安請け合いをしたらしい。目つきは悪いものの体格も小さいし別に暴れるというわけでもないから少し脅せばいいとか思ってたのかもしれない。

「なんで?」

 椅子に座ったまま自分より頭ひとつは大きい相手を見上げるように睨んで彼は僅かに眉を寄せた。

「なんでっどうでもいいだろ。変わってくれればいいんだって」

「目が悪いとかならともかく、理由もなく席を替わるわけがないだろ。目が悪そうにも見えないけどな」

 背中から圧力をかける女子をちらりと見て僅かに笑みを浮かべる。

「女子に頼まれて断れないならそう頼めばいいだろ。オレの身長が低いからって圧力でどうにかなるとでも思ってるなら残念だったな」

「てめっ……」

 話しは終わったとばかりに視線を反らす彼に男子生徒が掴みかかろうとした。その手が彼に触れるより早く立ち上がった彼は勢いよくその生徒の腹を蹴りつけていた。

 ガタガタと机の倒れる音と呆然と彼を見上げる男子生徒と、妙に静かな教室が印象的だ。

「ウザイ」

 大勢の視線にさらされながら表情ひとつ変えずにそういいきり、何もなかったかのように座る彼をついじっと見つめてしまった。

 チワワにしてもちょっと攻撃的かもしれない。

「……何?」

 僕の視線に気づいたのか睨むような視線を向けてくる。

 とくに用があったわけではないんだけど。

「僕、寒がりでさ。そっちと変わってくれないかな」

 さっきの生徒と変わらない理由にもならない理由を口にして窓際なので日の当たっている彼の机を指差す。

 さっきの今なのでさすがにクラスの空気がぴんっと張り詰めている気がする。

「……中身移動させるの面倒だから机ごとでいいよな」

 むくっと立ち上がった彼は当たり前のように机と椅子をずらし始めた。

 それをついぼんやりと見つめてしまう。

「何? 変わるんじゃねぇの?」

 不思議そうに言われて僕も机と椅子を動かし始める。別に本当に変わって欲しかったわけではなかったんだけど。

「あ、うん。ありがとう」

「別にいい」

 後ろの端の角に執着していたわけでもないらしい彼は何事もなかったかのように席に着く。

 自分よりも一回りも小さい相手にあっさりと蹴り倒されて恥ずかしそうにさっていく同級生も、妙な理由で席を替わってもらった僕のこともどうでもいいように。

 まだ人となりも解らない時にそんなことをやってのけた彼は仕方ないのかもしれないが遠巻きにされている。実は不良でとか、ヤクザの知り合いがとか根も葉もなさそうな噂が流れても興味がなさそうだ。 

 だからといって人付き合いが悪いというわけでも友達がいないわけでもない。話しかければ返事はするし、別のクラスの男子生徒がよくやって来ては連れ出されているのを見かけていた。

 いつも少し困った顔であまり楽しそうではないのが印象的だったが。

 取っ掛かりがなくてほとんど話しをしないまま時間だけが過ぎて、ある日、生徒会室に向かう途中の廊下でいつも彼のところにきている男子生徒に目が留まったのもほんとうに偶然だった。つい何気ない顔で側の教室に隠れたのは偶然ではなかったが。

「お前、今日の合コン平気なの? 掃除当番だっんじゃね」

「平気平気。親切な奴が変わってくれるからさ」

「ああ、あいつな。まったく断らないんだろ?」

「そうそう、もしかして俺のことが好きなのかもな。キモッ」

 ゲラゲラと笑いながら言われる会話をぼんやりと聞く。

 なんとなくイラッとするのはなぜなんだろう。別に友達でもないというのに。

 不思議に思いながらも僕は無意識に小さな人影を探しながら歩いていた。いつも気づくと目に入るというのに探すと見つからないことにますますイラつく。

 それでもいつもの人当たりのいい顔のまま生徒会の仕事を終えて忘れていたカバンを取りに帰った僕の前に扉から出てくる背の小さな背中が見えた。

宇佐美うさみっ」

 名前を呼べば立ち止まりゆっくりと振り返る。

 三白眼ぎみで睨んでいるように見える瞳でじっと見つめてくる。目がどうこうというより目をまっすぐに見る彼の癖のせいで睨まれているような気になるのかもしれない。

「何か用?」

「今日は遅いんだね」

「ああ、掃除してたから」

「今日は掃除当番じゃなかったよね」

「そうだな」

 会話という会話も続かないままシンッと言葉が止まる。

「君に掃除を頼んだらしい子が遊びにいくって言って帰っているのを見たよ」

「……そう。用がそれだけなら帰る」

 すっと何もなかったかのように背を向ける彼の姿になぜかイラついてその肩を掴んでいた。

「いつも頼みごとを聞いているんだろう。そいつはまったく感謝なんてして……」

 僕が言い終わる前に彼の手が僕の口元を抑えていた。

「本人のいないところでそいつのことを話すのは好きじゃない」

「……ああ、そうだったね。ごめん」

 まっすぐに向けられる瞳は少し困った色を浮かべていた。廊下でぶつかったあの時もこんな表情だったからあの時も本当は困っていたのかもしれないと僅かな表情の違いに気づくようになって思う。

「肩……痛いんだけど」

「あ、ごめん」

 肩を掴んだままだった手を慌てて離す。

 すると何もなかったかのように彼はあっさりと背を向けて行ってしまう。

 どうして気になるんだろう。

 ただのクラスメイトで隣の席というくらいしか接点がないというのに。

 ……どうして、手を離したくないなと思ったんだろう。

 じっと自分の手を見つめる。


----------


 そんなことがあった次の日も当たり前のように廊下で見かけた男子生徒は宇佐美のところにやってきていた。

 まぁ、ばれているなんて知らないのだから当然かもしれないが。

 呼ばれるままに廊下に向かう彼も彼だと思う。

 妙にイラついて彼の後をついて廊下の扉の側に移動した。こっそり立ち聞きというのもウザイといわれてしまいそうだったので遠慮なく宇佐美の肩の上から腕を回して背中に持たれかかる。

「宇佐美。頼みがあるんだ。今日……」

 彼に話しかけていた男子生徒が呆然とした視線を僕に向けてくる。

「何か用?」

「気にしなくていいよ。ちょっともたれたくなっただけだから」

「他の女子にでも持たれたほうが喜ばれると思うけど」

「それだとセクハラになるでしょ」

「ああ、そうだな」

 それで納得したのか淡々とした会話の後軽く頷くだけでそれ以上抵抗するでもなく宇佐美は男子生徒へと視線を向けた。

「で、用事は?」

「え、あ、あの……」

 僕が気になるらしくちらちらと視線を向けるものの、僕は無視するし宇佐美は気にしてないらしいので、用事を済ませることにしたらしい。

「昨日先輩から頼まれた用事が終わらなくてさ。今日も手伝いに行くことになったんだよ。だから掃除をかわってくれないか」

「そう。いい……」

 宇佐美が返事をする前に昨日と反対にその唇を手で塞いでしまう。

「なんだよ」

「君の先輩からの用事って合コンのことなのかな。昨日廊下で楽しそうに話していたのを聞いたんだけど」

 人当たりがいいと評判の顔でにっこりと笑って言ってみる。

 本人がいないところで話はしたくないということは本人がいればいいということだろう。

「お前には関係ないだろ」

「関係ないけど、僕はウソ付きは好きじゃないんだよ」

 僕と彼との会話を宇佐美は黙ってきいている。まぁ、口元を塞いでいるんだから黙るしかないのかもしれないが。

「理由なんてどうでもいいだろ。宇佐美が好きで俺の頼みを聞いてくれるんだから」

 食って掛かる彼をじっと見ていた宇佐美は黙ったまま僕の手を口元から引き剥がし、何もなかったかのように教室へと戻ろうとした。

「宇佐美っ」

「理由が何でも構わないが、オレも嘘をつかれるのは好きじゃない。他の奴に頼むんだな」

「なんだよ。友達じゃないか。いつも頼みを聞いてくれただろ」

「……暇だったからな。頼みがあるなら今度はオレがきいてもいいと思える本当の理由を持ってくるんだな」

 振り返りもせずに言い切る言葉に男子生徒が顔を赤くする。

「お前が一人でハブられてるから相手をしてやってたんだろ。偉そうに言ってんじゃねぇよ」

「そうか。それは悪かったな。なら、もう構わないでくれ」

「てめっ……」

 掴みかかろうとする男子生徒の前に僅かに身体をずらして立ちふさがる。にっこりと笑いかければ戸惑った視線を向けられた。

「あまりここで騒ぐと迷惑だと思うよ。めだっているし」

 ちらりと周囲に視線を向ける僕に釣られるようにして廻りを見回した男子生徒は真っ赤になったままあっさりと逃げ出してしまった。

 そして、クラスで同じように見られている当人は平気な顔で自分のカバンから膨らんだ紙袋を取り出すとまた僕の方へと歩いてきた。

「邪魔」

「ああ、ごめん」

 そっと横に避けてそのまま歩いていく宇佐美の後を付いていく。話しかけないままに、合間に先輩とアイサツしてくる下級生に手を振ったり、一緒に食べようと誘ってくる女生徒に断ったりしながら後に続く僕に視線を向けないままもくもくと歩いていた宇佐美は屋上の扉の前まで着いたところでやっと足を止めた。

「何の用?」

「宇佐美と昼が食べたいなと思ったからついてきたんだよ」

「女子が一緒に食べようって騒いでたけど」

「僕は宇佐美と食べたいから断ったよ」

「そう」

 いてもいいとも悪いとも言わないまま扉を開けて歩いていく宇佐美の後に付いていく。日の当たるフェンスの側にぺたりと座った宇佐美はごそごそと紙袋を開け中へと手を入れた。

「カレーパンとチョココロネとイチゴメロンパンとどれがいい?」

 視線も向けずに訊ねられて一瞬首を傾げる。

「分けてくれるのかな?」

「一緒に食べるんだろう?」

「なら、遠慮なく貰おうかな」

 口調はキツイが嘘も社交辞令もないのはいい加減わかっているので遠慮せずに袋を覗き込む。妙に選択肢が甘口なのは宇佐美が甘党だからだろうか。

「宇佐美はどれが一番好き?」

「……イチゴメロンパン」

「なら、チョココロネを貰おうかな」

「わかった」

 袋から紙に包まれたチョココロネが差し出される。それを受け取るのを待ってカレーパンを取り出した宇佐美がそれを二つに割り半分を差し出してくる。

「これもやる」

「宇佐美の昼ごはんがなくなるよ」

「別にいい。今日は早く帰れそうだから足りなかったら食べて帰るし」

「そう。なら、遠慮なく。あ、帰りはお礼に僕が奢るからね」

 カレーパンを受け取りながらそういうときょとんと珍しく目を丸くして僕を見つめていた。

「なんで?」

「お昼ご飯を分けてもらったからかな」

「……そう」

 たぶんなぜ一緒に食べることになってるのかと聞きたかったのだろうが、僕の返事に納得したように顔の向きを戻してもふもふと半分のカレーパンを食べ始める。

 こういってはなんだが宇佐美を見ていると心配になる。

 言ったことをそのまま信じて、嘘もつかずに素のままで、警戒心もなさすぎる。

 小さいけれど見た目がキツイのとはっきりと本音を言い、それなりに手も早いので怖いと敬遠されてはいるが、僕が悪者だったら宇佐美なんて簡単に騙せてしまえる。

 こんなので世間を渡っていけるのかと心配になってしまう。

 こういうのを父性本能というのだろうか。

「さっきの彼は友達?」

「……オレは友達だと思ってる」

 過去系じゃないのが少しイラッとする。

「宇佐美って騙されやすそうだよね」

「……初めて言われた」

「まぁ、宇佐美は見た目も口も悪いし、遠くから見てたらそうは思わないかもしれないね。騙そうと思ってる人は騙す相手にそんなこと言わないだろうし」

 いつもは思っても適当に嘘をついて誤魔化す本音を口にする。

「確かにそうだな」

 予想通り失礼な僕の言葉に怒りもせずに宇佐美は小さく頷いている。

「でも、困った顔をしながらも友達に頼まれたら断れない宇佐美は優しくていいと思うよ」

「……そんな顔をしていたか?」

「ほんの少しだけどね」

 僕のようにずっと見つめていないとわからないくらいほんの僅かな感情。

 カレーパンを食べ終わり、次にイチゴメロンパンを口にした宇佐美の口元が僅かに綻んだ。

「……イチゴが好きなんだ。可愛いね」

「なん……で」

 驚いたようすで向けられる表情が楽しい。あまり変化はないもののくるくると変わる表情に胸が高鳴る。

 この僕が宇佐美の表情を変えさせているんだ。どこかの誰かではなく。僕が。

「メロンパンが好きならそんな変わったのを選ばないだろ」

「ああ、そうだな」

 僕の説明に納得したのか俯いて食べ始めた宇佐美の頬が僅かに火照っているのを見て小さく唾を飲んでいた。

 可愛いわけでも、美人なわけでもない。少し小さいが僕と同じ男でしかない宇佐美の嘘のつけない表情に胸が高鳴る。

 本音しか見せない宇佐美の嘘や偽りのない感情をもっと見たい。

 笑い顔や泣き顔や困った顔も全部。

 押さえつけて乱暴したらどんな顔をするんだろう?

 つい延びそうになった手をぐっと握り締めて耐える。

「何?」

「……宇佐美って面白いから側で見ていたいな。僕と友達になってくれる?」

 にっこりと人当たりのいいのが自慢の笑みを浮かべる。

 一瞬驚いた後、パンを咥えたまま小さく頷いた。

「よく分からないが、わかった」

 戸惑ったようすながらも頷く彼に優しく笑いかける。

 まずは優しくして、安心させて逃げられなくしなくては駄目だ。切り捨てられるような甘い関係では苛めたら逃げられてしまうかもしれない。

「宇佐美のことは僕が守ってあげるから安心していいよ」

「あ、ああ」

 大事に大事に囲って嘘のつけない不器用さごと守ってあげよう。その代わり宇佐美の全部は僕のモノだ。

 僕はあの人とは違うから途中でばれる嘘なんてつかない。全部本気で本音のままに騙して、取り込んで、頭の先から足の先まで全部僕の色に染め上げて一生守り続けてあげる。

 けれど、まだ僕の力が足りない。

 閉じ込めて守るにも子供の僕ではできることは限られている。だから土台ができるまでは優しい友達のふりをして宇佐美に近づく人もモノも全部壊して、準備ができたら頭から全部食べてあげよう。

「食べかすがついてる」

 ぺろりと口許を舐め上げればびくっと僅かに身体が震えた。

「自分で取れる」

「つい気になったんだよ」

 だから今は味見だけで我慢しなくちゃダメだよね。

 くすっと無意識に浮かぶ笑みをそのままに笑いかける。分からないまま僅かに笑う宇佐美を優しく見詰めたまま黒い黒い感情を今だけ檻に閉じ込めた。

 ほんの少し先の未来まで……檻の中で眠らすために。

ヤンデレ成分多めです。

おかしいな。攻め書くと気づくとヤンデレに……なぜだろう。

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