その寝言は、愛の残響のように【なろうラジオ大賞6】
「おはよう、また寝言言ってたぞ」
目を覚ますと、彼が隣で笑っていた。
澪は夢現な頭で彼の顔を見上げる。
「何て言ってた?」
「内緒」
そう言った彼が優しく頭を撫でる。
いつも通りの朝。
なのに、ずっと胸の奥で何かが引っかかっているような違和感があった。
寝言を指摘されるのはこれで何度目だろう。
彼がここに来てから、毎日のように言われるようになった。
「変なこと言ってない?」
「言ってないよ」
そう言う彼は、いつもどこか儚くて苦しそうだ。
でも彼はそれ以上何も言わないし、澪もそれ以上聞けずにいる。
胸の違和感は消えなかった。
その夜、澪は寝言を録音することにした。
胸の違和感と彼が内緒にしていることが、きっとこれでわかるはず。
スマホを横に置いて、眠りについた。
翌朝。
隣に彼の姿はなかった。
「もう起きたのかな……」
そう呟きながらスマホを手に取り、録音データを再生する。
寝息が続くと、ある瞬間から自分の声が聞こえ出す。
『行かないで……。一人にしないで……』
明らかに泣いている。
何度も繰り返されるその言葉に、胸がざわついた。
「澪は夢の中で泣いてるよ。毎晩、ずっと」
彼はいつの間にか目の前で立っていて、そう呟いた。
その瞳には深い哀しみが宿っている。
「俺は、もうここにはいない。俺が事故に遭った日……あの日、俺は死んだんだ」
澪の目が大きく見開いていく。
そんなはずはないと、頭の中で何度も彼の言葉を否定する。
なのに、彼のその言葉が閉じ込めていた記憶を徐々に呼び起こしていく。
最後に見た彼の死に顔は、とても綺麗だったと思い出した。
「やっぱり、嘘じゃないの……?」
否定してほしい、そう思いながら震えた声で尋ねても、彼は優しく微笑むだけだった。
「澪はもう、悪い夢から覚めた。だから、これで終わりみたいだ」
彼はそっと澪の頬に触れる。
彼の温かかった手の感触は、もうとっくから感じていなかった。
「澪の笑った顔が好きだった。もう泣かないで。最後だから、笑って」
澪の目からは大粒の涙が零れていた。
その涙を指で拭う彼の姿が消えていく中で、澪は精一杯の笑顔を作った。
また寝言を聞けば彼に会えるかもしれないと、録音していた寝言を再生する。
ふとスマホからノイズ混じりに彼の声が聞こえた。
「今までありがとう……。元気で。幸せになって。澪、笑って……」
何度巻き戻しても、もう自分の寝息しか聞こえなくなっている。
彼女はスマホを握りしめながら、静かに涙を流していた。
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