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第1話

「お初にお目にかかりまする。このような高みからのご挨拶、どうかご無礼をお許しくださいますよう――」


 レクタ島の港町イスティユを眼下に望む丘の頂。町の守護神であり、神々の王でもある太陽神リュファトを祀る神殿の前で、俺は四人の神と向き合ってた。

 神は神でも、地上に住むあらゆる種族が恐れる冥界の神々と。

 今イスティユにいる七人の神が、俺に会いたがってる。そんな話をアステルから聞いたのが、つい先程。連中と話せば、サーラにかけられた呪いを解く方法がわかるかもしれねえ――そう思って丘を上ってきてみりゃ、たどり着いた頂で死の神々と出くわすなんざ、縁起でもねえぜ。

 ここまで案内してくれたアステルの話じゃ、七人の神のうち三人は軍神ウォーロと風神ヒューリオス、それに海神ザバダらしい。いずれも俺やデュラム、サーラがすでに二度――一度目は半年前にシルヴァルトの森で、二度目は先日コンスルミラで――会ってる神様だ。

 そんな顔見知りの神が相手なら、まだ話もしやすいってもんだが、残る四人の神と会うのは今回が初めてなんだよな。それぞれどんな神様なのか、アステルからも聞いてなかったんだが……まさか四人そろって死神とは、完全に予想外だぜ。


「約束は守ってもらいますよ、カーメイさん」


 俺の前に、アステルが進み出た。神殿の周囲を取り巻く列柱に支えられた、緩やかな傾斜の切妻屋根――その上からこっちを見下ろす四人の死神を、怯むことなく毅然と見返してみせる。


「フランメリックさんには、手を出さない。話をするだけだって、約束しましたよね?」


 流れるような金髪、深い青に金の粒が散る青金石(ラピスラズリ)の瞳。身にまとう濃紺の甲冑が不似合いに思えるような、柔和で繊細そうな美少年だ。けど、その正体は神々の王、太陽神リュファトの三男坊――星の神ロフェミスなんだよな。

 夜空に星をちりばめる神様は、俺をかばうように前へ出て、死神たちと対峙した。こっちを肩越しに見やり、


「心配しないでください、フランメリックさん」


 そう言って、安心させるように、目尻を下げてみせる。


「カーメイさんたちは、あなたとお話がしたいだけですから。それに、万一のことがあっても、あなたはぼくが守ります」

「アステル……」


 ありがてえ。けど……最後のせりふはどっちかって言うと、好きな女の子に対して言うもんじゃねえのかよ? と、心の中で密かに突っ込む俺。

 一方、自ら矢面に立ったアステルに対する死神たちの反応はと言えば、


「もちろんですとも、アステル……いえ、ロフェミス神。輝かしき太陽神の御子にして、夜空に瞬く星の君よ」


 首領格らしい、背の高い死神――アステルがカーメイって呼んだ奴――が、薄気味悪い笑みを返してきやがった。


「冥界を流れる大河にかけて、我らはただ、フランメリック殿に主の望みを伝えにきただけにございます。それに応じられるか、お断りになられるかはフランメリック殿次第にございますゆえ、こちらからは無理強いなど決していたしませぬ」

「そうそう。あたしらからは決して、ねえ」


 首領の傍らに控える別の死神が、今にも舌なめずりしそうな顔して言う。


「申し遅れましたが、私めはジュスカーメイ。冥界の王ヴァハル神にお仕えする死神の一人にございます。どうか短く、カーメイとお呼びくださいますよう――」

「あたしゃドゥザーボだよ」

「おれはナキシル」

「私、イシュレイナ」


 首領にならって一人一人、名乗りを上げる死神たち。連中、声色や口調から察するに、四人のうち二人は女神らしい。


「……主の望みって、一体なんだよ?」


 アステルの後ろから前へ進み出て、俺はたずねた。


「下がっていてください、フランメリックさん」

「大丈夫だぜ、アステル」


 心配してくれてるのか、小声で呼び止めてくるアステルに、ぱちっと目配せ(ウィンク)してみせる。

 星の神様の親切はありがてえが、甘えちゃ駄目だ。なにしろ俺は、決めたんだからさ。神々の助けをあてにしねえで、自分にできることをするんだって。

 アステルより三歩、前へ出る。いざってときのために、右手は剣の柄にかけ、いつでも鞘を払えるようにしておいた。


「先ほど申し上げました通りにございます、フランメリック殿」


 アステルからこっちへ視線を移して、ジュスカーメイと名乗った死神の首領が言う。


「我らが主ヴァハル神は、貴殿とお近づきになりたいとご所望にございます。ゆえになにとぞ、あなた様自らのご意志で我らとご同行くださいますよう……」

「駄目ですよ、フランメリックさん!」


 背後で上がるアステルの声が、警鐘の響きを帯びた。


「ヴァハルさんがいるのは冥界の奥深く――正真正銘の、死者の世界です。生き身のフランメリックさんが行けば、二度と戻ってこられません。だから……!」


 絶対に行っちゃ駄目だって、星の神様は言外に訴えてくる。


「本当によろしいのでございますか? 主の招きを、お断りになられても」

「人間の坊や、あんたらのことは、星の坊ちゃんから聞いてるよ。なんでもあんたのお仲間、呪詛に身を蝕まれてるんだってねえ。おお、かわいそうに……」

「呪詛とはすなわち我らが主、冥界の王たるヴァハル神の力を借り受け、それをもって相手に災厄をもたらす魔法のことだ」

「ということはすなわち、呪詛の源となる力をお持ちのヴァハル神であれば、当然かけられた呪詛を解く術についてもご存じでございましょう」

「さあ、どうするね? あたしらと一緒に冥界へ来れば、あのお方から解呪の術を、あるいは教えてもらえるかもしれないねえ」

「……っ!」


 この連中、俺を釣ろうと、目鼻の先で餌をちらつかせやがる。


「それともう一つ、耳寄りな話をいたしましょう」


 しかも、一つのみならず、二つもかよ。


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