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第11話

 声の主は、神殿の中から歩み出てきた。一歩一歩、ゆったりとした足取りで。

 褐色の身に、のど元から足首までを包み込む、真っ白な長衣をまとった金髪の美少女だ。腰には帯の代わりに黄金の鎖を緩く巻き、両の手首にゃどこか手枷めいた金の腕輪をはめてる。夢見るような、うっとりとした琥珀(アンバー)の瞳でこっちを見ながら、むき出しの肩を揺らして歩いてくると、


「わたくしはメイメア。この神殿でリュファト大神にお仕えしている巫女ですわ。お待ちしておりました、勇者フランメリック様」


 なぜだか俺の前で足を止め、にこりと相好を崩してみせた。可憐な小鳥みてえに、ちょいと首を傾げて。

 俺の名前を知ってたのも意外だったが、それ以上に驚かされたのは、名前の前につけられた一語。


「は……? ゆ、勇者?」


 俺のことを、まるで神話や伝説の英雄であるかのように、そう呼んだことだ。

 いきなり出てきて何言ってるんだ、この人は。


「そう、勇者。あなたこそ、冥界に捕らわれたリュファト大神をお救いし、闇に閉ざされつつあるこの世界に光を取り戻す運命にある御方。わたくし、あなたがお越しになるのを心待ちにしておりました」

「巫女様? 勇者とはまさか、先日の神託にあった、救世の――?」


 神官様が、はっと何かに思い当たった様子で美少女――神官様は「巫女様」って呼んでたな――を見やり、それからこっちへまじまじと、驚きと疑いの眼差しを向けてくる。


「はい、間違いありませんわ。顔立ち、身なり、二人のお仲間――いずれもリュファト大神が夢でお示しになった通りですもの」

「ちょっと待ってくれよ。俺が勇者って……一体どういうことだよ?」


 俺が困惑してるのを見て取ったようで、巫女様は思い出したように、ぱっと顔を赤らめた。


「わたくしとしたことが、事情をお話しもせず、申し訳ありません。突然のことで驚かれたでしょう? さあ勇者様、ひとまずこちらへ――神殿の奥にて、おくつろぎください。ここでは落ち着いてお話もできませんから」


 そう言ってこっちに背を向け、すたすたと歩き出す巫女様。


「……どうする? ついて行ってみるか?」

「もちろん♪」


 小声で問う俺に、魔女っ子がぱちっと目配せ(ウィンク)して即答する。


「お前って、本当に物怖じしねえよな、サーラ」


 今さらながら、そう思う。

 以前、シルヴァルトの森でおっさん――神々の王、太陽神リュファトと出会ったときだって、人間離れした強大な力を持ち、不思議な雰囲気を漂わせるあの人を相手に、気後れした様子もなく名乗ってたし。別のときにゃ、俺の剣やデュラムの槍が通用しねえ火の神メラルカに真っ向から挑み、しかも魔法で互角に渡り合ってた。怒れる雷神ゴドロムの気を惹きつけようと、一糸まとわねえ姿で平然と、神の前に立ったこともあったよな。

 胆が据わってるのか、怖いもの知らずなのか。けど……そんなサーラがいつもそばにいて、時に前へと引っ張ってくれるから、俺はここまで来ることができたんだろうな。


「デュラムも……アステルも、いいだろ?」

「はい。ぼくも、あの巫女様と話してみたいです。父上が冥界に捕らわれたことを、どうして知ってるのか気になりますし」

「ふん……そもそも神殿(ここ)を訪ねるよう提案したのは私だからな。ここまで来て反対する理由はない。だがメリック……相手が人間だからといって、気は抜くな」

「わ、わかってるって!」


 デュラムの言う通り、油断は禁物だろう。初対面の巫女様が何を考えてるのかは全然わからねえし、気を緩めることはできねえ。けど、ひょっとしたら、冥界や呪いに関する手がかりをつかめるかもしれねえんだ。とにもかくにも、話を聞いてみよう。

 そう考えた俺は、巫女様の後に続いて、入ることにした。

 昨夜は神々に招かれ足を踏み入れた神殿の中へ、今度は仲間たちと一緒に。


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