おいしいよ!
「なんかこのおひたし、味しなくない?」
「ホントだ…でもまあ、しょうゆ足せばイケるイケる!」
「なんかこのアイス、甘すぎるよ…」
「ホントだ…でもまあ、アフォガードにしたらほら、おいしいよ!」
「なんかこのたこ焼き、生焼けっぽいけど…」
「ホントだ…でもレンジでチンしたらおいしくなった!
「なんかこのチョコ、ぼそぼそしてる…」
「ホントだ…でも溶かしてミルクで割ったらおいしくなったね!」
「なんかこのビスケット、全然甘くない…」
「ホントだ…でもティラミスの底に敷いたらおいしい!」
「なんかこのカレー、辛すぎて食べられない…」
「ホントだ…でもとろけるチーズと牛乳入れて煮込んだら食べられるよ!」
「なんかこのホットケーキ、焦げてて苦い…」
「ホントだ…でもカラメルソースとホイップクリームを添えたらおいしくなったよ」
「なんかこのご飯、芯が残ってる…」
「ホントだ…でも雑炊にしたらおいしく食べられたね」
「なんかこのりんごゼリー、信じられないくらい…マズい!!!」
「ホントだ…砂糖と塩を間違えたんだね、でもなんかのスープに混ぜたら食べられると思うよ?」
どちらかと言えば料理が苦手で、ちょっとドジっ子だったママは、絶対にマズいという言葉を口にしなかった。
「マズいなんて言ったら食べ物がかわいそうでしょう、そんなこと…言っちゃダメ!!」
どんなに美味しくないモノでも、おいしく食べようという努力をした。
どんなに失敗したモノでも、おいしく食べて終われるように手間を惜しまなかった。
私は、ずっと…美味しくないものはおいしくないと言いたかった。
めちゃめちゃマズかったものが、ちょっとしたひと手間で普通に食べられるようになったとしても…それは工夫が功を奏しただけであって、本来はマズい代物でしかないというか……。
でも、ママがにっこり笑って、「おいしかったね!」と言えば。
私は、「おいしかったね」と、にっこり笑った。
……私は、ママが、大好きだったから。
私は、おいしくないものはおいしくないのだと言えるようにならなくてもいいかなと、思うようになった。
おいしくないものはおいしくないのだと言えるようにもなりたいなと思ったけれど、幸いなことに、おいしくないものに出会う事がないまま…時間は過ぎて行った。
「ねえ…これ、ちょっと味が薄くない?」
旦那に、ぼそりと…言われた。
「お醤油を足したらおいしくなるよ!」
私は、にっこり笑った。
「お母さん、なんかお好み焼きの中が…白いけど」
息子に、ぼそりと…言われた。
「ソースを塗ってレンジでチンしたら…うふ、おいしい!!」
私は、にっこり笑った。
「お母さん、シュークリームのシュー、膨らんでない…」
娘に、ぼそりと言われた。
「クリームをすくって食べると斬新でおいしいよ!!食べてみて!!」
私は、にっこり笑った。
「ホントだ、おいしい!」
「アツアツでおいしいよ!」
「サクサクで…おいしい!!」
家族もみんな、にっこり笑ってくれたっけ。
「ばあちゃん、これ、食べてみて……?」
孫が差し出してくれたのは、おかゆ。
「熱くないからね、大丈夫だよ…、軟らかく煮てあるの、はい、アーン」
あたたかいおかゆが、口の中に……。
もぐ、もぐ……、もぐ……。
「急がなくていいからね、ゆっくり食べようね」
味がしないような気はするけれど……、にこにこと笑ってるのが、見えるから。
このおかゆは、とってもおいしいおかゆで…決まりね。
「優しい味がして、おいしいねえ……」
私が、にっこり笑うと。
みんなも……、にっこり、笑った。