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第五章 崩壊(5) 陥穽

 ザクロスはバルハードを追いプリンツの勢力下に入った。どういうわけか肩の負傷は既にそれ程気にならなくなっていた。それにどれだけ走ろうと息も切れない。

 黒い疾風のような彼の姿に武器を向ける者達を薙ぎ倒し、バルハードが去ったであろうギャロを目指す。

 そんなザクロスの前に一人のしわくちゃの老婆が現れた

 「何処に行きなさる。」

 ザクロスは答えもせず走り過ぎようとする。

 「待たらっしゃい。

 死の臭いがする。」

 その言葉にギクリとし、ザクロスは立ち止まった。

 「お前さんどれだけの命を殺めた。

 その鎧は幾人の血を吸って居る。」

 そんな事かとザクロスは舌打ちをした。

 「脱ぎなされ、その鎧を。

 捨てなされ、その兜を。

 怒りと憎悪を身に纏って居るときにはその鎧はお前さんの味方にもなろうが、いずれはその身を亡ぼすもの。

 早々に捨てなされ。」

 「ごめん。」

 ザクロスは何とはなしにその老婆に頭を下げ、その場を去ろうとした。

 その目の前で、老婆が光に包まれ、

 「道に迷いし時、儂を求めなされ。

 儂はいつもお前さんと共にある。」

 と、意味不明な言葉を残し、老婆は消え去った。

 今のは・・・老婆の事を考える。と、ズキッと肩の傷が痛んだ。それはザクロスにバルハードに対する壮絶なる復讐心を思い起こさせた。

 走る、走る・・走る。

 血祭りに上げるべきバルハード。その姿を追い求め、遂にプリンツの聖都ギャロに入った。が、ようとしてバルハードの行方は解らない。

 ギラギラと殺気だった目で街中をうろつくザクロスをプリンツの兵が怪しみ、誰何する。渡りに船とばかりにザクロスはその兵を捕まえた。

 バルハードの行方を尋ねる。その兵は知らないと言う。背格好を伝えても見た事もないと言う。業を煮やし兵の肩に槍を突き刺し抉る。それでも答えは同じ。

 (道に迷いし時・・・)

 兵士の死骸を下に見ながら、ザクロスは老婆の言葉を思い出した。

 「どうなさったかな。」

 後ろからする声に振り向くとそこには以前とは違う老婆の姿。

 「道に迷いなすったか。」

 その言葉にザクロスが頷く。

 「お前さんが探す者はここにはいない。

 その者はポルペウス奥の院・・そこにいる。」

 それだけを言うと老婆は漆黒の煙の中に消えた。

 ポルペウス奥の院。そこは一人の司祭が民衆を集め立て籠もっているという。そんな所へなぜ・・・バルハードはプリンツの回し者ではなかったのか。微かな疑念を振り捨て、ザクロスは聖なる山と呼ばれるポルペウスへと歩を進めた。


 「そろそろ到着する頃ですかな。

 力を試したいものです。」

 司祭が言うとその横から一体の魔物が飛び立った。


 ザクロスの前に腕の代わりに羽根を生やした若い女が降り立つ。その足は鋭い爪を持った鷲の足。

 「魔物か。」

 ザクロスが吠える。

 「そこをどけ。」

 羽根を持った魔物フリアイは金切り声を上げ中空から襲いかかってくる。

 ザクロスは青銅の爪の攻撃を盾で受け、魔をも屠る槍グラーシーザーを繰り出す。始めはそれを躱していた魔物もザクロスが槍を繰り出す速度について行けなくなり。徐々に追い詰められていく。

 そして・・槍の穂先が魔物の体を貫いた。

 魔物がボロボロと崩れ、黒い灰になり一陣の風で吹き飛んだ。


 「使える。」

 魔鏡に映るその光景を見ていた司祭は一言漏らし、

 「歓迎の準備をしておきなさい。」

 と、その横に立つバルハードに命じた。


見上げる先に見えるのはポルペウス奥の院。振り向けば従来のポルペウス宮殿を見下ろし、遠くランドアナ高原から、ロンバルギア平原までが見渡せる。

 あそこに憎きバルハードが居る。ザクロスは足を急がせた。

 奥の院の門の前、黒ずくめの三人の兵士がザクロスの前に立った。その姿にザクロスが槍を撫す。

 「お待ちしておりました。」

 その後ろに立つ司祭の言は意外なものだった。

 「貴方が憎むバルハードは捕らえています。

 存分にお扱いください。」

 司祭の後ろを奥に向かって進むザクロスの前に光が立つ。

 「お前さんの目的はこんなものだったのかい。」

 老婆が苦々しげな顔をする。

 その隣りには漆黒の煙。

 「復讐を果たすのも一つの目的。違ったかい。」

 もう一人の老婆。

 その間の時間が止まっているのか誰もが凍り付いたように動かない。

 二人の老婆が向き合い、光る目と闇の目で睨み合う。

 「邪魔ですよ。」

 動かない者達の中から司祭だけが向き直り、空中に呪を切ると、光に包まれた老婆が長い悲鳴を残して崩れ去った。

 「さて行きましょうか。」

 再び流れ出した時と共に司祭がザクロスを促した。

 不思議な事に先導する三人の黒ずくめの兵士と後ろから歩く司祭、その他には人影を見なかった。

 大伽藍を通り奥の会議室を通り過ぎると長い廊下。その奥にまた一つの扉がある。その扉はウネウネとした筋肉のような根が張り付いている。

 音もなく扉が開く。そこもまた伽藍。正面の異形の神の像の下、ザクロスをここまで(いざな)った司祭と全く同じ姿形のもう一人の司祭が立っていた。

 「ザクロス・・さんですか。

 貴方が探しているものは全てここにあります。

 この神の下に。」

 司祭は神と呼ぶ像を見上げた。

 「我等の神の名はルグゼブ。

 全てをかなえる全能の神です。

 その前では全てのものが平等です。」

 言葉の終わりと共にザクロスは石床から伸びた触手に捕らえられた。

 「なにを・・・」

 もがくザクロスの前に神の座像の後ろからバルハードが現れた。

 「全ては貴方をこの世のしがらみから解き放つため、我等が仕組んだ事です。」

 目の前の司祭が語りかけ、後ろから横に回った司祭が鏡をかざす。

 身動きの出来ぬザクロスの前の空気が歪み、そこに現れたのは一つの光景。

 素裸で大テーブルに括りつけられたクローネにガイが覆い被さっている。

 そこに入ってきたのが、バルハードとエイゼル。

 そう、クローネとザクロスの子供が殺害された光景だった。

 ザクロスは閉じられぬ目でそれを見、血が出るほど下唇を噛み締める。

 「私も楽しませて貰いましたよ。」

 過去の光景でなくそこにいるバルハードがニヤリと笑い、クローネの体をあれこれと批評する。

 「き、貴様・・・」

 ザクロスの憎悪が増幅されていく。

 クローネが犯された後に来る光景は、エイゼルがクローネの腹に軽く剣を立てる光景。そして、バルハードがその傷口に手を突っ込み引き裂く光景。

 「止めろーっ。」

 ザクロスの絶叫に反応したか、ザクロスの赤黒い鎧が音を立てて床に落ちた。

 蝙蝠のような大きな羽根を生やした姿に変わった横合いの司祭が、その羽根先の長く鋭い爪をザクロスの両肩に突き刺し、抉った。

 武器による痛みとは違う。その異質な痛みにザクロスが呻き声を上げる。

 そして光景は・・・

 「憎いか・・そして痛いか。

 その憎悪、苦痛、怒り、そして死。それだけが人に平等に訪れる。」

 もう一度繰り返される愛する者達の殺害の光景。

 ザクロスの顔が憎悪に赤紫に染まる。

 「憎め。怒れ。

 その感情がお前をこの世のしがらみから解放する。」

 ザクロスの体に巻き付いた触手から太い針が飛び出し彼の体に音を立てて食い込む。

 ザクロスが苦痛の咆哮を上げる。

 「そうだ。

 それしか無い。

 お前達人間に平等なものは。」

 ザクロスの血が濁っていく。そこに混ざり込んでくるのは触手からの針を通して入ってくる黒紫の新たな血。

 全ての血管が紫に膨れあがり、その圧力に負けたのか真っ赤な血が噴き出す。

 「そうだ。お前は変わるのだ。

 この世にただ一つの平等なものを生けるもの全てに与えるために。」

 ザクロスの首がガックリと前に折れた。


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