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第四章 囚われる(21) 裏切り(2)

 「さあて行くか。」

 エイゼルがバルハードとテッドに声を掛ける。今日もまたプリンツのならず者軍団がランドアナ高原から降りて来ていた。

 訓練されたエイゼルの軍に比べ敵は強くはない。しかし、連日の命を懸ける戦いに疲れは徐々にたまってきていた。

 「そのうちガイがこっちに着くだろう。」

 戦場に赴きながらエイゼルがバルハードに話しかける。

 「そろそろだな。」

 バルハードがニヤリと笑う。

 「作戦をたてようか。」

 バルハードの指示でテッドも呼ばれた。

 「今日の敵は二隊。エイゼルとあんたで先鋒を張ってくれ。俺は後方から援護する。」

 それをテッドもすぐに了承した。戦いに関しては、エイゼルとバルハードは遥かに自分より上だと言う事をテッドは理解していた

 「戦いの事は任せる。宜しく頼む。」

 テッドは頭を下げ自分の隊に帰って行った。

 「大丈夫か。お前が先鋒の方があっさりと片をつけられないか。」

 「訓練だよ、エイゼル。テッドにも一角の将なって貰わなければ困るだろ。」

 バルハードは意味ありげに笑い、後方に引き上げた。

 エイゼルは隊の先頭に立ち、一気に敵を屠っていく。一方テッドは同じように先頭に立ちながらもやや苦戦している。

 「お前達、行け。」

 バルハードは自分の隊にテッドの後詰めを言い渡し、自身は丘の上に残った。

 バルハードはキリキリと弓を引き絞った。その狙う先は・・・

 ビンと鋭い弓鳴りと伴に矢が中空を走る。

 「大丈夫か・・・」

 倒れたテッドに仲間が駆け寄る。

 テッドの側頭部には矢が突き刺さっている。ほぼ即死。テッドに反応はない。首領を討たれ一気に隊が浮き足立つ。それを目敏く見つけたエイゼルが自分の隊を寄せてくる。

 「何が起きた・」

 「テ、テッドが矢に撃たれました。」

 テッドの部下が泣き出しそうな声を上げる。

 「こいつを連れていったん引き上げる。」

 エイゼルが抱き起こしたテッドの頭には、一枚の矢羽根に紅い線が入った矢が刺さっていた。

 「これは・・・」

 エイゼルはその矢尻をすぐに折り取った。


 戦野のスローズの元にテッドが戦死した知らせが着いたのは早かった。

 スローズは慌ててガイを呼んだ。

 「ここは俺が収める。すぐにミズールに行ってくれ。」

 ガイは五十人の兵士を連れ大慌てで戦場を離れた。行き先はミズールの西、エイゼル達が戦う戦場のはずだった。だが実際に向かったのはミズールの中心・・クローネが居る屋敷。


 「どう言うことだ。」

 戦場の後方、エイゼルがバルハードに詰め寄る。

 「既に事は動いている。今頃ガイがミズールを制圧し、クローネを虜にしている。」

 「なに・・・」

 「この戦場は放棄する。」

 「後を追われるぞ。」

 「その話もプリンツと協議済みだ。」

 「何を考えて・・・」

 「お前も不満を持っていたはずだ、女に牛耳られる事を。この地の王にはお前がなり、私とガイがそれを補佐する。

 その為の行動だ・・急がねばならん。」

 「・・・・」

 エイゼルが言葉をなくす。

 「全軍にテッドの魂を弔うための退却命令を出すのだ。

 それがお前の役目だ」


 その日の戦いは負けたはずだった。だが、プリンツの軍は追っては来なかった。

 退き上げの最中、エイゼルは全軍にテッドの戦死を口外しないように命令した。それはこの退き上げを敵に乗じられないため、もう一つはミズールの士気の低下を防ぐためと、理由づけられた。

 夜にはエイゼルとバルハードはミズールに着いた。村の人々は今日も勝ち戦と思い込み、花を投げてそれを祝した。

 二人はまっすぐにクローネの屋敷、この村の政治の中心に入っていった。それもまた村人は戦勝の報告と思っていた。

 「ガイはいるか。」

 エイゼルは屋敷に入るなり大声を上げた。その目は血走り、鬼のような表情になっていた。

 「こっちだ。」

 奥の部屋からガイの返事が聞こえる。

 声のする部屋、評議室に入っていくと、猿轡を噛まされたクローネが、素裸で会議用の大テーブルの上に大の字で縛らり付けられたいた。

 クローネは気丈にエイゼルを睨み付ける。その目を直視できないのか、エイゼルはガイを見た。

 「外を収めよ。

 事を口外したものは厳罰に処すると伝えよ。」

 ガイは人が変わったようなエイゼルの目を恐れてか、慌てて部屋を出た。

 「生かしてはおけんでしょう。」

 バルハードがエイゼルに耳打ちする。

 「腹の子も含めて・・・」


 屋敷の外では今日の戦場での事を噂し会う者もいた。だがその声はガイが連れてきた兵士にすぐに塞がれた。

 「武器は全て屋敷の武器庫に入れよ。そして今日戦場に出たものは全て屋敷の庭で別命あるまで待機とする。」

 ガイの大音声が響く。

 屋敷の門は全て武装したガイの部下に固められた。

 その中で一人、今日の出来事に首を傾げる者があった。

 (ガイは既にここに来ているのにザクロスやローグは・・今はペンテンの方が戦いはないはず・・・ペンテンへの連絡は・・・)

 その連絡のため抜け出る事を決心し、辺りを見回す。

 門は既に固められている。他には・・篝火の明かりに目を凝らす。

 一カ所だけ、庭の厠の裏手、その屋根に登ればどうにか外へ・・・

 男は自分の隣の男に挨拶をして何食わぬ顔で厠に立った。

 用を足すふりをし、回りに気を遣いながら臭気抜きの窓に取り付く。そこから屋根へ。

 自分の身長ほどの距離に塀の飾り屋根がある。下にいる兵士の動きを警戒しながらそれに飛び移る。が狭い飾り屋根に上手く立てず塀の外に転げ落ちた。

 塀の中でザワッと人が動く気配がする。

 追っ手を気にしながら走る。飛び来る矢をものともせず走る。

 目的地はザクロスがいるペンテンの村だった。


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