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第四章 囚われる(17) 若き獅子の台頭(2)

 オービタス山地南麓の寂れた村に着いたのはモングレトロスを出て三日目だった。その村はバルバロッサの領域に近い割には荒らされもせず、村人達は平和な生活を送っていた。

村長(むらおさ)は居ますか。」

 アリアスは独りでぐるりと取り囲んだ逆茂木の間の門を入るとすぐに、警戒の目線を見せる村人に声を掛けた。

 「何者だ。」

 長剣を背負い、二本の短剣を両腰に差した男が大声で誰何する。

 「アリアスと言います。モングレトロスから参りました。」

 若者はニコッと笑い、誰何した男はその笑顔に魅了されるのを禁じ得なかった。

 「何をしにこの村に来た。」

男はその感情を打ち消そうと殊更大声を上げた。

 「バルバロッサ退治。その前に情報を仕入れに来ました。」

 「情報・・・それにお前独りで何ができる。」

 怒っているのかそれとも自分の感情を打ち消すためか、男の声がますます大きくなっていく。

 「失礼ですが、お名前は。」

 アリアスがもう一度、ニコッと笑う。

 「オーエン。」

 男はその笑顔に誘われ思わず応え、舌打ちをした。

 「ここはなぜバルバロッサに襲われないのですか。」

 「襲われたさ・・・何度もな。それを村人が一丸となって撥ね除けた。」

 「それでは、指導者が。」

 「戦いのやり方は俺が教えた。

 後は村人の努力だよ。生き残りたいという強い意志と共にな。」

 「それで。」

 アリアスは村の中を見渡し、村人の瞳に宿る強い光を感じた。

 「お前は独りか。」

 「私の村に来ませんか。」

 オーエンの問いにアリアスはとんでもないことを言い出した。

 「何・・・何を言っているんだお前は・・・」

 「モングレトロスに来ませんか、村人みんなで。」

 アリアスは同じ言葉を繰り返した。

 「お前・・何か・・・」

 オーエンは自分の頭をトントンと叩いた。

 ハハハ・・・とアリアスが笑う。その笑いの意味がオーエンには解らない。

 「この村の人達の眼の光は私の村の人々に似ています。何かを成し遂げようという強い光が・・ですから・・・」

 「だから・・・」

 オーエンの頭はいよいよ混乱してきた。

 「戦える人達はどれ位居ますか。」

 「さ、三十人ほどだ。」

 あちらと思えばこちら。会話が成立しない。いや、オーエンが振り回されていると言うべきか。

 「この村はいいですねぇ。」

 また話が変わる。

 「お前は何が言いたいんだ。」

 オーエンが怒ったように言う。

 「本当にいい人達だ。活き活きとしている。」

 その語気を意にも介せずアリアスが言う。

 「もう良かろう。さっさと立ち去れ。」

 「その三十人の人達、私が貰い受けましょう。」

 「何だと。」

 「だから、みんなでモングレトロスに来ませんか。」

 オーエンは思わず背中の剣に手を掛けた。

 アリアスにはそれに怯む様子は見られない。

 「くそっ。」

 本気で斬る気はなかったオーエンが刀の(つか)を握る手が緩んだ。

 「そこまでかな。」

 救いの神というか、その場にこの村の長老が現れた。

 「あんた名前は何と言った。」

 「アリアスです。モングレトロスから来ました。」

 「偉大なる山の民か・・・

 ところで今回は何しにここに来た。」

 「バルバロッサ退治のためオービタス山地を目指していると、ほぼ無傷のこの村が眼に入りました。

 そこでここを根拠地に出来ないかと思って訪ねて参りました。」

 「兵は居るのか。」

 「ここからほど無い所に約二百。」

 「それだけ居れば、ここを根拠とするならば一挙に攻め落とせば良かったろう。」

 「とんでもない。私達は好んで戦いを仕掛けるものではありません。

 それでこのオーエンさんに話していたのですが、このままここで闘えば村人達に塗炭の苦しみを与えます。ですから私達の村モングレトロスに皆さんで来ないかと。」

 「話が飛躍しすぎはしないか。」

 「いいえ、バルバロッサは領土を持たないと聞きます。ですから神出鬼没と言うか手当たり次第に村々を襲っています。その上残忍とも聞きます。

 そこでここいらの何処かにそれと闘う戦士達の根拠地を置き、バルバロッサに圧力を掛けます。北西の地にはフィルリア王国があり、バルバロッサをオービタス山地に押し込むことが可能だと考えます。」

 「それではこの村で無くとも良かろう。」

 「いいえ、この村でなければなりません。すでにバルバロッサに対する備えは出来、その上バルバロッサ達の跳梁範囲に突出しています。つまり彼らを押さえるには最適な地だと考えています。」

 「食料などはどうする。」

 「基本的には自給自足のつもりですが、まわりの村々から頂ける物もあるのではないかと思っています。

 また生産を行うには人手も入ります。その為にこの村とまわりの村々から若い男女を集めます。」

 「簡単に闘うと言うが、この村で闘える者は三十人に過ぎないぞ。それに対するバルバロッサは数知れず。その数でどうやって闘う。」

 「確かにバルバロッサの数は多いと聞いています。が、実際に村々を襲うときに動く人数は百人足らず。時には二、三十人と聞いています。それに対して私は先ほども言いましたが、二百人ほどの戦士を引き連れて参りました。それにバルバロッサとの戦いと知れば、他の村からも有意の者達が集まってきましょう。

 バルバロッサが村を襲う気配を察知しそれを事前に叩くことを続ければ、自ずとこの村に相手の戦力が集まってきます。それと闘うためには村の人達に困苦を味あわせたくない・・ですから私の村に避難をお願いしたいのです。」

 ちょっと待ってくれ。と言って長老は村の奥に引き取った。

 それから小一時間・・・

 「了解した。三日後から移動を始める。

 ただ問題もある。モングレトロスは本当に受け入れてくれるのか。また、その間貴方が連れてきた兵士はどうするのか。

 この二つを訊きたい。」

 「モングレトロスにはこの間に使者を出します。また、この村に動きがあればバルバロッサはそれに乗じて襲ってくるはずです。それに対するためにも私達は村の外で駐屯し、村人の移動の際には人員を半分割き、護衛して行く予定です。」

その夜、長老と村の主立った者達はモングレトロスの戦士宿営地を訪れた。その中には当然オーエンの姿もあった。

 規律正しい戦士達の態度に触れて安心したのか、長老達は安堵の表情で村へ帰っていった。


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