第四章 囚われる(9) 新たな仲間(7)
× × × ×
進み行くワーロック達一行の前に立ちふさがるのは絶壁。
「回り道は。」
ワーロックがドルースを振り向いた。
「三日はかかる。」
「それほど悠長な旅ではない。」
会話を交わす二人の横でアレンがネヴァンを召喚した。
「ネヴァンがロープを張り、俺がそれを岩壁に固定していく。
ミーアとドルースはネヴァンが運び上げることができる。」
「俺もロープを登る。」
体の小ささを馬鹿にされたと思ったのか、ドルースがアレンを睨んだ。
「先に行って警戒に当たる。それがお前の仕事だ。」
それをアレンが睨み返した。
二人の睨み合いの間にロープを運んだネヴァンがドルースをヒョイと持ち上げ、崖の上へ運んでいった。
崖の上は奥に灌木の林がある、思ったよりも広い平地。
その灌木がガサガサと揺れ、それにドルースが背中に担いでいた盾を左手に、槍を右手に身構える。
現れたのは全身が黒い毛に覆われ燃えるような紅い目をした仔牛ほどもある犬。それが後ろ足二本で突っ立っている。
襲い来る爪を盾で弾き、槍で突く。が、刺さったはずの傷はすぐに閉じてしまう。何度刺しても同じ。魔物が大きく前足を振る力強い一撃は盾でガッチリと受け止められる。だが、傷を与えることができない。
「くそ・・・」
槍を地面に突き立て、剣を手に取る。しかしそれも同じ。何処を斬っても傷はすぐに閉じる。
魔物が今度は大口を開け牙で襲いかかってきた。その首の辺りを盾で押さえる。それでも鋭い牙が顔の前まで迫り、カチカチと音を立てる。
渾身の力で魔物の体を後ろに押しやり、大きく開いた口の中に剣を刺し込み、それで魔物の肉を抉った。
「手こずらせやがって。」
ドルースがやっと倒れた魔物の頭を蹴る。その衝撃でか魔物がボロボロと崩れていく。その後ろから拍手が聞こえ、その音に振り向く。
「結構、力が有るじゃないか。」
そこにはアレンが立っている。
「何だと・・馬鹿にする気か。」
「俺は純粋に誉めているだけだよ。
ワーロックから聞いたが、魔物を倒すには特殊な武器がいるらしい。それをお前は普通の武器でやってしまった。大したものだよ。」
二人の大声に誘われたのか灌木がまたガサゴソと動く。
「まだいたようだな。」
アレンが目にもとまらぬ早さでクナイを投げる。頭を突き通された魔物が崩れ落ちる。
「お前の武器・・・」
「お前にも一本やるよ。その体には似合いだろう。」
「何を・・・」
またドルースがいきり立つ。
「ほらほら・・後ろ。」
アレンがからかう様に笑う。
ドルースは大きく飛び上がり体を回転させ、クナイで魔物の頭部を抉る。
「へっ・・貰ったぜ、この武器。」
「クナイという。普通は投げて使うんだがな。」
二人は二匹、三匹と魔物を倒していく。そこへネヴァンがミーアを運んできた。
「ネヴァン、やれ。」
アレンが声を掛けるとネヴァンが振るわす背中の羽根から幾つもの小さな鎌鼬が飛び、魔物達がずたずたに切り裂かれていった。
「おおかた、片づいた様だな。」
アレンの差し出す手に、ネヴァンが吸い込まれる様に戻っていった。
「便利なものだな。俺にはできないのか。」
「ワーロックに訊いてみるがいい。」
「手を貸せ。」
そんな二人の会話に割り込む様にカダイの声が聞こえる。
「行ってくれ。俺はここらを警戒する。」
アレンはドルースに言い、自身は灌木の林に向け身構える。
ドルースはカダイに手を貸し、彼を引き上げその場を頼むと、アレンと同じように灌木に向かった。
カダイの後にサイゼル、ワーロックと続き、全員がその場に揃う。
「何処か野営できる所を探そう。
山の天気は変わりやすい。ここで天幕を張っても突風でも吹いたらひとたまりもない。」
ワーロックの言葉に応えてアレンが灌木林に踏み入る。小走りでその後ろに続くのはドルース。
「カダイ、灌木を切り開いて。」
ミーアが声を掛ける。
「何をするつもりだ。」
「穴を掘ります。」
「穴って・・・」
「なるほどね。その手がある。」
横からワーロックが二人に笑いかける。
「サイゼルも手伝ってやりなさい。」
小一時間ほどで直径にして四尋ほどの林が切り開かれた。
「後ろに下がってください。」
ミーアが強く念じると、土が動き出した。まず灌木の根が次々と吐き出され、その跡が大きくえぐれていく。暫く時間を掛け環状に腰ほどの高さに土が盛り上がり、大きな穴が出来上がった。
「まず呪を施しその上に火を熾しましょう。」
軽い雷が走り、土が焦げていく。その痕にカダイとサイゼルが切り取った灌木を積み上げていく。
「枯らす事はできますか。」
ワーロックが尋ね、ミーアが頷く。
野営の準備ができたところにアレン達が狸を抱えて帰ってきた。
「なかなかのごちそうですね。」
ワーロックが笑う。だがアレンは土の外で立ち止まった。
「一部、開けています。そこからお入りなさい。」
そんなアレンに向けワーロックが笑いかける。
「俺の寝床はここだな。」
アレンはその入り口近くに座り込んだ。




