第四章 囚われる(7) 新たな仲間(5)
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ファナ達は意を決してケントスの町を訪れていた。そこで調べた結果、街中にある娼館が人買いランダの息が掛かっていることを突き止めた。
「あそこで・・・」
ファナの足がそこへ向かう。
「娼婦にでもなるつもりか。」
パルミトラスがそれを引き留める。
「でも・・・」
「まず情報を集めることだ。」
パルミトラスを先頭に街中を歩き、会う人々にローンを見せた。
「この子と同じような顔をして、歳は二十二。
知りませんかサイゼルと言います。」
街の人々の反応は芳しくはなかった。
そんなある日、
「その子なら知っているよ。」
一人の女がそう言った。
「確か、昔・・ランダの処にいた。」
「売られては・・・」
「いいや、一緒に住んでいたはずだよ。たまにはガルフィの娼館へも来ていたし。」
「娼館・・・」
ファナが暗い表情を見せる。
「ははは・・・まだ子供だったから仲間の女と外で遊んでいたよ。」
ファナがホッとした顔を見せ、
「では今もランダの処に・・」
「いや、逃げたらしい。さっき話した女と一緒にね。何でも用心棒の子を宿した女を助けるためとか言う噂だったよ。」
「では今は、どこに・・・」
「私はそこまでは知らないね。
そうだねぇ。この街の情報ならあそこの雑貨屋の婆さんに訊いてみるといいよ。あの婆さんなら大概のことは知っているよ。ただの噂話も含めてね。」
ファナはその女が指さす店を見た。が、今日は既に入り口の戸は閉じられていた。
「遅くなってきた、また明日にしよう。」
クルスがファナの肩を叩いた。
ローンの姿を見せサイゼルを探す三人の姿はケントスの噂となり、それは娼館の新しい女主人サビーネの耳にも届いていた。彼女はそれを既にランダに伝えていた。
翌朝早くから待ちきれぬようにファナ達三人は雑貨屋が開くのを待ち、店の開店と同時に店に入った。
「毎度。」
店の老女が三人に声をかける。
すぐにサイゼルの話を始めるとその老女は嫌な顔をした。そこにすかさずクルスが金包みを渡し、それで老女の表情が崩れた。
「その男の子かい・・かれこれ六、七年前にはなるかねぇ・・確かにランダの処にいたよ。
それが身ごもったレーネって女と一緒にランダの下を逃げたって事らしい。それからランダはその子を探したらしいが遂に見つからなかったって話だよ。
それが、ここ十日ほど前、この街に現れて娼館を尋ね、そこからランダの屋敷がある黒い森に向かったって話だ。」
ファナ達はその話を聞き、すぐに店を出ようとした。
「待ちなよ。何か買うものはないのかい。」
老女はニヤリと笑い、ファナは長めのナイフを手に取った。
「娼館に行くのか。それとも黒い森に行くべきか。」
クルスが困惑の色を見せる。
「黒い森は人を寄せ付けない、魔物の棲み処だと聞いたぞ。」
「それでも、そこに行かなければサイゼルの行方は解りません。
黒い森に行きます。」
パルミトラスの言葉にファナが強い口調で異を唱えた。
ケントスから黒い森、その行程は二日は掛かる。その道をファナ達三人は黙々と歩き続けた。一日の野宿の後、二日目の夕刻には黒い森を目の前にするところまで来ていた。
「今日はここで夜を明かそう。暗くなって森に入るのは危険すぎる。」
パルミトラスはクルスと共に黒い森から少し離れた所で野営の準備を始めた。
「何処においでですかな。」
柔らかい声が三人に掛かる。それにパルミトラスが反応し身構える。
「これは失礼いたしました。驚ろかしたようで・・・」
濃い灰色のローブを身にまとい、それに連なるフードですっぽりと顔を覆った男が丁寧に頭を下げた。
「何者だ。」
パルミトラスが誰何する。
「アモール教の司祭でございます。」
「その司祭が何処へ行く。」
「黒い森・・ランダの所へ。」
「ランダ・・司祭が娼婦の親玉に何の用がある。」
「確かに今は娼館の持ち主。しかし、本来の顔は人買いでございます。
いま、ケムリニュス神聖国は各地の外敵を受け、軍の強化に努めております。その手伝いをしていただくため、私は時にランダを尋ねております・・今回もまた。
そんな時にあなた方を見かけました。もし、黒い森のランダの所を尋ねるつもりなら、ご一緒できればと、声を掛けました。
私が一緒であれば森の魔物も襲ってきません。
如何でしょうか。」
パルミトラスは渡りに船と頷いた。




