8 第四章 囚われる(5) 新たな仲間(3)
「あんた名前は。」
一緒に歩くピグマイオイにカダイが声をかけた。
「ドルース。」
ぶっきらぼうにそのピグマイオイは答えた。
「あんた武器は扱えるのか。」
「どこを見ている。俺は我が部族の戦士だ。」
と、ドルースは紅い鎧の胸を叩いた。
その音に反応してか草むらが揺れた。
「出るぞ。」
ワーロックが注意を促す。その向こうに現れたのは直立した小さな牛。胸の筋肉が異様に盛り上がり、その背を孔雀の羽が飾っている。その魔物が頭を下げ二本の角をふるって突っかかってくる。
「アドラメルク。低位の悪魔だ。」
ドルースの恐れをよそにワーロックが笑う。
その笑いの横の空気をつんざき、木の上からアレンの双刃の大鎌が飛び来る。それに両断された魔物がぼろぼろに崩れ去った。
しかし、もう一匹、もう一匹。魔物は次々に現れる。それに身構えるドルース。だが、それらに向けワーロックが印を切ると彼の体の前面から衝撃波が走り、先頭を切る魔物の何匹かが音を立てて砕け飛んだ。
魔物が退散する。それをドルースが追おうとする。
「止めておけ。」
それに向け、木の上からアレンの声が飛んだ。
一行の行く先をモコイ達が徒党を組んで見つめる。それを意にも介せず、ワーロック達は先を急ぐ。
ワーロックの結界の中で一夜を過ごし、さらに歩を進める一行の前にメルコムやらチェレルやら幾多の魔物が現れたが彼らはそれらを相手にもしない。
「お前等、強いな。」
ドルースがあきれ顔で言う。
「相手が弱いだけだよ。」
木の上から周囲りを警戒するアレンがこともなげに言う。
その夜も暮れる。と、おどろおどろしい闇と共に一体の魔王が現れた。
「お前等、ここに何しに来た。」
恐ろしげな声が闇の中から聞こえる。
が、アレンは、
「お前を懲らしめに来ただけさ。」
と、その闇に向け、軽く言葉を投げかけ、それと同時に火鼠を呼び出し周囲りを明るくした。
「お前の姿なんか丸見えだよ。」
そこに現れた先が三つに分かれた一対の黒い羽を持つ影にアレンが木の上から呼びかける。と同時に風を扱う妖鳥ネヴァンを召喚する。
ネヴァンの羽から発せられる小さな鎌鼬がシャムハザを傷つけていく。
「倒さないのか。」
ドルースが叫ぶ。
「これもランダとの約束だ。倒せばお前達の村落がラミアに襲われる。」
ワーロックがドルースと会話を交わす間にシャムハザの指先から火球が飛ぶ。それをワーロックは易々と消し飛ばす。その間にもシャムハザの傷は増えていく。
「助けてくれ。」
遂にシャムハザの口から悲鳴が上がった。その声に対し、
「ランダの使いで来た。今後ドゥリアスとピグマイオイの領域に手を出さないか。
それが約束できるなら消滅はさせない。」
と、ワーロックが言い渡し、シャムハザはそれに頷いた
「簡単なものだ。」
アレンが木の上から飛び降り、コツンと魔王を名乗る堕天使シャムハザの頭を小突いた。
約束の四日目の明け方にはワーロック達はピグマイオイの村落に帰り着いた。
「その女性を放して貰おうか。」
ワーロックはピグマイオイの長老に笑いかける。その横からドルースが詳細を話した。
「名前は。」
縛めを解かれた女性にワーロックが声をかける。
「ミーア。」
若い女性はそう答え、今後の同行をワーロックに頼んだ。それにドルースも・・
「いいよ、何かの力になる。」
ワーロックはあっさりとそれを受け入れた。




