第四章 囚われる(4) 新たな仲間(2)
ランダが貸してくれた小屋には確かに山登りに使えそうな道具が揃っていた。それを持ってまずピグマイオイの集落を目指す。
「そんなに律儀にしなくても・・・」
カダイが口を出す。
「いや、この森にはあちこちにランダの目が光っている。約束を違えればランダは敵と成る。彼女には我々では太刀打ちできない。」
ワーロック達は黙々とピグマイオイの集落を目指した。
ビンと音を立てて矢が木の幹に突き刺さる。
「脅しか・・これ以上近づくな・・との。」
ワーロックが木に刺さった短い矢を抜く。それと同時に灌木がガサガサと揺れる。
「障壁を張る。これで相手の矢は用をなさない。」
ワーロックが呪を唱えると飛び来る矢が見えない壁に弾かれ、ポタポタと地面に落ちた。
業を煮やしたか紅い鎧兜を身につけた子供のような戦士達が手に手にに武器を持ち姿を現した。
「アレン、手を出すなよ。彼らは命を持っている。」
解ったというようにアレンはスルスルと木に登った。
「十人か、むやみに殺すわけにも行かないし・・・」
ワーロックが困惑の顔を見せる横でサイゼルが何やら瞑想しだした。
中空に光の玉が現れる。それが飛び散りピグマイオイ一人一人を拘束する。
身動きがとれなくなったピグマイオイが遂には武器を取り落とす。
「そこまで使えるようになったか。」
ワーロックはサイゼルに微笑みを与え、それからピグマイオイに向き直る。
「案内して貰いましょうか。」
仕方なさげにピグマイオイ達が先を歩いた。
森の中から太鼓の音が聞こえる。そこへ捕らえたピグマイオイ達を先頭に進んで行く。
集落にいたピグマイオイの一人がそれに気付く。
「戦いに来たわけではない。用があってきただけだ。」
そう言いながらワーロックが太鼓の音がする広場を見ると若い女が柱に縛り付けられている。
「助けて。」
その女がくぐもった叫び声をあげる。
「この女性は何かしたのか。」
「勝手にこの地に入ってきた。東の魔王の斥候に違いない。」
ワーロックの問いに長老らしき老人が答える。
「魔物に追われて迷い込んだだけです。」
叫ぶ女の口に猿ぐつわが噛まされる。
「助けてはもらえぬか。」
「それが目的でここに来たか。」
ピグマイオイ達が身構える。
「違う・・違う。我等はニーコダマスに用があって来ただけだ。」
「ニーコダマスに何の用がある。」
「ランダの所へ行って欲しい。」
「フン・・そんなことか・・・ニーコダマスは渡さない。」
「だが、ランダはラミアを使ってこの地を襲うと・・・」
ワーロックの声にその場がざわつく。
「行きましょう。それでこの地は修まる。ランダも私の命が欲しいわけではありますまい。」
腰蓑の上からもそれと解る男根を起立させたピグマイオイが進み出た。
「ニーコダマスか。」
「ああ、そうだ・・・これで私もランダの奴隷か・・・」
ニーコダマスが悲しそうに目を伏せた。
「すまぬ・・・」
ワーロックはその姿に向け頭を下げた。
「もう一つ・・・」
「この女の事か。」
長老が杭に縛られた女性を顎で示し、
「それはならん。ランダのことはニーコダマスの自己犠牲ですむが、それとこれとは話が違う。」
「魔王、シャムハザか。」
「そうだ、あやつに我々は苦しめられている。その手下かもしれん女を放すわけにはいかん。」
長老の声の向こうで女が激しく首を横に振る。
「この女性がなぜ魔王の手下だと。」
ワーロックが長老を問い詰める。
「こいつは女だてらに弓と剣を使い、その上、魔法まで使う。それだけの力が有れば魔物など倒せたはず。それを魔物から逃げたと言う。それを狡猾な魔王シャムハザの手下ではないと言い切れるか。」
また、杭に縛り付けられた女性が激しく首を横に振る。
「猿轡を解いてやってくれないか。この女性の言い分も聞きたい。」
ワーロックの懇願に応じ若いピグマイオイが背伸びしながら女の猿轡を解く。
「数が・・数が多すぎました。
相手は頭が大きな緑色の悪魔・・それが大勢で・・・」
「モコイか。奴らは人を襲い、そして人を喰う。」
ニーコダマスが物陰から声を発した。
「一つ賭けてみてはどうですか。こいつ等をシャムハザの処へやり。奴を懲らしめ我等の集落に手を出さないと約束させる。それからこの女を解放しては。」
ニーコダマスの声に長老が頷く。
「それも一つの方法。我等からその見届け役を出す。明後日の昼、太陽が真南にかかるまでにお前等が帰らなければ、この人間の女は処刑する・・それでどうだ。」
「敵が解らん。もう少し余裕を呉れないか。」
「では四日後。」
ワーロックの提案にピグマイオイの長老が承諾を与えた。




