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第四章 囚われる(2)

×  ×  ×  ×


 「どこに行けばよいのか・・・」

 さすがのワーロックも困り果てていた。テアルに来たはいいがファナの行方はとんとわからない。

 「この先に水晶占いがいる。」

 「占いか・・・」

 ヴァン・アレンの声にワーロックががっかりしたような表情を見せる。

 「当たるらしいぞ。」

 「気休めにしかならん。」

 渋るワーロックの腕をサイゼルが引っ張る。

 「藁をも掴むか・・・」

 ワーロックは苦笑いと共にサイゼルの後に続いた。

 古ぼけた小屋の潜り戸を抜けると、太い蝋燭の灯りだけの薄暗い部屋の中に、部屋の汚さにとは裏腹の若い美女が座っていた。

 「あんたは・・・」

 ワーロックは踵を返そうとした。が、カダイが口を開く。

 「サイゼルの・・・」

 「眼を見るな。」

 ワーロックが珍しく大声を上げた。が、既にカダイと若い女は眼を合わせていた。そして突然・・・

 「そうか・・モンオルトロス。」

 と、カダイが大声を上げた。

 「モンオルトロスのどこだ。」

 しまったという顔をしながらもワーロックがカダイに尋ねた。

 「頂上近くの風穴・・そこの魔物に捕まっている。」

 「なぜそんなところに。」

 「サイゼルを探しあぐねファナは遂に黒い森の人買いランダを尋ねることにした。

 だが黒い森は魑魅魍魎の棲むところ。それに捕らわれモンオルトロスに送られた。」

 「そこに棲む者は。」

 「アンドヴァリ。

 黒い森に入り魔物に捕まった者達を、己の財力で買い取り、その人間達を使い風穴の奥の財宝を漁っている。」

 「黒い森・・行かねばならぬか。」

 四人は順に潜り戸を抜ける。そしてカダイを先にやり、

 「カダイを守ってくれ。」

 とヴァン・アレンの耳元に囁いた。


×  ×  ×  ×


 黒い森。(いにしえ)には妖精が棲む青い森と言われていた。

 モンオルトロスを背にした南西の最深部に宮殿が建ち、そこに妖精王オベロンと王妃ティターニアが住んでいた。

 宮殿の背後には美しい滝が流れ落ち、その滝壺は“聖秘なる泉”と呼ばれ、宮殿に住む高貴な妖精達の水浴み場となっていた。

 オベロンの白い宮殿には“聖秘なる泉”から引かれた大理石造りの沐浴場を中心に幾つもの伽藍が築かれ、そのそれぞれが妖精達の社交場として毎晩のように舞踏会が開かれていた。

 賑やかな踊りが始まると、どのフェアリーの踊りが上手いとか、あのニンフが美しい。いやこっちだ。とかの、たあいもない王と王妃の口論がしばしばあった。

 そんな森に鬼女ランダが現れたとの報がこの宮殿に伝えられた。が、オベロンもティターニアも夜の舞踏会で頭がいっぱいでそんなことには無頓着だった。

 ランダは徐々に勢力を広げていき、ほんの一角ではあるが森の北西部を牛耳るようになっていた。

 そのランダが宮殿を訪れたのも舞踏会の夜だった。

 「相変わらずだねぇ・・ここは。」

 騒々しさに眉をしかめながら勝手に奥へと通っていく。が、誰もそれを見咎める者はいない。そのまま王と王妃の部屋の前まで行くと、扉の前の椅子に不機嫌そうなスプリガンが独り座っていた。

 「何の用だ。

 王と王妃は取り込み中だ。」

 スプリガンは顔に似合った不機嫌そうな声を上げた。

 「ランダが来たとお伝え。」

 スプリガンは相変わらずの不機嫌そうな顔のまま奥へ入り、そして出てきた。

 「王は会わないとよ。」

 「大事な話があるんですがねぇ。」

 「お二人にはあんたの来訪よりオレイアスとナイアス、そのどっちが美しいかが大事らしい。」

 「そうですか。

 では伝言を頼みましょう。」

 スプリガンが黙って頷く。

 「この森の半分は私が頂きます。以後仲良くお願いします。」

 スプリガンが慌てた顔を見せる。

 「それと、これは皆様に・・

 この妖精の国を出る気があるのならば私が受け入れます。

 良くお考えあるように。と、お伝えください。」

 それだけを告げるとランダは去って行った。

 翌朝、眠い目をこすりながらオベロンとティターニアは玉座に着いた。

 スプリガンがその二人に昨夜ランダが来たことを改めて告げた。

 「なぜ早く言わん。」

 オベロンが強い声を発した。

 「取り次ぎましたが。」

 「取り付いだ・・と。」

 今度はティターニア。

 「はい。しかし、王と王妃におかれましては二人の娘、そのどちらが美しいかとの言い争いの方が大事だとかで・・・」

 スプリガンは苦々しい顔をした。

 「ランダは何か言っておったか。」

 これも負けず劣らず苦々しい顔をしてオベロンがスプリガンに問い、スプリガンはランダの言葉を伝えた。

 その伝言を聞いて玉間が大騒ぎになる。

 「昨夜のうちに対策を練る・・いやランダに会い、話をするのだった。・・それをお前が・・・」

 オベロンはティターニアの顔を見た。

 「何を仰います。貴方がオレイアスの方が美しいと言い張るから良くないのです。」

 ティターニアの眉に険が立つ。

 そこからはまたいつもの言い争い。それを見て玉間に居並んだ者達はその場を出て行った。

 数日をかけて妖精族は四つに分かれた。陽の因子を持つ者は早々に去り、陰の因子を持つ者は世界に散らばった。そのどちらでも無い者はまだその場に留まった。そして因子に関わりなく生を持つことを望んだ者達も現れ、亜人と呼ばれるようになった。


 黒い森の中でランダの勢力は拡大して行き、宣言通り森の半分を占めた。そのため妖精達の棲み処は狭まり、妖精国に残る種族も一つ一つとそこを出て行った。そして最後に残ったのは王と王妃を守るスプリガン、森の守護者ドリュアス、財宝を隠し持つアンドヴァリ、そして悪戯者のパックだけとなった。

 そんなある日のこと閑散とした妖精国をランダが訪れた。

 その日もこんな事になったのはお前のせいだ。いや貴方のせいだ。とオベロンとティターニアは言い争っていた。

 「おやおや、少なくなりましたね。」

 ランダが笑う。

 「お前のせいだ。」

 オベロンが怒声を発する。

 「半分・・私は約束は守ってますよ。」

 言いながらランダはアンドヴァリを()めつける。

 「かなりの財宝をお持ちとか。」

 アンドヴァリが首を横に振る。

 「隠しても無駄ですよ。調べはついてます。」

 ランダの眼が凄愴な光を帯び、それに圧されたかアンドヴァリが俯いた。

 「どこに隠してあります。

 全部とは言いません三分の一で結構。私にご寄付ください。」

 アンドヴァリの体が恐怖と怒りで震える。 「ご案内くださいますね。」

 ランダは語尾に力を込め、その語気にアンドヴァリはガクガクと頷いた。

 財宝を持ち去られ、五つの指輪だけを手元に残したアンドヴァリは、この国を立ち去ることを決意した。

 アンドヴァリの手から王と王妃それぞれに一つずつの指輪が贈られた。

 二人が指輪を嵌めると、オベロンの体は見る間に小さくなり、ティターニアは目を閉じてフラフラと宮殿を出て行った。

 「あなた方のせいでこの国は崩壊し、私の財宝は奪われた。

 私が呪いを解かない限り、貴方の体は元に戻ることはない。

 そして王妃は次に目を開けたとき最初に目にした者に恋をする。」

 それだけを言い残し、アンドヴァリは残った三つの指輪を手にその場を去った。

 「ドリュアス・・マーサよ。この森はそなたに授ける。」

 オベロンの眼を見たマーサに、

 「私はティターニアを追い、二人で旅に出る。

 この国はそなたが治め、高貴なる者達を再び集めるが良い。」

 アンドヴァリの呪いの為、三歳児ほどの体になったオベロンは忽然と姿を消した。

 一方、宮殿を出たティターニアは悪戯者のパックの声を頼りにあちこちと引き回されていた。

 「まだ眼を開けてはいけませんよ。まだ眼を開けてはいけませんよ。

 眼を開けると私に恋しますよ。」

 笑いながら手を叩き、パックは鬼ごっこでもするように、楽しそうにティターニアを引き回していた。

 「おや、ここは・・」

 青々と生い茂っていた木の葉が黒々と変わっていることにパックは気付いた。

 「何しに来た。

 約束を破ったな。」

 恐ろしげな声がパックの後ろから響く。その声の主はランダ。パックはあっと言う間に白い糸にグルグル巻きに捕らえられた。

 「ティターニアかい。」

 ランダがティターニアの顔を覗き込む。

 「恋の呪いかい。可哀想に・・でも私は助けてはやらないよ。

 そのまま、どこにでも消えな。」

 ランダはティターニアを吹き飛ばした。

 その後、約束を破ったとして森の大半はランダが治め、宮殿の周りの僅かな土地だけがマーサの手元に渡った。


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