第三章 乱 デビルズ・ピーク(12)
翌朝、全員が揃う。その中でワーロックが二枚の地図を開く。
「この先に洞窟の入り口があるはずだ。それを探し潜入する。」
「智恵の実なんかより、バフォメットの方をお願いしたいものだねぇ。」
ランダがワーロックに異を唱える。
「そうはいかん。この地図ではバフォメットの居場所は解らぬ。今は一つ一つの目的を確実にこなしていくことだ。」
ワーロックがアレンを先に立て歩き出し、サイゼル達もそれに続く。それを見たランダも仕方なさげに歩を進めた。
二時間ほども歩いたろうか、ワーロックが立ち止まり、そこらの地形と地図とを照らし合わせた。
「ここいらだ。手分けして探そう・・但し怪しそうな場所を見つけても決して自分たちだけで入るな。全員の集結を待つんだ。」
ザクロスとレーネ、サイゼルとクローネ、が組となり、ワーロックとカダイ、テッドとデフィンはその場に留まり物資を守る。それぞれの連絡役はアレン。そこまで決めワーロックはランダの顔を見ると、
「私はここに残るよ。」
ランダは面倒くさそうな顔で言った。
暫く経つとサイゼルとクローネが怪しげな場所を見つけたとアレンが全員に連絡し、皆がその場に急いだ。
突っ立った崖の前にサイゼルとクローネが居る。崖には幾重もの蔦が巻き付き鬱蒼と葉を茂らせている。
「何があった。」
ワーロックがクローネ達に尋ねると、サイゼルが蔦を切り開き一点を示した。そこには地図と同じ五芒星が浮き出ている。
ワーロックがそれを押す。が、何事も起きず、困った顔を見せる。
「何かの呪文が要るのか。」
ザクロスが問う後ろから、
「そんなもの・・ぶち壊せばいいんだよ。」
遅れて来たランダが五芒星の突起を力任せに押した。
五芒星の突起は確かにへこんだ。だが何も起きない。ただ、辺りがざわざわと騒がしくなっただけだった。
「何かが居るねぇ。」
ランダが唇を歪める。
ざわつきは益々大きくなり草木が騒ぎ出し、大きな犬の吠え声も聞こえる。
「クー・シーかい。こいつも番犬にはうってつけだね。」
ランダは茂みに入り雄牛ほどもある巨大な犬を引きずり出してきた。
「こいつが吠えたって事は何かが出てくるよ・・気をつけな。」
森の中から胸元を真っ赤に塗らした狼が十頭、唸り声を上げながら現れる。
「本命は向こうだよ。」
ランダが指さす崖に五頭の仔牛ほどの黒犬が爪を立て崖に逆さにへばりついている。
「冥界の魔狼ガルムと宝の番犬オヴィンニク。どっちも凶暴だよ。」
二本の剣を躍らせてクローネがガルムに飛びかかろうとする。
「待ちな・・そいつ等五頭は私が貰う。オヴィンニクも三頭は残して欲しいもんだ。」
笑うランダに、ワーロックが
「番犬はそんなに必要ないだろう。」
と、これも笑いかける。
「それぞれ使い道があるんだよ。」
ランダはそう笑いながら、飛びかかってきたオヴィンニクの上下の顎に手を掛け、二つに引き裂いた。そんなランダに残ったオヴィンニクもガルムも怯えるように後ずさった。
ランダが二つに裂いたオビンニクの体躯を崖に投げつけると、あふれ出るその血が五芒星にかかった。すると崖の下の大岩から白い煙が少しずつ吹き出した。
「何かが始まる。」
ワーロックが大声を上げ、その邪魔になる怪物達をアレンが、ザクロスが、クローネが倒していった。
「開くよ。」
ランダが指さす先で大岩が二つに割れ、その先に洞窟の入り口が現れた。