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第三章 乱 デビルズ・ピーク(11)

 来た道を戻る。もう魔物は出ない。が、

 「嫌な気だねぇ。」

 ランダが漏らす。

 「この気に囚われちゃぁヴァン・アレンは動けないだろうよ。」

 ワーロックとサイゼルの足が速くなる。

 目に見えないある一線を越すと宙を飛んでいたバーバヤーガの臼が地に落ち、アンシーリーコートの動きが鈍くなる。

 「置いていったがいいようだね。」

 ランダがワーロックを見、ワーロックがそれに頷く。

 「逃げられないようにしてね。」

 ランダはバーバヤーガ、アンシーリーコート、それに糸に囚われた偽物のアレンにフッと息を吐きかけた。

 下り道を急ぐ。その日の夜には偽物のアレンに会った場所に着いた。

 「探してやるよ。」

 そこからはランダが先に立った。

 「暗くなる。」

 ザクロスは進むことに異を唱えた。

 「明るくすればいいんだろう。」

 ランダが手を差し出すと、その手のひらの上で幾つかの青白い火が瞬き、それが四方に散った。

 「これで見えるだろう。」

 ランダはザクロスを見て妖艶に笑った。

 ランダの行く先、微かな唸り声が聞こえる。

 「アレン。」

 ワーロックが声を上げ、サイゼルと共に走る。

 アレンの腰には偽者のアレンが巻いていたと同じベルトが。

 「あいつの正体はドッペルゲンガー。見た者と同じ姿形になる。幻術を使い(あたか)も武器なんかを装備しているように見せる。あいつの見せるものは殆どが幻影だよ。

 まあ、その幻影の武器にやられて死ぬ者もいるがね。」

 「そんなことより、アレンに間違いないか。」

 「ああ、私の子ヴァン・アレンだよ。そのベルトの封印の力。それにこの嫌な気に当てられて意識をなくしているけどね。」

 ランダは舌なめずりでもしたそうな顔をした。

 その間を割ってザクロスが自分の肩にアレンを担いだ。

 ワーロックがザクロスが担いで歩くアレンの腰からベルトを取り、その裏を見ると呪符が張ってあった。

 微かに意識が戻ったかアレンがさっきより強い呻き声を上げる。

 「大丈夫か。」

 ワーロックが声を掛ける。

 「あの野郎・・何処へ行きやがった。」

 「何があった。」

 ワーロックの問いにアレンが弱々しく語り出した。


 森の木から木へと飛び移るアレンの目に二つの白骨が見えた。アレンは骸骨(スケルトン)と思い、とどめを刺すためにその一体に近づきナイフを構えた。とその時もう一体の白骨が後ろから襲いかかりアレンが近づいた白骨の腰から取り上げたベルトをアレンの腰に巻いた。

 薄れ行く意識の中で見たものは、倒れ込んだ自分の目の前で一体の白骨に徐々に肉が付いていき、現れたのはもう一人の自分だった。

 覚えているのはそこまで。


 「待っていたってことだよ。誰かに封じられその者は倒したが動きがとれなくなった。それで自分の幻術にかかりそうな奴が来るのをね。」

 ランダがアレンの話を軽く流す。

 「それよりどうだい・・母との再会は。」

 「フン、ふざけるなあんたは俺を喰うために生んだんだろうが。そんなに物欲しそうな顔をするな。」

 アレンはザクロスの肩から飛び降りた。

 目の先に白い糸にグルグル巻きにされたドッペルゲンガーが横たわっている。

 「この野郎。」

 アレンがナイフを抜き、走る。

 「止めろ、アレン。そいつは使える。お前の(しもべ)にするんだ。」

 ワーロックの声にアレンが渋々従い、自身の手に傷をつけ、滴る血をドッペルゲンガーの額に垂らし呪文を唱えると、シュウーと音を発し白い煙となったドッペルゲンガーがアレンの体に吸い込まれた。

 「少し登ったがいいようだねぇ。気が追いかけてきている。」

 ランダが先に立って道を急ぎ広場に出た。

 「ここで野営だ。」

 ザクロスの声が響き、全員が立ち止まる。以前と同じようにワーロックが雷で地面に魔方陣を描く。

 「俺は木の上で寝る。」

 アレンは一本の木に登り、

 「私たちは外で十分だよ。番犬もいるしね。」

 と、ランダはエミリオスを伴って森へと入った。

 「一体何者なんだあの女は・・それにアレンも・・・」

 火を囲み干し肉をかじり、嬌声が聞こえる森を親指で指しながらザクロスがワーロックに尋ねた。

 「人買いランダ・・表の顔はね。

 実は鬼女の親玉ランダ・・それが人の顔をして人の中で暮らしている。

 アレンはその子、つまり半妖、ダンピールだ。」

 「魔物であれば倒した方が。」

 クローネが口を挟む。

 「無理だ・・とてつもない魔力と力を併せ持っている。昨日見たように素手で巨大化したコカトリスの首をへし折るような化け物だ。我々にはとても倒せん。」

 「ですが・・」

 レーネも話に加わる。

 「今はたいした悪さはしていない。人の世界を面白可笑しく生き、性と欲に酔っているだけだ。そこらにいる馬鹿な為政者よりよっぽどましだ。」

 “智恵の実”

 サイゼルがワーロックの肩を叩き、地面にそう書いた。

 「智恵の木・・この世に一本だけあると言われている。その実を食べれば自分の知らない過去や、真実を見る目が養われるという。

 たとえばアレンがそれを食べればまだ体内に強く残っている魔性が薄れると思う。

 あいつはもし生けるものの命を奪えば魔に戻る。智恵の実を口にすれば理性が強くなり、生けるものの命を奪う事を、今ほど心配する必要はなくなる。」


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