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第三章 乱 デビルズ・ピーク(9)

 分かれ道を右に進む。その道は益々険しくなる。

 「荷駄を真ん中、デフィンはそれを率いる。その両側をワーロック、レーネで守る。サイゼルはその前方。後ろはテッド。

 ここまで良いな。」

 指示を出すザクロスに皆が肯く。

 「クローネは右手の森の警戒を頼む。カダイは左手山側。」

 指示を受けた二人が位置につく。

 「アレン、山側の森の中を進めるか。」

 その問いにアレンが肯く。

 「デフィン、地図を呉れ。俺が先頭を進む。

陣形はこの形とする。が、一つだけ言っておく。勝手に闘うな。一人が勝手な行動を取れば陣形が乱れ、その隙を突かれる可能性がある。極力危険(リスク)は避けなければならない。解るな。」

 ザクロスは念を押した。

 「ところでアレン、お前のその武器だが。」

 ザクロスはアレンが背負う身の丈ほどもある双刃の鎌にを見る。

 「邪魔にならないか、森の中では。

 デフィンが魔物に効果があるという剣をもう一本持っている。それを使ったらどうだ。」

 「これで大丈夫だ。」

 アレンはザクロスに向け、腰につるした大振りのナイフをポンポンと叩いた。

 明るい内には魔物は襲ってこなかった。夕暮れが迫り、辺りが暗くなりかけると、先頭のザクロスの歩が止まり皆がその元に集まった。

 「ワーロック、魔物の動きは・・・」

 「夜になると活発になる。」

 「ここで野宿は危険か。」

 ザクロスが辺りを見渡す。

 「この先に少し広い場所がある。」

 アレンが刃渡り三十センチほどの刃物を(もてあそ)びながら言う。

 「ここから半時。」

 「なんだそれは。」

 ワーロックがアレンの手中の物を見咎める。

 「森の中で拾った。五本ある。」

 「森の中の何処で。」

 「このちょっと前。白骨があった。その腰にこれがついていた。」

 と、アレンは腰に巻いたベルトを見せた。

 「見せてくれ。」

 と、言いながらワーロックは困ったような、呆れたような顔をした。

 「クナイ。梵字が刻まれている。

 我々の前にも誰かがここに来ている。

 他には何もなかったか、アレン。」

 「これがあった。」

 アレンはワーロックに羊皮紙をポンと投げた。それを開こうとするワーロックに、

 「先を急ごう。それの詮索は後だ。」

 と、ザクロスが釘を刺した。

 さほど広くない広場に着く頃には日はとっぷりと暮れていた。

 「野営の準備。」

 「ちょっと待った、離れていてくれ。」

 ザクロスの指示にワーロックが待ったを掛け、呪文を唱え始める。と、中空の低いところから稲妻が走り、広場の半分以上を占める地面に何かを描き始める。

 「魔物に知れます。」

 その音にデフィンが驚く。

 「魔方陣だ。魔物はこの中には入ってこられない。

 中央に火を熾し、テントがあれば女性用にそれを一張り張る。」

 説明する横でアレンは、

 「俺は木の上で寝るよ。」

 と言葉を残し、森の中へ消えていった。

 焚き火の明かりを頼りにワーロックは巻物になった羊皮紙を紐解いた。それは地図、だが地上の物ではない。

 「洞窟(ダンジヨン)か・・・」

 ワーロックが頭を巡らせ地図を見つめる。が、その地図では入り口の位置が解らない。

 「ザクロス、地図を貸してくれ。」

 声を掛けられたザクロスが自分が持っていた地図をワーロックに投げる。

 羊皮紙の二枚の地図を詳細に見たが何も手がかりは得られない。

 「もう諦めたらどうだ。」

 見かねたザクロスが声を掛ける。それでもワーロックは地図から目を離さない。

 暫く時が流れる。

 「ところで、アレンは大丈夫なのか。」

 「ああ、大丈夫だ。」

 また気のない返事。

 「何をそんなに・・・」

 ザクロスがワーロックの側に行き、手元をのぞき込む。

 「洞窟(ダンジヨン)だ。

 そして・・・」

 ワーロックの指が一転を指す。

 「ここに何かが在るらしい。」

 ザクロスがのぞき込んだ地図には文字らしい書き込みが幾つもあったが、ザクロスにそれは読めない。

 「エルフの文字だ。」

 その時ピュッと短く甲高い口笛が聞こえた。

 「アレンだ。何かが現れた。知らせると言うことは魔方陣をものとせず、命あるもの。」

 グヘェ、グヘェと鳴き声が聞こえる。その時にはもう全員が身構えている。

 「鶏の化け物か。」

 テッドが火に浮き上がった人の二倍ほどあるその姿を見て驚く。

 「コカトリス。目から熱線を出し全てを焦がし、息には毒がある。その毒を受けると躰が石化するぞ。」

 「飛べるのですか。」

 ドラゴンのような翼を指さしデフィンが震える。

 「鶏程度にはな。」

 話している最中に、蛇のような尾がザクロスを打とうとし、それをザクロスが盾で受ける。が、ザクロスの力を持ってしても、その尾に弾き飛ばされる。

 「アレン手を出すなよ。こいつは命を持っている。」

 ワーロックが木の上のヴァン・アレンに声を掛ける。

 「私が()るわ。みんな森に逃げて。」

 クローネが進み出る。

 またもコカトリスの尾の攻撃。それをクローネがヒラリと躱し、それに斬りつける。

 尾を傷つけられコカトリスが咆哮を上げ、苦しみながらも目から熱線を振りまき、辺りが炎に包まれる。

 そこへ、

 「苦戦しているようだねぇ。」

 と、女の声が聞こえた。

 「どうだい・・報酬次第では私が倒してやるよ。」

 妖艶な美女の姿が燃える炎に浮かんだ。

 何者。と、クローネがその姿を睨めつける。

 「人買いランダ。この山に捜し物に来てねぇ。」

 ランダと名乗った女は傷ついていたコカトリスの尾の一撃を(わずらわし)そうに撥ね除けた。それほど強く腕を振ったようには見えなかったが、その衝撃で傷ついていたコカトリスの尾が千切れ飛んだ。

 「そうさねぇ。報酬はお前の躰でどうだい。」

 ランダがクローネを見つめニヤリと笑う。

 「賢者とやらの魂が入った体を楽しむのも一興かもしれん。」

 再びランダが笑う。

 「そうはいかんよ。」

 突然、ワーロックが森から出て来る。と、ランダがそちらを振り向く。

 その隙を突かれたかコカトリスが放つ毒の息がランダを捉えた。

 しかし、ランダの体には何の変化もない。

 「やはりな。」

 ワーロックが独り頷く。

 今度は熱線。

 「(わずらわし)い奴だよ。」

 言いながらランダの腕が石化の毒を吐くコカトリス首を捕らえ、ワーロックをしげしげと見る。

 「ほう・・あんたは・・・」

 「クローネ、森に入れ。ここは私とこの女だけで話す。」

 その僅かの間にボキッと鈍い音が響き、コカトリスの首がだらんと垂れ下がる。その瞬間、断末魔の痙攣が躰を走りコカトリスは動かなくなった。

 「報酬はさっきの女の体とはいかないようだねぇ。」

 ランダがワーロックを睨み付ける。

 「やる気かな。」

 ワーロックの足下に白い煙が立ち始める。

 「止めておくよ。あんたと闘って勝てるとは思わない。その体のままなら別だけどねぇ。」

 ランダがまたもニヤリと薄い唇を笑いの形に歪める。

 「だが、ただ働きとはいかないよ。

 そうさねぇ・・・うん、捜し物に来たってことは聞こえたかい。」

 ワーロックが頷く。

 「その手伝いをして貰おうか。」

 「何を探している。」

 ワーロックの眼がギラッと輝く。

 「おう、おう。そんなに喰い付きそうな眼で見るんじゃないよ。

 お前さんの後ろあの森に誰が居るかは知らないけど・・・」

 ランダはクンクンと鼻を鳴らした。

 「そうかい・・サイゼルだね・・それにレーネも。」

 そう言ってランダは強くワーロックの眼を見た。

 「あの子が報酬と言ったら・・あんたは怒るだろうねぇ。」

 ワーロックの眼の光が益々強くなり、足下からの白い煙の中に金色の光の輪が現れる。その気が膝辺りまでを包む。

 「心配しないでおくれ。今の狙いはあの子じゃぁないよ。

 私の棲み処、黒い森もずいぶん棲みにくくなってねぇ・・私が出入りするせいか人間共が我が物顔に私の領域を侵してくる。

 そこでだ。森の番犬が必要になった。この山にトウテツという奴がいる。それを私に渡して貰う。

 それにバフォメット。あいつは人の姿形を採ってもそうとうのものを持っているらしいからな。

 それともう一つ、これからあんたらと一緒に会う魔物、そいつ等もだ。」

 そこまで言ってランダは淫猥にニヤリと笑った。

 「私が連れてきたのはエミリオス、ただの人間だ。だが、腕は立つ。何かの足しにはなるだろうよ。」

 ランダの言が終わらぬうちに、端正な顔の男が現れた。


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