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第三章 乱 デビルズ・ピーク(8)

×  ×  ×  ×


 「ワーロックに見破られたようだな。」

 テアルの宮城の奥で

 ラグラがダナエに溜め息混じりに話しかける。

 「彼にこの術は解けません。」

 「こちらが見えていると思うか。」

 「たぶん・・・」

 「これからはこちらの命令は阻止(プロテクト)されるか。」

 ラグラの深い溜め息に、

 「それはありません。あの地には既にデメテルが結界を張っています。あの山にいる限り、たとえワーロックとて私たちの心気を阻止(プロテクト)することは出来ません。

 あの外では別ですが。」

 「であればいっその事、ワーロックをのぞく全員に・・・」

 「それは無理です。ワーロックが気づいた以上憑依(ポゼツシヨン)自体は全て阻止(プロテクト)されます。」

 「ならば、ワーロックは山を下りると思うか。」

 「それはないと思います。彼は一つの村を助けるために山に入りました。それは私たちとは無縁のこと。

 彼には人助けを途中で放り出すことは出来ないでしょう。」


×  ×  ×  ×


 皆の話を聞き終え、

 「目的は違えど利害は同じ、あいつらも含めてな・・・行くしかないか。」

 「あいつらとは誰だ。」

 ザクロスが問い、

 「私が嫌いな奴らだよ。」

 ワーロックが答え、

 「まずは・・休むとしよう。レーネの(ジン)が回復するまでな。」

 と続けた。

 その声も終わらぬうちにガサゴソと灌木が動く。

 「骸骨(スケルトン)だ。」

 目敏くアレンが敵の姿を見つける。

 「休ませても呉れぬか。」

 ワーロックが苦笑いを浮かべる。

 「他にもいる。」

 またアレンが声を上げる。

 「我らが闘った小男がハダッハ。それに・・・」

 ワーロックの目が辺りを透かすように見る。

 「夢魔アルプ。眠らなければ害はないはず。」

 狐の姿に帽子をかぶり、背には羽をはやした魔物が五匹、辺りを徘徊している。

 「後ろにも気をつけろよ。続々と集まってきている。」

 ボコボコと泡立つ水の中から、異様に腕の長い女が三人。胸まで垂れた緑色の髪のためその顔は見えない。

 「ペグ・パウラーという。水の中に引き込まれるなよ。」

 ワーロックがいちいち説明を加える。

 「テッド、カダイそれにデフィン、あの木を背にレーネを守れ。

 残った者達で魔物を倒す。」

 ザクロスの指示にクローネが、アレンが、サイゼルがサッと動き、円陣を作る。だが、ワーロックはその真ん中、木の端に座ったまま動かない。

 ザクロス達の前の砂が盛り上がり、老人が突っ立ち、その背の袋から砂をまく。瞬間ワーロックが魔障壁(マジツク・シールド)を張ったが間に合わなかった。

 (眠らせられる。)

 ワーロックを除く全員が瞼を重くし、次々に眠りに落ちていく。そして眠りに落ちた数だけ老人の前の中空に砂時計が現れる。

 (待つしかないか。)

 ワーロックは腹を決める。

 しかし、袋を背負った老人ザントマンの後ろに三人の影。一人は背の曲がった老婆、一人は妖艶な美女、そしてもう一人は可憐な少女。

 老婆は氷の礫を飛ばし、美女は小さな火の玉を発してくる。

 そして少女は天に手を上げ(いかずち)を呼ぼうとしている。

 ワーロックが魔障壁(マジツク・シールド)の強度を上げる。そして、

 (根比べか。)

 苦々しげに笑う。

 しかし、魔女三人の(ジン)はきれそうにもない。

 (何者かが(ジン)を供給している。この(けが)された土地を通して・・・)

 ワーロックの表情が歪む。

 (罠にかかった・・やはりこの山には高位の魔物が・・・)

 いつかは自身の(ジン)がきれる。悩むワーロックの横でアレンの躰がピクッと動く。

 「グァー」と牙を剥きだし吠え声を上げ、アレンがザントマンの魔力を消し飛ばして目を覚まし、辺りを窺う。

 「アレン、老人の前の砂時計を壊せ。それで皆が目覚める。だが魔女には手を出すなよあいつらは人。それを倒せばお前は魔に堕ちる。」

 「待て。」

 飛び出そうとするアレンをワーロックが止める。

 「元を正せばお前も魔。この魔障壁(マジツク・シールド)は越えられない。

 後ろを少しだけ開ける。そこから出でよ。」

 アレンが飛び出した先にはペグ・パウラー。その一体を強力な爪の一撃で片付け、アレンは魔障壁(マジツク・シールド)を飛び越える。

 小さな火の玉も氷の礫も双刃の鎌が弾き飛ばす。

 が、天から落ちる(いかずち)に飛び上がった躰が弾き飛ばされる。

 魔障壁(マジツク・シールド)の中でワーロックが心配げに身を乗り出す。その目の先、木に叩きつけられたアレンが首を振り起き上がる。

 怪我はないようだ。

 また火の玉が飛ぶ。アレンは今度はそれを躱す。その先に氷の礫、それも躱し、地面を蹴る。

 (いかずち)が落ちる前に木の幹を蹴り先へ進む。少女の操る(いかずち)は虚しく木を焦がす。

 三人の魔女達が操る魔法は、木から木へと素早く飛び移るアレンの動きに追いつけず翻弄された。

 業を煮やしたか攻撃目標をワーロック達がいる魔障壁(マジツク・シールド)に変える。

 アレンが目指すのはザントマン。それに迫るとザントマンが後退する。双刃の鎌を投げる。と、ザントマンを庇うようにハダッハが立ちふさがり崩れ落ちる。

 またアレンが進む。するとザントマンが退がる。

 その間が殆ど詰まらない。

 ふとアレンの姿が消える。何処へワーロックが目を凝らす。

 立ち茂る木の頂上付近からブンブンと分銅を振り回しながら双刃の鎌が飛んでくる。二つをつなぐ鎖が木に絡み不規則な動きをする。

 双刃の鎌がハダッハどころか骸骨(スケルトン)までをも巻き込んでザントマンに迫る。

 ザントマンが後ろへ動く、そこへ飛び回る鎌を足場にしたアレンが吠え声を上げ飛びかかる。

 「やった。」

 ザントマンの前の砂時計がアレンの爪に砕かれた。

 「行け。」

 魔障壁(マジツク・シールド)を前面にだけ残し、ワーロックは目覚めた者達を叱咤する。

 ザクロスの投げた槍が老婆を貫き、クローネが若い女を斬り下げる。

 サイゼルはカダイ、テッドと共にペグ・パウラーに向かう。

 そしてアレン。

 「ネヴァン。」

 地に足がつく前に風の妖鳥を呼ぶ。呼ばれた妖鳥は背中の翼を広げ風を起こす。その風が小さな鎌鼬となり骸骨(スケルトン)とハダッハ達を斃して行く。

 アレンが降り立った先はザントマンの元、すぐにその喉頸に大ぶりのナイフを突きつけ、それを掻き斬った。

 「いよいよ覚醒するか。」

 その動きを見たワーロックが呻る。

 残ったものは少女とアルプ。

 アルプは早々に山の奥に逃げて行き。少女だけがその場に取り残された。

 少女の魔術を封印するためサイゼルが少女に近づく。

 「危ない。」

 ワーロックが呪を唱えようとしていた少女を結界で包む。

 「あっ。」

 レーネが悲鳴に近い声を上げる。その余韻が消えぬうちに結界の中で(いかずち)が乱舞し少女が黒焦げになった。

 「自ら死を選んだか。」

 ワーロックが辛そうな顔をし、

 「今日は休もう。レーネの体調を戻すためにも・・・」

 と、俯き加減に言った。


 また夜が明ける。

 ワーロックの辛そうな顔に笑顔は戻っていない。

 「先に進む者、ここから戻る者をはっきりさせないか。」

 唐突にザクロスが言う。

 「俺は先に進む。これくらいのことで挫折するほど俺の夢は小さくない。」

 その言葉にクローネ、レーネ、デフィン、テッド、それにカダイとヴァン・アレンが立ち上がる。

 「七人か・・では行こう。」

 「まて、私も行く。」

 意を決したワーロックの声に、サイゼルもまた立ち上がる。

 「全員だな。今後何があろうと弱音を吐くことは許さん。」

 ザクロスがそう宣言した。


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