第三章 乱 旧友(5)
逆茂木の線で止めることは出来なかった。
今は砦の前面に五百人ほどのモアドス兵がひしめいている。
「食料はあるのか・・それに水は・・」
「地下倉庫に二、三ヶ月分はある。井戸もな。幾ばくかの金もある。
心配はいらねえ。そのうち彼奴等も諦めるさ。」
ローグの質問にスローズが答える。その横から、
「逃げ道は・・・」
「何。」
「ここからの逃げ道だよ。」
ザクロスの問いにスローズは戸惑うような表情を見せ、
「険しいが裏山への抜け道はある。が、なんでそんなことを聞く。」
「いつかは矢も尽きる。そうなればあの魔女に門を焼かれ、石壁の中に敵がなだれ込む。そのときお前は老人、子供を守りきれるか。」
スローズが言葉に詰まる。
「今のうちに逃げるんだ。そして北に向かい、ガイを探す。」
「探してどうする。」
「武器と金を手に入れ、他の部族の勢力が及んでいないところで生を結ぶ。」
「どういうことだ。」
「国を作るんだよ。」
「俺達が・・か。」
「そうだ。
みんなで協議しながら国を作り、誰にも侵されないものとしていく。
それには北は格好の地だ。」
「わかる・・わかりはするが・・誰が王になる。」
「その国に王は要らない。
みんなで国の行く末を決めていく。
急げ。ありったけの物資を持ってここを落ちろ。
行き先はロゲニアの西、フレンツ川の西岸の地だ。ここに残る兵士は二十人、。残りはすべてお前が引き連れていけ。」
スローズは頷き、周りの者達に準備を急がせ、翌日には北へ向け落ちていった。
「さて俺達だが・・どうするこれから。」
ローグがザクロスを見てニヤリと笑った。
「しばらくはここを守り、時間稼ぎをする。その後、三日くらいか・・俺達三人に後四・五人ほど、相手が思いもしないあの山から逆落としに敵陣を駆け抜ける。そして敵が乱れた隙に残りの者達が脱出する。それまではありったけの矢で敵を近寄せない。」
「魔女は・・・」
誰かが訊く。
「こちらに矢がある内はやってこない。」
「ところで五人って誰が行くんだ。」
また誰かが訊く。
「命がけだ。志願者を募る。」
そのザクロスの声にざっと皆が立ち上がった。
「皆か・・ではくじ引きにするか。」
「待ってくれ・・俺が思うにここんとこの戦いを見ているとあんたら三人、誰かが抜け出す方の指揮者として来たがよいと思うが・・・」
また一人。それに皆が同意の空気を表す。
「そうか判った。それじゃあローグとクローネには別にくじを引いてもらう。
小枝を人数分拾ってきてくれ。その先を研ぎ・・・」
そこまで言うとザクロスは不満げなローグを無視し、自分の手のひらに傷をつけ、その血を傍らの器に絞った。
「紅を引いた者が逆落とし組。六本作っておく。」
そして三日後の夜。
「がんばったな。」
ザクロスが皆に声をかけた。
「モアドス兵の戦意が高くなくて助かったよ。」
誰かの声に、
「それでも怪我人が出た。」
と、誰かの声が曇る。
「そう、その怪我人にはくじを辞退してもらう。」
場がざわつこうとするのをローグが目で押さえる。
ザクロスの手に二本の小枝が握られ、そして折られた。
「まず、ローグとクローネ。」
二人の前にザクロスが手にした二本の小枝が差し出され、二人が同時にそれを引いた。
紅はクローネ。
「・・・」
何かを言おうとするローグに、
「くじには従ってもらう。」
と、ザクロスが釘を刺した。
そして次々にくじが引かれ、残る五人が決まった。
「脱出組は今すぐに発て。その際、脱出口に油をまき油の緒を引いておく。敵が押し寄せて来ればそれに火をつける。
いいな、先発隊が発ってからまだ三日。老人子供もいる荷駄隊だ。まだそう遠くへは行っていないないはずだ。彼らの命はお前達の肩にも掛かっている・・頼んだぞ。」
脱出組はその場から脱出口に向かい、突撃組は少量の油を持って砦の横の岩山へと向かった。
「クローネ、三人連れて敵に悟られぬよう静かに敵陣に潜入しろ。残った者はここに来い。丸めた柴に油をかけ斜面を転がす。だが柴の後ろは走るな。敵の目はそこに集中するぞ。それとお前達は二人で組め。必ず組んで戦え。」
ザクロスはたった一本の小さな松明に輝く皆の目を見、
「よし行け。」
と、力強く言った。
一方、ローグ達は一人の重傷を負った者を二人で支え、抜け道の外近くまで来ていた。
「俺はここに残り油に火をつける。お前達は先を急げ。」
とのローグの声に、
「待ってくれ俺は足手まといになる。俺が残る。」
と、深手を負った男が異を唱えた。
「お前では逃げきれんだろう。」
ローグが強く言う。
「あんたは俺達の指揮者だ。それがいなくてどうする。ザクロスとの約束の地、テアルとやらまで皆を導くのがお前の役目だ。
足手まといの俺をおいていけ。」
「だが・・・」
「火をつけたら俺はここらの山の中に潜み、この怪我が治ってから皆の元へ行く。
頼む情けと思って俺の言うことをきいてくれ。」
男は涙を流さんばかりに頼み込んだ。
「・・判った・・後を頼む・・・」
ローグ達はその男を残し先を急いだ。




