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第三章 乱 旧友(3)

    ×  ×  ×  × 


 ケルノイの元で暮らしていた頃、ザクロス達は自分の生い立ちを話し、それに感化されたか何人かの男達もそれまでは話すこともなかった自身のことを話し始めた。

 農奴の子、父親も解らぬ娼婦の子、盗人の子などそれぞれ生まれは違うが、虐げられ、蔑まれた親の元に生まれ、そして、(うと)まれ、厄介者扱いをされていた。それが拳闘士として売られ、親はその金で遊び、酒を飲み、子は生き残るため人殺しと成るしかなかった。

 皆同じ、最初は己の拳で戦うことを教わり

、狭い板囲いの中で殴り合いを演じる。それを見に来る客は下層の者達が多く、なけなしの金を賭け、野次を飛ばした。その子がまた拳闘士として売られ、血まみれの男達の仲間となっていく。

 十六歳のザクロスもまた、拳で戦うことから始まった。修練を始め一ヶ月が過ぎると板囲いの中に追い込まれる。年にあわぬほどがっしりとした体のザクロスには同年代の拳はほとんど通じず、負けることなくその試練を通過した。

 ここで良い成績を上げた者達は木製の武器、防具を持たされ新たな修練に入る。それに次ぐ成績を上げた者達も同じような修練に入るが早々に闘技場へと追い出され運が悪ければ早々と死を迎える。そして最悪の成績の場合、噛ませ犬として死なない程度に何度も叩きのめされ、観衆の残酷な願望を満足させるだけとなる。

 武器の修練は二ヶ月続く。木製の様々な武器で腕を磨く。修練一ヶ月後には振り分けが行われ才能がないと思われる者は早々と闘技場へ送られるか、鉱山奴隷として売り飛ばされる。ザクロスはこれも抜けきりその後の一ヶ月の修練へと進んだ。この修練は調教者(マエストロ)

と呼ばれる者の下で行われ、熾烈を極める。だが、修練を受ける者は死にものぐるいでそれに励む。負けることは死を意味し、勝てば酒と女という褒美が与えられる。死なないため、褒美のため、厳しい訓練に耐える。

 そして、闘技場へ・・ザクロスが初めて闘技場の砂を踏んだのは四季祭(フェスティバル)の日だった。普段は町の小さな闘技場で一対一で命を賭けるが、この日はこの地方一の大きな闘技場で行われ、死の狩りの犠牲者として選ばれた。だが仲間と力を合わせその試練を乗り越え、また何時もの修練へと戻った。

 ケルノイが運営する闘技舎の調教者(マエストロ)の名はエイゼルと言った。彼は元々、炭鉱労夫で酒と喧嘩に明け暮れ、その喧嘩では負け知らずだった。その腕を買われケルノイに拾い上げられた。闘技場では負け知らずで過ごし、ザクロスがここに来る一年ほど前に調教者(マエストロ)に抜擢されていた。

 彼はザクロスの才能を愛でた。ザクロスもそれに答えめきめきと腕を上げていった。

 ザクロスの得物は槍。それも比較的短い槍を好んだ。左手の盾で相手の攻撃を受け流し右手の槍で相手の死命を決した。

 この日も大きめの闘技会で他の闘技舎の剣闘士を倒し、ケルノイから一樽の褒美の酒を貰い、それを皆と一緒にあおっていた。そこには彼に目をかける調教者(マエストロ)エイゼルも居た。

 「俺達は何でこんな所にいるのかなあ。」

 酔い潰れているとばかり思っていたローグが手枕からぽつりと漏らした。

 「奴隷の子だからだよ。

 女は体を売り、男は命を売る。そして、生きてる限りは面白可笑しく暮らしていく。

 そんなもんだよ。」

 大酔していたはずのスローズが舌打ちでもしたそうな顔でローグを見た。

 「勝つことだ。勝って生き残る。そうすれば酒も女も思いのままだ。」

 その側からエイゼルが女の乳房をまさぐりながら大声を上げた。

 「本当にそれで良いのか、最近どうも悩むぜ。」

 ローグのため息に、

 「ザクロスが自由などと言い出して最近のお前達は何か勘違いしているようだな。

 我々は剣奴でしかない。とにかく励め。修練に励み、生き残ることだけを考えろ。」

 そう言ってエイゼルは意味ありげにちらっとザクロスを見、

 「今度の四季祭(フェスティバル)からはお前達四人は剣闘にだけ出ることになる。お前等は狩りの獲物にも、狩る方にも出ることはない。

 そこに寝ているボルにもそう伝えておけ。」

 「バルクは。」

 その言葉にぼそっとザクロスが聞き返す。

 「狩りの首領だよ。」

 そう言ってエイゼルは一人の女を連れ部屋を出て行き、それを期に酔い潰れたバルクとボルを置いてそれぞれの部屋に退き上げた。

 部屋・・と言ってもそこは牢獄。となりの部屋とは板塀で仕切られ、逃亡を許さぬため窓にも通路側にも鉄格子がはめ込まれている。

 通路から丸見えのその部屋で排泄をし、女も抱く。剣奴・・奴隷そのものの生活を送る。

 なぜ、人にはこうも差があるのか、自分たちの支配者(マスター)達一族はそれぞれ豪奢な部屋に寝起きし、肌触りの良い衣を身にまとい、優雅な生活を送っている。そんな者達の栄華は自分たちの命の上に成っている。なのになぜ・・・ザクロスは自分に宛がわれた狭い牢獄を見渡し、深くため息をついた。

 その後もザクロスは勝ち続け、ケルノイから白い鎧を贈られた。

 その最初の相手はバラッツ。そして二人目がレッジ、ザクロスが初めて戦ったときの仲間。

 その戦いに勝った夜、何時ものように生き残った者達で酒を酌み交わしながら、

 「こんなことがいつまで続くのか。」

 ザクロスがぽつんと言った言葉に、

 「これが俺達の生活さ・・・」

 と、ローグが口を挟んだ。

 「兵士と俺達、どちらが強いと思う。」

 何時もはそれで終わる話をザクロスが続ける。

 「俺達の方が強えーよ。」

 その話にスローズも加わってくる。

 「戦士以上だよ。」

 その横でエイゼルがニヤリと笑う。

 「そんな力を持ちながら俺達は・・・」

 「何を悩んでいるんだ。」

 ザクロスの肩をローグが抱き、

 「派手にやろうぜ・・今晩は、レッジの弔いのためにもな。」

 その後もザクロスはことあるごとに気のあった者達に自分の夢、虐げられた人々を助けることを話していた。


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