第三章 乱 策動(2)
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ヨーク王国はフランツに対し攻勢をかけていた。その対応に追われフランツはケムリニュスに対する備えが疎かになっていった。その間隙を狙ってケムリニュスが徐々にフランツに浸食していく。その中でフランツにもケムリニュスにも付かない馬賊の一団があった。
ある日のことグラウスを伴って大地を歩く司祭の近くをたまたまその馬賊が通った。司祭が声をかけるとその一団から槍をかざした騎馬兵が二人躍りかかってきた。
グラウスがその馬の下に潜り込み馬ごと騎馬兵を投げ捨てた。それを見たもう一人の騎馬兵は慌てて馬を止め、仲間達が槍を撫して二人を取り囲む。それを意にも介せぬように司祭がその一団を見回すと、騎馬の男達はその目に魅入られたように動きを止めた。
「首領はいるか。」
重囲に囲まれながらも司祭が静かな声で呼びかけた。
その前に馬に乗ったまま一人の男が進み出る。
「名は。」
「ドーク。」
司祭の声に抗いきれず男が答える。
「何を望んで兵を走らせておる。」
「面白可笑しく生きるためだよ。」
フンと鼻で笑いながらドークと名乗った男が答える。
「そうか・・それでは、もっと面白可笑しく暮らしてみないか・・女でも侍らせてな。」
「どう言うことだ。」
ドークがその言に興味を示す。
「国を造ってみらんか。」
「国・・・」
「そうだ国だ。私が手伝う・・条件付きだがな。」
「条件次第ではそれも良いかもな。」
ドークは暫く考えて答えた。
「それで条件とは。」
「ケムリニュス以外の国を相手に暴れて貰う。」
「ケムリニュスの属国か。」
「いや、ケムリニュスにもアモール教にも縛られることはない。
ただ単に暴れて貰うだけだ。」
「おもしろそうだな・・で国の名は。」
「そうだな・・ガリヤ・・でどうだ。」
「良かろう。」
ドークの肯定の言葉に周りの一団に動きが戻った。
五十人程度の集団、それに司祭が送りつけた男達三十人と女が五人。ランドアナ高原の南東端にまず村造りから始まった。有る者達は逆茂木を結い櫓を組んだ。その間にある者達はあぶれ者やならず者、それに女を集め、三月もすると村の形が出来上がった。
食料は近隣の集落から簒奪し、それが嫌ならその国の中に組み込まれることを強要した。
司祭が二年と見込んでいたガリヤは僅か一年でその形を整えだし、ならず者上がりの兵達は早くもフランツとの国境を侵しだした。
それを統べるドークは建設途中の石造りの館で女を抱いて暮らしていた。
「俺も混ぜてくれないか。」
四角で頑丈そうな体の男がその館を訪れたのはそれから半年後のことだった。その男は何か志しでもあるのか、他の男達と違って女を拐かすことも、無益な血を流すこともなく、ただ黙々と国と国の戦に明け暮れた。
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「彼方此方と荒れているようですね。」
七つの都市国家の中心テアル城内の隠れ部屋に集まった六人の賢者を前に、部屋中に置かれた何百本もの太い蝋燭の光を受けながらラダが言った。
「サンクルスとアモール。それに・・・」
「あれか・・ポルペウス奥の院に座るもの。」
ペルセポーネの言葉をデメテルが引き取った。
「各地の建国の動きを助けましょう。
それをこのヴィンツの外壁とする。」
「また同じ事の繰り返しか。」
ダナエの案にラグラが憂いも漏らした。
「戦いになるのう。」
「それが奴を喜ばせる。」
ルヒュテルに続き、デルポイもまた浮かない顔をした。
「人とは・・・」
そこに居る者達の表情が曇る。
「私達は・・・」
その空気を割りラダが話し出す。
「私達は再び崩壊するかも知れぬこの世の再生に備えなければなりません。
そのためには・・・」
「既に考えている。
場所はこの地の東方。ロゲニアの南、どの国の勢力も薄く、ロンバルギア平原を眼下に置き、遠くランドアナ高原をも望む。
その地に我等の力で結界を張り、選ばれた者達だけを迎え入れる。」
「デメテル、そこは・・・」
「そう、デヴィルズ・ピーク。」
ペルセポーネの声にデメテルが答えた。
「しかし、私達に直接戦う力は無い。」
ラダの沈んだ声を抑え、
「恰好の者がいます。」
皆が声の主を見る。
「ワーロック。
今、二人の若者を抱え彷徨っている。それを使えば・・・それにもう一人。」
「ダナエ、その件は貴女にまかせます。」
「それでは、ヴィンツの外壁の件は皆様で・・・」




