第三章 乱 策動(1)
ヨーク王国、高原の豊潤な土地を抱え、いまだ国を保っている。が、乱脈な政治により国勢は年毎に衰退していた。
その国の王都、八人の兵士に護られた若い美女が三人、ヨーク王の館に入っていった。女は若い王の側女に売られてきたらしい。そして城下では二十人ほどの屈強なそうな男達が屯していた。
館の奥、その日連れてこられた美女を素裸にしヨーク王エーシャンは悦に入っていた。
「褒美を取らす。何なと言え。」
女を連れてきた男達の中から主格らしい男が進み出る。
「私の名はダルス。
我々を、王を護る親衛隊に。」
その言葉に王の側に立つ男が苦そうな顔をする。
「そうか親衛隊か・・よかろう、ここに居るノウツの下につくがよい。」
「いいえ、我々を王の側近の親衛隊にして欲しい。」
「何。」
ノウツと呼ばれた男が剣に手を掛ける。
「まあ待て。
高望みはせぬものだ。儂はノウツの隊で満足して居る。」
ノウツはニヤリと笑い剣の柄から手を離した。
「左様で・・・では・・・女共。」
ダルスが促すと薄衣一枚で王に纏わり付いていた女達が王の側を離れる。
「何を・・・」
王が戸惑いを見せる。
「貴方は何でも叶えるとおっしゃった。
それが適わぬのであれば・・・」
「ま、待て・・一晩・・一晩、考える。」
「それでは・・・お前等、王の相手をせい。」
女達はまた王に纏わり付いた。
その夜。
「いいな、ぬかるなよ。」
三十人程の手下にダルス等の宿を囲ませノウツはその場を去った。
行くぞ。と目配せをしてノウツの手下達がその宿に踏み込んだ。寝込みを襲うはずだった。しかし、ダルス達はそれを予期したように待ち構えていた。
腕が立つ・・ダルス達は大した時間も掛けずその全てを斬り伏せた。
その頃、王の寝所では三人の女がエーシャンの身体をまさぐり、この世のものとは思えぬ至上の快楽を与えていた。達しそうで達しない。達してなさそうで達している。エーシャンは女のように快楽の呻き声を上げ身悶えていた。
翌日の昼過ぎやっと寝所を離れたエーシャンは玉座の間にダルスを呼んだ。
ダルスと共に彼の手下もそこに現れ、そこには傷を負った者もいた。
「どうした。」
尋ねる王の前にポンとダルスが剣の下げ緒を投げた。
「誰のものでしょうな。
昨夜、親衛隊に襲われましてな。
宿の裏でこれを拾った。
後ろで糸を引いたのは誰であるかは明白。」
剣に手をかけたノウツに王の側に侍る二人の女が飛びかかり、一人がエーシャンを庇った。
「ノウツ・・お前は何を・・・」
エーシャンの言葉が終わる前にダルスが投げた短剣がノウツの心臓を貫いた。
そして、
「エーシャン王、昨日の件は。」
と、ダルスがたたみかけた。
「そちに任す。好きようにせい。」
と、恐怖に引き攣った顔で言葉を残し、エーシャンは三人の女に震える身体を預け、奥へと逃げるように駆け込んだ。
早速、ダルスは中庭に親衛隊員を集め、その前にノウツの首を置いた。
「今日から私が親衛隊の長だ。それに文句のある奴はそれなりの覚悟をしておけ。」
その日からエーシャン王は館の奥に籠もることが多くなり、実権はほとんどダルスが握った。
政治向きのことはダルスが奥に伝え、それを受け取るのは二人の女。そしてそれを、三人の女の長らしいとびきりの美女にそれを伝える。シェーレと呼ばれるその女は自身でそれに決裁を与え、エーシャンはそれを事後承諾する。王は完全に三人の女によって骨抜きにされていた。
そんなある日、ケムリニュス神聖国の司祭がヨークの王都を訪ねて来た。司祭は大男を伴い王の館の別室にシェーレを呼び、
「うまくやっているか・・ニ・カロン。」
と、尋ねた。
ニ・カロン、その美貌で男を虜にし骨抜きにし、その男を思いのままに操る。その挙げ句に男の精を吸い自分の僕とする夜魔の一種。それに取り憑かれた男に逃げる術はない。
「骨抜きにはいたしましたが、まだ暫く・・・」
「国は牛耳っても三ヶ月ではまだ国を譲るまでは行かないか。」
続いて司祭は遅れてその部屋に入ってきたダルスを見た。
「お前の方はどうだ、ドラウグ。」
人に比べると強大な力を持ち、武器を扱い、魔力までを備える種族、屍鬼ドラウグ。それが答える。
「全軍とは行きませんが殆どを掌握いたしました。」
「兵数は。」
「約三千。」
「五千まで伸ばせ。その部将として五人を残し後はケントスに連れて帰る。」
そして司祭は二人となにやら打ち合わせをしケントスに帰って行った。
その翌日から、まずダルスが動き出した。兵を集め、王のハーレムをなお一層充実させるため村を襲った。その一方で、牽制のためフランツに小競り合いを仕掛けた。
シェーレは王のとは別に館を造り始め、ダルスが集めてきた女に性技を教え込み性奴としての磨きをかけた。別邸が出来上がると女達をそこに集めそこにエーシャンを招いた。
エーシャンが別邸に移るとすぐに、ダルスは玉座の隣に自分の座を設け、軍に命令を発しだした。王は有名無実となり政治はシェーレが、軍はダルスが完全に掌握した。
× × × ×
「ヨークが騒がしいようですね。」
ラグラが口を開いた。
「ケムリニュスの司祭と呼ばれる男があれこれと動いてるようだ。」
ルヒュテルがそれに答える。
「何者だ。その司祭とは。」
「解らぬ・・・アムール教の教祖ランプールがその教義を唱えだした頃にはすでにその隣りにいた。何処から来たのか、何者なのか、名さえ解らぬ。」
デルポイの問いに再びルヒュテルが答えた。
「策を練らぬとなりませんね。」
ラダが心配そうな表情を見せる。
「いっその事、皆がここテアルに集まったらどうだ。我々の協議も楽に出来る。
他の六都市には気の利いた者を配置してここを護らせる・・・というのは。」
というデメテルの案に皆が賛意を表した。




