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第三章 乱 戦士ザクロス(1)

モングレトロス。ここでは今日も若い者達の訓練が続いている。そんな中、教授であるはずのサイクロスだけが浮かない顔をしていた。

 「何か気になることでもあるのかな。」

 そこを通りかかった老婆がサイクロスに尋ねた。

 「別に・・・」

 サイクロスは何食わぬ顔でやり過ごそうとした。が、

 「今晩、儂の家に来るがよい。」

 老婆はその顔にたたみかけた。

アリアス達がサイクロスに駆け寄り、どうしたのかと騒ぎ立てる。 

「何も無い・・訓練を続けろ。」

 サイクロスは怒ったようにその騒ぎを制した。

 その晩。

 「血が熱くなって居るか。」

 老婆が目の前のサイクロスに尋ねた。その言葉に対し彼はそっぽを向いた。

 「山脈の北の戦乱がおぬしの耳に入らぬことも無かろう。さればおぬしの血も騒ぎ、怒りも沸騰するはず・・・違うか。」

 サイクロスは微かに肯いた。

 「今までご苦労だった。」

 そう言うと老婆は重そうな革袋をサイクロスの前に置いた。

 「村長にも話した。

 これは今までの村からの礼じゃ・・・おぬしがいなくなるのは惜しくはあるが・・このまま発つがよい。

 委細は儂から皆に話しておく・・供には・・・」

 「要りません・・独りで・・今夜、発つ。」


 翌朝、修練の時刻になっても現れぬサイクロスに若者達が騒ぎ出した。そこへ老婆が現れた。

 「騒ぐでない。サイクロスは旅立った。」

 何故という若者達の眼が老婆を見詰める。

 「あいつの本当の名はザクロス。白鎧のザクロス。農奴の子として生まれたと聞いている。」


×  ×  ×  ×


ロゲニアの貧乏農家の子ザクロス。生まれながらに身体が大きかった。

 父親は飲んだくれ。母親は彼が幼い頃男と逃げた。そんなろくな環境では育たなかった。

 ザクロスが十六になると父親は飲む金欲しさに大人顔負けの屈強な身体を持つザクロスを剣闘士の一団に奴隷として売った。

一年の修行の後ザクロスは殺され役として初めて闘技場に立つことになった。

 明日は殺されるという前夜、二十四人の男達は一つの檻に入れられた。そこには悄然と座り込みぽかんと空を見上げる者。恐怖の余り小便を漏らす者。神に命乞いをする者。恐慌が渦巻いていた。

 「明日はどんな戦いをするんだ。」

 ザクロスはそんな中から泰然としている男を選び話しかけた。

 「二人一組、それに短い剣と大きな楯が一つずつ宛がわれる。二人の腕は鎖で繋がれ思うようには動けない。そこへ三人の騎馬戦士と五人の戦士が襲いかかり俺達を切り刻むという算段だ。」

 その男もまた下を向いた。

 「生き残ればどうなる。」

 ザクロスがたたみかける。

 「万が一生き残れば、また次の戦いに出る。

 俺達は血に飢えた民衆を喜ばせるための生け贄だよ。」

 「生き残り続けたらどうなる。」

 「自由を与えられることもあるらしい。」

 「らしいじゃ無い。現に親方のケルノイお気に入りのエイゼルは鎖を解かれ、今じゃあ女付きの豪勢な馬車を独り占めしている。」

 「自由・・・

 ところで、相棒はどうやって決めるんだ。」

 「フン、ここに入る前に木の札を付けられたろうが。その数を見てみろ。」

 ザクロスは言われるままに木札に目を落とした。刻みが六本。

 「それと同じ数の奴が明日のお前の相棒だ。」

「六。」

 「なら俺だな。」

 向こうで黒い肌の、引き締まった身体を持つ男が立ち上がった。

 「新入りが相棒とはお前もお終いだな、ローグ。」

 「ガイ、そう言うお前は。」

 「十一。」

 「俺だよ、ガイ。」

 また一人の男が立つ。

 「バルク、宜しく頼むぜ。」

 ザクロスと話していた男がその男に会釈を送った。

 「相手の武器は。」

 ローグと呼ばれた男にザクロスが尋ねる。

 「馬に乗った奴が弓と槍、それに短い剣。

 それ以外はそれぞれ自分の得意の武器を持っている。」

 「俺達の楯は大きいのか。」

 「ああ大きい。身体の半分ほどはある。

 剣は俺が使う。お前は楯を使って俺を守るんだ。

 銅鑼が鳴るまで逃げ切れれば生き残れる。」

 「楯を横に倒せば人二人が隠れられるのか。」

 「ああ上半身はすっぽり隠れる。

 そんなことを聞いてどうしようって言うんだ。」

 ザクロスは暫く考えそして要った。

 「作戦がある。」

 「作戦だぁ。ケツの青いガキが何を言いやがる。」

 壁にもたれ浮かなそうな顔をしていた大男がザクロスに近づき、胸ぐらをぐいっと掴んだ。その大男の足をザクロスが横様に蹴り払う。

 「この野郎。」

 尻餅をついた大男が再び立ち上がり、ザクロスに殴りかかる。

 その拳をザクロスが巧みに躱す。

 「なめやがって。」

 その大男はますますいきり立った。

 「止めておけよ、スローズ。

 お前もだ小僧。そいつは明日の相棒があそこの隅でションベン漏らしてる奴に決まって荒れている。殺されるぞ。」

 心配ごかしていうローグの口元は薄ら笑いを浮かべていた。

 「こいつと俺の相棒をぶっ殺して俺と組もうぜ、ローグ。」

 怒りに真っ赤になりながら拳を振るう大男の鳩尾にザクロスの硬い拳がめり込み、そして手刀が首筋を打った。

 大男がどうと倒れる。

 「やるじゃねえか。」

 ヒューと口笛を吹きローグが感心したように言った。

 「作戦とか言ったな。」

 バルクと呼ばれた男がザクロスに近づいてくる。

 「あんた達は。」

 「生き残りだよ。

 そこに倒れているスローズは一対一の決闘に三度勝っている。

 そして俺とローグは戦いを四度生き残り、ガイは戦いを二度と決闘を一度。

 まあここでは強いほうだ。」

「相手のやり口は。まず矢で痛めつけて動きを鈍らせ、それから切り刻みに掛かる。そんな所か。」

 「ああその通りだ。」

 「明日の戦いは我々だけで・・・」

 「いやもう一団。装備は同じだ。」

 「その中にも生き残っていた者達がいるのか。」

 バルクがそれに肯く。

 「なら勝てる。」

 「勝てるぅ。」

 ガイが素っ頓狂な声をあげる。

 「深手を負わないようにして逃げ回るのがやっとだぜ。」

 「いや、勝てる。相手を叩き潰せる。」

 「どうやるんだ。」

 そこに居る三人が身を乗り出すのを脇目にザクロスはスローズに活を入れた。

 「俺達で三組。それにもう一つの方から最低三組集める。それが出来るか。」

 「出来ると思うが。」

 「明日闘技場に入ったらすぐにそれを集めてくれ。」

 「そして・・・」

 「楯を横にして二段に構え矢を防ぐ。」

 目を覚ましたスローズも一緒に肯く。

 「矢が効かぬ敵は業を煮やして馬を進めてくる。その脚に俺達の手を繋いだ鎖を引っかける。

 怖いのは矢と馬。後は乱戦だ。勝機は充分ある。」

 「よっしゃあ。」

 真っ先にスローズが大声を上げた。


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