第三章 乱 開戦前夜(1)
「プリンツはランドアナのならず者共を随分と集めているようだな。」
「ああ、ひょっとするとそろそろ大攻勢を掛けてくるかも知れんな。」
ケムリニュスの宮城の奥、ゲールとカーツが額を寄せていた。
「我が国の軍備は。」
「スルを呼ぼう。あいつに訊かねば分からん。
あいつも一緒に法王の前に。
早急に対策を練らんとまずいぞ。」
二人が慌てたように法王の間に入っていくと、そこではゾルディエールとエピールオが何やらひそひそと密談をしていた。
「ゾル・・いや、法王様。」
ゲールは言い換え、ゾルディエールに声を掛けた。
「何だ、ゲール。」
ゾルディエールは鷹揚に振り向き、エピールオは慌てた様子でテーブルの上の紙切れを片付けた。
「何の相談ですか。」
ゲールが尋ねる。
「何でもよかろう。」
ゾルディエールはまたも鷹揚に答えた。
「プリンツが戦力を増大しているぞ。」
ゲールは舌打ちしたそうな顔で云った。
「その件はお前達二人とスルにまかせる。」
「そうはいきません。」
ゾルディエールの声に急いで部屋に入ってきたスルの声が被る。
「経済は貴方とエピールオが握っていらっしゃる。
我々だけではこの話は出来ない。」
「ふん・・仕方ないか。」
ゾルディエールは渋々テーブルに三人を招き寄せた。
「我が軍の兵力は僅か一万。」
まず、スルが話し始めた。
「対するフランツの兵力は二万。それにプリンツには聖騎士と呼ばれる軍が約五千。
その上プリンツはならず者を集め、もう一軍を造ろうとしている。」
「我等も兵を集めればよいでは無いか。」
その言葉に対しゾルディエールは投げ捨てるように云った。
「そうはいきません。兵を集めるには金がいります。
その金は法王様と、そこに居るエピールオが握っています。」
ゲール、カーツそれにスルの三人が忌々しげに舌を鳴らすゾルディエールと、その威を借りたエピールオに詰め寄った。
「我が軍は神に愛でられし軍。それしきの兵力差に恐れるものではない。」
「ならば貴方が先頭に立ち、軍をお進め下さい。」
「なに・・・ええい・・どうせいと言うのだ。」
ゾルディエールが怒声を発する。
「美衣、美食、美酒。それに美女を侍らせ、日中から荒淫に耽り、その上、貴方様だけの壮大な宮殿を建てようとしている。
まずそれをお止めください。」
「宮殿はともかく、他はお前等も同じであろう。」
「貴方様のは度が過ぎております。
政治を見らねば、国が滅びますぞ。」
「それを見るのがお前等の役目であろう。」
喧々囂々の言い合いが続く中に音も無く司祭が入ってきた。
「ヨークを攻めなされ。」
三人の容姿に優れた、だが青白い肌をした美女を伴った司祭を五人の目が見詰めた。
「ヨークを・・・」
ゾルディエールが口走る。
「そう、ヨークです。
彼の国はフランツの勢いに押され、弱体化しています。とは言え、今だ豊穣の地を抑え国の財政は富んでおります。ただ指導者がいないだけ。
あの国をお取りなさい。すれば全ての望みが叶う。」
「戦か・・・」
ゾルディエールの顔色が曇る。
「おや・・貴方もランプールと同じ道を参りますか。」
司祭の言葉にゾルディエールは背筋を凍らせる。
「分かった・・・・戦を起こす。
スル・・すぐに兵を整えよ。」
「そうはいっても兵力が・・・」
「心配には及びません。三月あればあの国は骨抜きになり、我らの属国となります。」
そう言うと司祭は影のように部屋を出て行った。




