第三章 乱 捜索(4)
祠に入ると中は薄暗く、たった一つ木戸があるだけだった。
「アノナカ・・」
不用意に近づこうとするアレンをサイゼルが手で制し、ブルベガーを呼び出した。
「災いを未然に知りますか。」
ワーロックがニコッと笑う横からアレンが木戸を開けた。
そこには地の底に繋がるかのような暗い階段。
「火を・・・」
言うとワーロックは傍らの布きれに手を伸ばし、引いた。その布陰からカタカタと音を立て人骨が溢れ出た。
「マモノ。」
アレンが口に出し、サイゼルがブルベガーに目をやる。しかしブルベガーには何の反応も無い。
「とにかく行きましょう。」
長い階段を下りると広い踊り場。そこにもいくつかの白骨が転がっている。その白骨の一つの手に大振りのナイフが握られていた。
「梵字・・梵字が刻まれたナイフ。」
ワーロックはそれを手に取り、ポンとそれをアレンに投げた。
アレンがそのナイフを手にする。柄にはちょうど指が入るだけの丸いリングが飾りのようにつき、刃渡りは三十センチ以上。充分闘いに仕える。アレンは嬉しそうにそれを右に、左に持ち替えた。
そんな中サイゼルがふとブルベガーに目をやると、ブルベガーは何かに身構えていた。
ワーロックの袖を引く。
三人に緊張が走り、その前の床が盛り上がる。
「ボーグル。鬼族の一つ。低級とは言えない。
アレン、お前の妖魔狩り(デビル ハンター)としての資質を試すには良い相手だ。」
ワーロックがアレンに目をやると、
「カ・・」
「狭い所で火は使うな。自身が火に塗れる。自分の手で倒せ。」
ワーロックの声にアレンがナイフを逆手に握り素早く身構えると、その姿に向けボーグルの鉄棒が横殴りにとんだ。
その一撃を躱しアレンがボーグルに肉薄する。
ボーグルがそれを嫌うように鉄棒を突き出す。ガキンとナイフの握りがそれを跳ね、刃先がボーグルの身体を捉えた。
ボトボトと妖気がボーグルの身体から溢れ出る。そこへもう一突きし、抉り込むとボーグルの身体が黒い泡状に溶けていった。
「行きましょう。」
ワーロックの声が掛かるがアレンは何を見つけたか、踊り場の明かりの当たらない片隅を見詰めている。
「イル。」
「構うな。スクォンクだ。何も悪さは出来ない。」
そう言うワーロックの声を無視してアレンはその犬のような妖獣に近づく。
「シモベニスル。」
アレンは自分の左手に傷をつけ、その妖獣の額に当てた。
「役には立たんぞ。」
ワーロックはそれを見て笑った。
その階を後にまた階段を下り、広い階に着いた。
そこに見えるものは多数の腐りかけた屍体。そして、その向こうに扉が一つ。
「ウゴク。」
アレンの声がそうさせたのかズルズルとその屍体が床を這いこちらに向かってくる。
「グールか。魂は死しても肉体は滅びきれなかった者。
頭を狙え。それでこの者達は黄泉の国へ逝ける。それが慈悲だ。」
ワーロックの言葉と共にアレンが動く屍体に跳びかかった。サイゼルもまた・・
ワーロックは杖尻に現れた刃でグールを斬り伏せ、アレンは大振りのナイフで、そしてサイゼルは手にした剣で・・そうやって大方の屍鬼を片付け、奥の扉に行き着いた。
「よし、扉を開けるぞ。」
サイゼルとアレンの闘いを見ながらワーロックが扉に手を掛けた。
次の部屋への道が開く、だがそこには数え切れないほどの餓鬼共が巣くっていた。
「くそ。」
慌てて扉を閉じようとしたワーロックの後ろから光が迸り、その光の力で餓鬼共がボロボロと崩れ去った。
「サイゼル。」
驚いたように振り向いたワーロックの眼に、微かに微笑むサイゼルの顔が映った。
「もう一つ奥へ。」
ワーロックは次の扉を指差した。
松明に照らし出された部屋の壁は真っ黒で、その奥に巨きな人骨がへたり込むように座っている。その胸には二本の太刀が突き刺さっていた。
そしてその前には人と覚しき骨が二つ。
「酒呑童子・・だとすると、他にも鬼が・・」
ワーロックは辺りを見回した。すると、黒い壁がグニャリと歪みそこから溢れ出るように四匹の鬼が現れた。
「やはり・・・
サイゼル、巨人の骨から刀を抜け。但し黒い柄の一本だけだ。赤い柄はその鬼を封じている。」
熊童子、虎熊童子、星熊童子、金熊童子。
シュテンドウジの四天王と言われる鬼達。それらが手に手に獲物を持ってにじり寄ってくる。
熊童子が棘のついた大きな金棒を振り回す。それをナイフの柄で受けたアレンが大きく弾き飛ばされ、強かに壁に打ち据えられ踞った。
「鬼切丸・・サイゼル、その太刀で闘うのだ。お前の武器ではそれしか効かぬ。」
言いながらワーロックは手につけた大きな鋼の爪を振り回す虎熊童子の相手をしている。
「カソ、ネヴァン。」
アレンは妖魔を呼び出し、巨刀斬馬刀を振り回す星熊童子の相手をさせ、自身は鎖鎌を使う金熊童子に斬りかかる。
「無理するなアレン。お前のナイフは用をなさん。」
ワーロックの怒鳴り声を無視して、アレンは飛び来る鉄の分銅と両刃の鎌を躱しながら少しずつ、少しずつ、金熊童子を傷付けていった。
「それほどの妖力か。」
ワーロックが呆れたように溜息をつく。
「ランダノムスコ、ヴァン・アレン・・コレシキノマモノニハマケン。」
アレンは叫び、金熊童子の喉を掻き切った。
一方、サイゼルは素早く熊童子の金棒を躱し、斬りつける隙を狙っていた。そして遂に、不用意に金棒を振り回した熊童子の右腕を切り落とした。
広い部屋の中に熊童子の咆哮が谺する。その喉元にサイゼルが手にした鬼切丸が突き刺さった。
後二体。ワーロックの前の虎熊童子。そして数匹の火鼠を斬り倒し、ネヴァンの風の魔法を避け続けている星熊童子。
虎熊童子の身体に向け双刃の大きな鎌がとんだ。それは倒した金熊童子からアレンが奪った物だった。
それを虎熊童子の拳についた大きな鋼鉄の爪が弾いた。
もう一度今度は鎖で振り回すようにアレンが大鎌を投げる。
同じように虎熊童子が鋼鉄の爪で弾く。だが今度はアレンが大鎌に繋がる鎖を少しだけ緩めた。鎖が腕を巻き大鎌が大きく弧を描き、グサリと虎熊童子の背に突き立った。
アレンが鎖を引く。諸刃の大鎌が虎熊童子の背を斬り裂き、苦しそうに虎熊童子が膝をついた。
その額を鉄の分銅が叩き割った。
部屋のもう片方では、ネヴァンが放つ鎌鼬と火鼠の攻撃に追い詰められた星熊童子にサイゼルが斬りかかっていた。それでも星熊童子は剣を巧みに操りサイゼルの攻撃を躱している。そこへ鉄の分銅が飛び来、それに連なる鎖が星熊童子の腕に巻き付いた。
その鎖を星熊童子がグッと引く。アレンもまた。
「力比べをするつもりか。無茶は止せ。」
ワーロックが叫ぶ。が、星熊童子が引く鎖がガツッと止まった。
見ると鎖の一方、大鎌が壁に突き刺さっている。そしてピンと張った鎖の方向からサイゼルが斬りかかる。動きを制限された星熊童子の身体をネヴァンの鎌鼬が傷付けていく。
それに気を取られた一瞬、飛び上がったサイゼルの鬼切丸の一閃が星熊童子の肩口を捉え、一気に斬り下げた。
闘いを終え、アレンを見ると身体が一回り大きくなっている。それにしゃべり方も・・・。
「倒した魔物の妖気を受け成長したか。」
立派な青年の姿をしたアレンがコクリと頷く。
「成長・・と言うより、妖魔狩り(デビル ハンター)として覚醒したな、ヴァン・アレン。」
ワーロックがニコッと笑った。
その目の前にサイゼルが小さな何かの像を差し出した。
「スフィンクス。」
ワーロックが目を見張る。
「それは像ではない。
待っていたのだ・・お前を。」
何・・と言うようにサイゼルが首を傾げる。
「スフィンクス・・知恵と力を併せ持ち、それを使う者を守護すると云われている神獣。
この像は封じ込まれたスフィンクスそのもの。覚醒させる者の血を待っているぞ、サイゼル。」
サイゼルは自分の手に傷をつけ、滴る血を像に落とした。
白い煙が上がり、美しい女性の上半身と逞しい獅子の下半身と毒蛇の尻尾を持った神獣が現れ、すぐにサイゼルの右手の傷の中へ消えた。




