第三章 乱 捜索(3)
翌朝、日が昇る前にハベトロットの予測通り、レーネは産気づいた。
まかせて良かろう。と言うワーロックの言葉にサイゼル達は三人で山を目指した。
その道筋、アレンが警戒の色を示した。
「出るようだな、低級な魔物が。」
その横でワーロックがニコッと笑う。
「修行にはちょうど良かろう。」
ワーロックの言葉が終わらぬうちにサイゼルの横を何者かがすり抜け、その通った後、辛うじてその魔物の爪の一撃を避けたサイゼルの頬から僅かな血が流れ落ちた。
「ブルベガー、人を驚かせて喜ぶ。殆ど罪の無い妖精のはず。
それがなぜ人を傷付けようとする。」
ワーロックが困惑の表情を見せる。
木立の向こう、黒い毛に覆われ後ろ足だけで立った犬が裂けた口から牙を剥き出しに唸っている。
それらに対峙するアレンの爪が異様に長く鋭くなる。
「魔に魅入られている。油断するな。
そして、一体は残せ。奴は悪しき予兆を感じることが出来る。
サイゼルの僕とするのだ。役に立つ。」
「カソ。」
アレンの左手から紅の毛を纏った大きな鼠が飛び出し、その一匹一匹がブルベガーに纏わり付く。
煩そうにブルベガーがそれを鋭い爪に掛けようとする。と、その鼠は一斉に燃え上がった。
ブルベガーが炎に包まれ、傷を負っていない一体にサイゼルが近づきその額に自分の血の付いた掌を押し当てた。
「武器がいるな・・ネヴァンが指し示したあの峰に何かがある。」
片が付くとワーロックはそう独りごちた。
低級な魔物を倒しながらネヴァンが指差した峰を間近に望む高みに着いた。
「祠・・あそこだ。」
ワーロックの眼に山頂近くの祠が見えた。
そして、
「来る。」
と、大声を発した。
灰色の身体を持った五メートルはあろうかと言う巨大な百足。それにアレンが左手を差し出す。
「カ・・」
「止せ。相手は大石百足。火は通じぬ。ネヴァンの風も。」
ワーロックがそれを制した。
「ドウス・・」
アレンが戸惑いの色を見せる。
「地道に叩き潰すしか無い。
今の我等に打つ手は無い。ここは退ろう。」
ワーロックはサイゼルとヴァン・アレンを引き摺るようにしてその高みを下りた。
森の中で一晩を過ごすと、翌朝早くに巨大な足音が三人をたたき起こした。
「モリガウゴイテ・・・」
「森ではない。森の精グリーンマン。」
アレンの声にすぐにワーロックが被せた。
「これなら・・・私にまかせろ。」
言葉と同時にワーロックが呪を唱え、それと共にグリーンマンの動きが鈍った。その隙にワーロックは地面に魔方陣を描き、その中に緑色の巨人を誘い込んだ。
「我が名はワーロック。そなたを捕らえし者。汝、我が意に従え。」
その言葉と共に緑の巨人はワーロックの右手に吸い込まれた。
「誰が私達の見方をしてくれるやら・・次々と都合良く事が運ぶ。
さて・・大石百足退治に行きましょうか。」
巨人を吸い込んだ右手を見詰めながらワーロックが二人を促した。
再び祠の前、大石百足と対峙する。
ワーロックが大石百足に向け右手を突き出し、グリーンマンを召喚する。
呼び出されたグリーンマンが百足に殴りかかる。
大石百足も毒の牙を剥き出しにグリーンマンに喰らいつく。が、森の精は毒はおろか、齧り取られた所もすぐに再生し、何の痛痒も受けない。
それを見て百足がグリーンマンに巻き付き、もみ合いになる。その中でグリーンマンの棘だった拳が大石百足の身体の一部を潰した。
「行きましょう。」
その戦いをよそにワーロックが二人に声を掛ける。
「後は、グリーンマンにまかせて大丈夫です。」




