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第三章 乱 捜索(2)

×  ×  ×  ×


ワーロックが住んでいた粗末な小屋を後にしたサイゼル達は、ファナを救うというサイゼルの意をくんでガルスの農場に忍び込んだ。だがファナとクルスは既にそこには居なかった。

 「気を落とさないで。」

 レーネが優しくサイゼルの肩を抱き寄せる。

 「他を当たろう。きっと彼等はお前を探している。」

 その横でワーロックが力強く言った。

 

 まずはヴィンツ・・レーネの言葉にワーロックが首を振る。

 「今は私はあそこには行けない。」

 なぜというレーネの言葉を無視してワーロックは南を指さした。

 「山脈を越えよう。サイゼルが生まれた町、タキオスの北の村。そこを目指す。

 うまくいけばそこでファナ達に巡り会える。」


 サルミット山脈の一番低い所、山脈の北と南を結ぶ唯一つと言って良い道。そこに足を踏み入れ、二日目の夕暮れには峠に野営を張った。

 その夜・・・ 

「グルルル・・」

 生まれて暫くしか経たないのに、既に十二、三歳くらいの少年の体躯に育ったアレンが喉を鳴らした。

 「何かがいる。」

 焼けた山鳩の腿を傍らに置きレーネが身構える。

 「シッ・・」

 ワーロックが唇に指を当てる。

 闇の中に真っ赤な目が光っている。

 「狼・・」

 闇に熔けた真っ黒い身体に眼だけがギラギラと赤く光っている。

 「アンシリーコート。

 邪悪な妖精の一種だ。

 最近こういう手合いが増えた。」

 ワーロックが手にした杖を構える。

 サイゼルもまた剣を手に取った。

 その群れに向け呪を唱えるレーネの横からアレンが真っ黒な犬に見えるものに跳びかかっていった。その指先には鋭い爪、それが邪精の身体を斬り裂く。

 「魔物の血のほうが強いか。」

 ワーロックが溜息をつく。

その横でレーネの水の魔術が魔物の一体を捉える。

 「サイゼル、お前の剣は魔物には通用しないぞ。」

 振り向くワーロックの眼の先で、アンシーリーコートが一体消え去った。

 「これほどとは。」

 ワーロックは先程とは違う溜息をつき、己も一体の魔物を屠った。

 暫くの戦いで粗方の始末はついた。そんな中、逃げるアンシリーコートを追いかけサイゼルが山に分け入っていき、その後をアレンも追っていった。

 「止まれ。」

 それを制するワーロックの声も無視し、二人は尚も山を目指す。

 「仕方がない追うぞ。」

 ワーロックはレーネを促した。

 夜の山、しかも鬱蒼たる森の中。そこには満月の光も届かない。

 「くそッ。」

 ワーロックとレーネの目には何も見えない。

 そこにポツンポツンと小さな篝火のような火が灯る。

 「まずい、火鼠だ。下手に動くと火に塗れる。」

 ワーロックの行き足が鈍る。

 しかし、火鼠はワーロック達とアレンを結ぶように火の道を造った。

「どう・・・」

 「訳がわからんが急ごう。」

 レーネを振り向く。

 火の道の先に二人の影が揺れる。

 その先には・・・

 「ネヴァン。」

 ワーロックがレーネを手で制しながら声を発する。

 「こいつは中位の魔物、お前等では倒せぬ。

 私が相手をする。」

 妖犬の頭を撫でる美しい羽根を背に持った美女にワーロックが緊張を滲ませ、にじり寄る。

 その横をスルリと通り抜け、ネヴァンはサイゼルに敬意を払い、そしてアレンに近づき、唸るアレンに軽く口づけをした。

 「邪気が・・」

 「えっ・・・」

 ワーロックの声にレーネが反応する。

 「消えた。」

 「どういうことですか。」

 「ネヴァン、彼女は元々光の因子を持つ妖精。それがアレンの邪気を吸い取った。

 現に・・見ろ。」

 ワーロックとレーネの目の前でアレンの鋭い獣の爪が消えていき、人のものへと変わった。

 そして、表情も・・・。

 それを横目にネヴァンがサイゼルの前に跪く。

 サイゼルはアレンを指さす。

 まずその場に集まっていた火鼠達が、そしてネヴァンが山を指差した後アレンの身体の中に消えていった。

 「どうして・・」

 レーネがワーロックに疑問を投げかける。

 「光の因子を持ち、光を守る者達がサイゼルの廻りに集まり始めている。

 いよいよ始まるようですね。」

 何が。と言うレーネの質問にワーロックは答えなかった。


 サイゼルが闇の向こうを指差す。そこには仄かな灯りが。

 「宿を借りるか。」

 ワーロックを先頭にその灯りを目指した。

 「臨月かい。」

 小屋にいた中年の女はレーネの下腹を見るとすぐに言った。

 「診てあげようかね。」

 中年の女はレーネを衝立の陰に(いざな)った。

「開いているねえ・・明日の朝にも産気づくよ。」

 衝立の向こうから中年の女の声が聞こえ、

 「もう良いよ、ゆっくり休みな。」

 と、レーネに声を掛け、濡れた手を拭きながら中年の女が衝立のこちらに出てきた。

 「あんまり無理させるんじゃ無いよ。」

 老婆はワーロックの眼をキッと睨んだ。

 「お前は・・・」

 「儂の名はハベト・・お前さんには儂の素性は分かるじゃろうて。」

 ワーロックが(かす)かに肯く。

 「あの女は出産に入る。ネヴァンに教えられた山の上にはお前さん等だけで行くが良い。

 ネヴァンはそこまで見越してここに誘い込んだのだろうよ。」

 「ダレ・・・」

 ヴァン・アレンが初めて言葉を発した。

 「紡ぐ女、ハベトロット。

 邪悪なものではない。」

 ワーロックがその問いに答え、中年の女が醜い唇を歪めてニヤリと笑った。


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