第一章 幼子 剣士と魔道士(3)
商隊とも言える幌馬車隊の中に今回はエミリオスとサイゼルの姿もあった。
エミリオスは日中の休息時にははサイゼルに剣を教え、夜はランダに添い寝した。
十日ほどの旅程の後、先駆けに出していたランダの部下が耳寄りな情報を仕入れてきた。
「本当かそれは。」
「確かでございます。
我等と同じように檻を積んだ馬車二台に男と女を乗せた一隊が、北東に向かっています。」
「北東・・ロゲニアか・・・
それは我等と同じ人買いか。」
「いいえ。
人狩りの一隊と思われます。」
「なぜ解る。」
「その者達は武装し、檻に繋がれた男達の中には傷を負った者も居ますので。」
「人買いの信義には反せんか・・よかろう・・武装しな。その一隊を襲い、その獲物を頂くよ。」
十人を幌馬車隊の守備に残し、二十人ほどで標的となる荷馬車隊を追いかけた。
馬に乗るランダ、エミリオス、サイゼルの後に息を切らして部下達が続く。
遠くに目指す荷馬車隊を臨む丘陵の上でランダの馬が止まった。
「相手は何人だい。」
まだ肩で息をする部下にランダが問いかける。
「十人足らずです。」
「大したことはないわね。
一気にやっつけるよ。」
ランダは馬車に向け拳を突き出した。
一方、馬車隊の方はとっくにこのことを知っていた。
「まんまと罠に引っかかりやがった。獲物が向こうからやって来るぞ。
叩き潰しな。」
荒野の向こうからおめき声が上がり、それが徐々に大きくなってくる。
両者がぶつかり合う。数で有利なはずのランダの部下達が次々と斬り伏せられる。
「強いねえ。」
「強いはず、スパルタン人だ。」
ランダの横に馬を並べるエミリオスが呻く。
「なんだいそりゃ。」
「戦うためだけの部族。」
「そうかい・・それじゃあ・・行きな。」
ランダがエミリオスに顎をしゃくる。
エミリオスと共にサイゼルが飛び出す。
「これを使いな。」
そのサイゼルにランダが小さな剣を投げ与えた。
エミリオスとサイゼルの力で形勢が逆転した。が、スパルタン人を率いる老婆には二人の剣も用をなさない。
ランダの眼がギラリと光り、スパルタン人の動きが止まる。
「お退き。」
部下達を退きあげさせ、ランダが老婆の前に立つ。
「お前さん。名は。」
そのランダを恐れるように老婆が答える。
「ガルフィ・・・」
「私が誰だか解るかい。」
老婆がガクガクと頷く。
「どうだい。その獲物とお前の部下達、私に譲る気は無いかい。」
そう言うランダの言葉にも老婆は頷くだけだった。
「聞き分けが良いようだね。
ついでにお前さんの身も引き取ってあげるよ。
檻の中の女達を使ってケントスで娼館でも開くんだね。
売り上げの半分は私に。
それでお前さんの命は救われる。」
喜びを表すのか、老婆は黄色い歯を剥き出しにニタッと笑い、頷いた。
「それともう一つ。
私の正体を私の部下共にばらすんじゃ無いよ。
そん時ゃあ、お前さんを八つ裂きにして喰ってやるからね。」
老婆は震えながら頷いた。
「さて・・・皆、おいで。」
ランダは遠くに離れていた部下達を呼び寄せた。
「まず、男共を出しな。」
ぞろぞろと男達が荷馬車の檻から出てくる。
「ほう・・フランツの兵士も居るのかい。
五人・・そいつ等を別に並ばせな。」
ランダは五人の男をじろじろと眺め、二人の肩を叩いた。
「お前等は屋敷で使う。
残った三人はガルフィの所へお行き。」
そしてエミリオスを向き直り、尋ねた。
「私の部下は何人死んだ。」
「七人。」
「スパルタン人の残りは。」
「五人。」
「よし。スパルタン人の内三人は屋敷へ、残りの二人はガルフィの所の用心棒。
エミリオス、獲物の男達の中から使えそうなのを十人選べ。後は売る。」
「次は女。使えるかどうか品定めをするよ。」
檻から出てきた女達の中の一人にランダが目を留めた。
「こいつは何で猿轡を噛まされている。」
「魔道士でございます。
猿轡だけで無く、舌を動かせぬよう、口の中に太い棒を突っ込んでいます。」
ランダの問いにガルフィが答えた。
「魔道士か・・かわいそうに・・・」
ランダは暫く考え、
「男と女・・それも良いか・・・。
私が貰い受けてやろう。」
そう言うとランダはその女の猿轡を解いた。
ペッと女が粘る唾と共に太い棒を吐き出し、なにやら呪文を唱えだした。
その唇をランダの唇が塞ぎ、僅かの時を置いて、
「名は。」
ランダがその女に問いかけた。
「レーネ。」
女は従順に答えた。
「歳は。」
「二十二です。」
「私に仕えるかい。」
「お望みとあれば。」
「サイゼルの魔力の上昇。それに私の相手。それで良いかい。」
「御隋意に。」
「よし決まった。
ガルフィ、お前、女共を選んでケントスに行きな。
後は一旦、屋敷に帰るよ。」




