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第六章 大戦(3)

 その頃、ケムリニュスの軍はガリヤとの戦闘で痛手を被ったフランツに出兵していた。この闘いはプリンツの後ろ盾を得たフランツと一進一退を続け、戦場は膠着状態となっていた。どの国もが互いの隙を狙い合い戦場はサルミット山脈の北全域に及んだ。

 バルハドスはロゲニアと戦いながらも、遠くミズールを狙っていた。そのロゲニアはバルハドスと戦いながらヴィンツを狙い、ヴィンツ傀儡の二国のうちダミオスはガリヤとの抜き差しならない戦いを続け、サルジニアはディロイの国ザクセンとの戦いに明け暮れた。

 そしてミズール。プリンツとガリヤばかりかバルハドスにまで狙われ行き詰まったかに見えていたが、ローグの指揮の下、軽い戦いはブロウが当たり、重要な戦闘にはスローズが出向き、よく訓練された兵と共にその戦いを上手く凌いでいた。

 そして建設、レーネは民心の掌握に努め、ここミズールを難攻不落の村へと創りあげようとしていた。

 「敵襲です。」

 兵の大声が飛ぶ。

 東からはバルハドスの軍が軽兵で押し寄せ西はいつものようにプリンツとガリアの軍がミズールそっちのけの争いを続けている。

 「ブロウ、バルハドスの軍を頼む。

 西は様子を見る。こちらから打って出る必要は無い。が、要心は怠るな。」

 ローグの声が村全体に響いた。

 それから数刻、西の戦場の様子が変わった。戦場の乱れ方が尋常ではない。プリンツもガリヤも本陣の防御に追われ、それが二軍がぶつかる先鋒にも派生しとんでもない乱戦の様相を呈していた。

 プリンツの本陣に襲いかかったのはゴルディオスの軍。統制された戦いぶりで相手に痛手を与えていく。そしてガリヤの本陣になだれ込んだのが亜人の軍、手当たり次第に敵を切り刻んでいった。

 その戦場の様子がまた一変した。プリンツとガリヤの競り合いの中を真っ黒な一隊が通る。するとそこは敵味方関係無しの殺戮の巷となった。真っ黒な一隊の先頭を行く者は赤黒い鎧兜に全身を包んだ男。彼の躰にはどんな武器も通用せず、その後ろに続く兵達もまた同様だった。

 その男が一歩進むとその手にする槍に命が一つ二つと消え去っていく。その向かう先は真っ直ぐにミズール。

 「防御の準備。」

 大声を上げたローグが物見櫓の上から駈け降りて来る。

 「逆茂木の線で俺が食い止めます。」

 スローズの部下が兵を率い土塀を出て行き、その援護の為その向こうにバラバラと矢が射掛けられる。が、黒鎧の一団はたじろぎもしなかった。

 「確かにザクロスの鎧だった。」

 「と言うことは・・・」

 ローグの言葉にレーネが返す。

 「多分・・・」

 ローグが俯く。

 「鎧を奪われたか・・」

 横から呻くスローズが、

 「これからだ・・奴らをどう防ぐか。」

 屹と続ける。

 そこへ、

 「矢が効きません。」

 兵士の声。

 射る矢が全く効果を表さない。

 「異様だ。」

 と再びスローズ。

 「あの乱戦の中、黒鎧の軍団は一人も倒れていない。槍の穂先を受け、剣の一振りなりも受けたろうにな。」

 確かにとローグが頷く。

 「外の兵を退き上げさせた方が・・・」

 が、その言葉はもう遅かった。土塀の前、逆茂木の線ではもう断末魔の叫びが上がっていた。

 「門を守れ。」

 スローズが声と共にその場から駆け出す。後に続く兵は約二百、ローグは村中での戦闘に備え、レーネは村民を守る為に兵を配した。

 ドンドンと堅いもので門扉を叩く音がする。

 「突っ支い棒を持ってこい。絶対に奴らを入れるな。」

 土塀の上からは無数の弓が放たれる。が、黒鎧は何の痛痒も感じていないようだ。

 「あの鎧・・やはりザクロス・・・」

 土塀の上に立つレーネが漏らす。

 「鎧が同じなだけだ。断じてザクロスでは無い。」

 それを聞きつけたローグが怒鳴る。

 「後ろに亜人。」

 それをかき消すように見張り台の上から声が届く。

 「城門の前に水をまいて。」

 レーネが叫びながら土塀に駆け上がる。彼女の口から発する呪文に応じ、氷の槍が地面から林立する。亜人の群れはその槍に貫き通される。だが、黒鎧達にはそれさえも通じない。

 ミシッと門扉が音を立てる。

 「踏ん張れ。」

 スローズが怒号を上げる。

 また・・そしてまた・・・そして遂に・・・

 突っ支い棒を支える男達が吹き飛んだ。そこからのそっと現れたのは醜い大男トロールの一団。それらが手にする鉄球に何人もの兵士が弾き飛ばされる。

 「レーネ、村人を連れて逃げろ。」

 スローズが大声を上げる。

 その前に立ったのはどす黒い血に染まった鎧に包まれた男。

 「ザクロスか・・・」

 スローズは自分の目を疑った。

 似ている・・あまりにも似ている。兜の奥に見える目がザクロスに・・・・

 スローズが戦斧を構える。だがザクロスに似た鎧の男はそれに怯む様子もない。

 「ザクロス。」

 土塀の上からローグが声を掛ける。

 それに振り向いた男の顔が何かの感情を呼び醒まされ、兜の中で歪んだように見えた。

 それを振り切るようにスローズに向け、手の中の槍を伸ばす。

 「なぜお前が・・・」

 その槍を横から叩き、ローグが黒鎧の男に声を掛ける。が黒鎧の男は何も答えない。

 「何があった。」

 今度はローグに槍が伸びる。

 舌打ちをしながらスローズの斧が黒鎧の男を叩こうとする。それを躱し今度はスローズに、

 「お前がザクロスであれば一人では勝てない。だがローグと二人ではどうかな。」

 スローズがかろうじてその伸び来る槍を躱すと同時にローグがザクロスに似た男に斬りかかる。

 勝負には勝った。だが、ガキッという音と共にローグの剣はザクロスの鎧に弾き返された。

 「ローグ。」

 叫んでスローズはもう一本の剣をローグに投げ渡す。それを左手で取ったローグが二本の剣を羽のように振り回す。その合間を縫ってスローズの斧がザクロスを襲う。

 ローグの軽快な剣と、スローズの重い斧の一撃が何度か黒鎧の躰を捕らえたはずだった。だが効果を現さない。それどころかザクロスの身体に斬り付けたローグの右手の剣が折れた。

 左手の剣を右手に持ち替えようとした瞬間、槍がローグの心臓を貫いた。

 「なぜ・・お前が・・・」

 黒鎧の男は魂の抜けたローグの身体を槍で中空に放り投げ、スローズに向き直った。

 「勝てぬまでも、時間だけは稼がせて貰うぞ。」

 スローズは槍の前に大手を広げ、男が繰り出す槍を躱すことだけに集中した。が、それも長くは続かなかった。

 「レーネ・・・」

 スローズは悲痛な叫びを上げ、息絶えた。


 「子供と女が先よ。」

 吾がち逃げようとする者達をレーネが叱責する

 「男の人達は戦って。」

 そう言うレーネが戦いの先頭に立ち、水の壁を造る。黒い鎧の男達もその壁は越えられない。だが、前面に注意を払うあまり後ろから忍び寄るゴブリンの影には気付いていなかった。

 飛び上がったゴブリンがレーネの肩口の肉を噛みちぎり、レーネの悲鳴が上がる。それと同時に水の結界が弱まり黒鎧の男達がその中に侵入してくる。

 「誰かこのゴブリンを何とかして。」

 そう叫びながらレーネは肩から吹き出る血をものともせず念を強める。すると水の結界の中の黒鎧の動きが止まった。

 ゴブリンは斃されたが、吹き出る血にレーネの体力と(ジン)が尽きてきた。

 「早く・・早く村人を・・・」

 遂にレーネは片膝を地に着いた。

 一気に黒鎧の男達が弱まった結界を破ってなだれ込んでくる。

 レーネの身体はその汚れた足に踏みにじられた。


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