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第六章 大戦(1)

「そろそろ動いて貰わねばなりませんな。」

 「何を。」

 「戦い。

 サンクルス教の増長は目に余る、今こそ起つ時。」

 ケントスの宮城で司祭が法王ゾルディエールを前に静かに話す。

 「プリンツはフランツ王国と共に攻勢を強めている、それに対して我等は。

 決断して貰わねばなりませんな。

 さもなくば・・・」

 ゾルディエールは司祭のその凍るような声と死人のような眼差しにぞくっと背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 「どうすれば・・・」

 脳裏に教祖ランプールの惨劇が浮かび、声が震えるのを押さえきれない。

 ランプール、宮城の尖塔に押し込められ、美女達に精を吸われて干涸らびて死んだという。その境遇が自分にも・・・

 「まず・・・」

 「ガリアに使者を出しなさい。」

 「使者を出して・・・」

 「西の谷にゴルディオスという者が居ます。(かつ)てはガリアの武将でしたが、今は野に下っております。これを再び登用すること。」

 「しかし、ガリアと我が国は・・・」

 「私が行きましょう。」

 「それで・・・」

 「ガリア国王グラシアスは私が押さえましょう。あの者も私が創った王。嫌とは言えますまい。」


 「さてさて、どうしますかな。」

 司祭はガリアの中心、グラシアスの屋敷にいた。

 「俺は・・・」

 「ヴィンツと直接戦えとは言ってません。ですが貴方はこの屋敷でのうのうと暮らしているだけ。

 それでは困ります。」

 司祭の爪が伸びグラシアスの左肩を貫いた。

 「出会え。」

 苦痛の中からグラシアスの声が飛び、兵士達がばらばらと部屋になだれ込んだ来る。が、司祭は動かない。

 「()れ。」

 その声にも司祭は微動だにしない。

 剣が司祭を襲う。

 司祭がそれを素早く躱し、それに連れて爪がグラシアスの肩の肉を抉る。

 「や・・止めろ・・」

 司祭の爪の動きにグラシアスは膝をつくことさえ出来ない。

 「さて、どうしますかな。」

 司祭はもう一度最初の言葉を発した。

 「やる・・・先ずはフレンツ川の西岸の村・・それからヴィンツの西の二国。」

 「ヴィンツの方から攻めて貰いましょうか。」

 それにもグラシアスは頷くばかりだった。

 「ゴルディオスが帰ってきます。それを貴方はどう使いますか。」

 「以前通り・・部将として。」

 「戦いの全権を与えなさい。彼の自由に彼の軍を動かさせる。

 この約束、守れますか。」

 再びグラシアスが頷いた。


 珍しくグラシアスは戦場に立っていた。自国の東、新たに興ったヴィンツの傀儡国の一つと戦う戦場に。

 戦況は(かんば)しくない。

 敵を指揮する者はヴィンツで教育を受けた将、対するグラシアスはただのならず者の親玉に過ぎない。その能力は違いすぎていた。右に走らせられ、左を攻められ軍は右往左往していた。

 「右翼・・破られます。」

 そこに悲痛な部下の声が響く。

 「一旦、退き上げ。」

 グラシアスはそう命じた。

 次の遠征はフランツしかしここでも敗北を喫した。

 ヨークへの遠征も失敗した。

 そしてフレンツ川の三つの村。

 そこでも・・・

 また厭味(いやみ)を聞かされるか・・・グラシアスの顔に(かげ)が落ちる。だが、

 「それで結構。私は貴方に勝てとは言っておりません。暴れ回ること、それが貴方の仕事です。」

 ガリアの首都ヘリンに来ていた司祭は微かな笑顔さえ浮かべ、グラシアスを迎えた。


 ディロイ、ヴィンツの将にして、その傀儡国家の統括する者。だが、全権を握っているはずの彼もまた、ヴィンツから派遣された二人の執務官にその言動を見張られている。

 選民・・・ディロイは考える。

 選ばれた者・・では選ばれなかった者達は・・・

 誰に選ばれたのか・・なぜ選ばれたのか。

 旦に七賢者に奉仕する為だけに選ばれたのか・・・

 ディロイは決意した、七賢者の呪縛から解き放たれることを。

 まず二人の執務官を追放し、立国を宣言した。

 ザクセンその国はそう名乗った。初代の指導者ははディロイ。彼は総統という地位を創りあげた。

 だがその国はすぐにヴィンツの迫害を受け出した。西への移動。それがディロイが考え出した結論だった。空いた地には新しい統治官がヴィンツから訪れた。

 北の国をダミオス、南の国がサルジニア、二つのヴィンツの傀儡国家はそう呼ばれた。

 そのサルジニアはヴィンツの意を受け、ザクセンに圧力をかけ続けた。だがディロイはその圧力に対抗するのではなく、躱すことを選んだ。

 ダミオスに兵を出し、そこを攪乱した。ダミオスの救援要請に仕方なしにサルジニアの軍が退くとザクセンの軍も自国に退き上げた。

 そんな事が続く中、ガリヤの軍が再びダミオスに襲来した。戦上手のディロイの後ろ盾を無くし、ザクセンとの攻防に動けないサルジニアの救援もなくしたダミオスは以外と脆かった。

 戦は乱戦になる。乱戦になると腕自慢のならず者達の集まりガリヤ軍が徐々に優勢になっていった。

 戦が順調にいったのはグラシアスにとって初めてと言ってよかった。それに有頂天になったグラシアスはガリヤのほぼ全軍を戦場に呼び寄せた。その隙を突いたのはフランツ。一気にガリアに押し寄せ、首都ヘリンは目も当てられぬ混乱に陥った。

 その連絡がグラシアスの元に届き、退き上げを命じると、その後ろをダミオスの軍が襲い、抜き差しならぬ状況となった。


 ヘリン、戦場の巷を悠然と歩く一隊があったフランツの兵に会えばそれを倒し、ガリヤの兵さえも屠った。

 誰彼構わず喧嘩を売って歩くように見える一隊を率いるのはゴルディオス。

 その隊は異様に強かった。だが、ガリヤを助けるわけでもなく、ただ北を目指していた。その歩みにフランツの兵は恐れ上がり、一隊、一隊と戦場を離脱していった。


 その頃ヨーク王国。この国の国王は女に溺れるばかりで、その政治の荒廃ぶりに愛想を尽かした国民は四散していっていた。

 ガリヤをほぼ無傷で通り抜けたゴルディオスの軍がそこになだれ込んだ。

 先兵の百人の兵士を指揮するのはカッセル。その後ろには精鋭百を指揮するゴルディオスの一隊。まだ亜人の隊は戦場に参加していない。

 二隊を前に宮城に白旗が揚がる。城から出てきたのはダルス。その頬には笑みさえ浮かんでいる。

 「お待ちしておりました。」

 ゴルディオスとダルスは固い握手を交わした。

 「エーシャンは。」

 「森の中の館にいます。」

 ゴルディオスは彼の兵達を振り向き、

 「全てを許す。存分に振る舞え。」

 と声を上げた。

 そこからヨークの首都ヨルミナは怒号と悲鳴と悲嘆の巷となった。

 一方エーシャンが住む森の館。そこにはまだ忠義の者達はいた。

 約五十人。エーシャンの館を固め、敵の侵入に備えていた。そこを攻めたのが亜人の軍。ゴルディオスはこれにも全てを許した。

 ゴブリンは人の肉を望み、トロールは殺戮を好んだ。ダークオークは女を犯し、ワーウルフはその全てを求めた。

 エーシャンの欲望を満たすだけの館はあっと言う間に地獄絵図を呈した。

 兵士は切り刻まれ、女達は犯され、その挙げ句に亜人達の腹に収まった。

 そんな中、ひときわ美しい女がエーシャンの首をゴロンと首領格ワーウルフの足下に投げ捨てた。

 その女の回りを一匹のゴブリンが唸りながらうろつく。

五月蠅いと言わんばかりに女の手の甲がゴブリンの頬をはたく。それだけでそのゴブリンは吹き飛んだ。

 辺りの空気が殺気を孕み、それを割りトロールの鉄球が女めがけて飛ぶ。が、女はそれをヒラリと躱した。

 「止めておけ。お前達が敵う相手ではない。」

 トロールの後ろから、亜人隊の指揮者、アンドレが声を掛け、

 「シューレ、ゴルディオス様が着いたら、歓待を頼む。」

 こうしてヨーク王国は落ち、そこに座ったのはゴルディオス。

 彼はこの地を恐怖のどん底に陥れた。亜人族は逆らう者を殺し、喰い、そして犯した。

 次に狙う先はフレンツ川の川岸、ザクロスが創った三つの村。



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