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第一章 幼子 剣士と魔道士(2)

 「見えるかい。ケントスだよ。」

 ランダが遥かに見える街を指さし、その指の先にサイゼルが眼を細める。

 「突然起きた街・・でも今回は・・」

その街に進むかと思った馬車が左へと曲がって行く。

 その行き先は黒い森の方角。

 「一旦、屋敷に帰るよ。」

 ランダは馬車の前の席に座るエミリオスに笑いかけた。

禁断の黒い森の中、豪壮な屋敷が建っている。その屋敷に着くと直ぐにランダは召使い達に声を掛ける。

 「湯をおわかし。

 すぐに入るわよ。」

 そして妖艶にエミリオスに笑いかけた。

 二人で湯に入る。

 「黒い森とはな。

 逃げるにも苦労するか・・・」

 「逃げるつもり。」

 「今のところその気はないがな。」

 「それが賢い考え方よ。

 そんな野暮な話しより、今夜から私を堪能させてあげるわ・・・覚悟しなさい・・・」

 そう言うとランダはエミリオスの躰に長い舌を伸ばした。

 それから三日三晩、時に何人かの美女を侍らせて湯浴みする以外は、二人は食事の時さえランダの豪奢(ごうしや)な寝所を出ることはなかった。

 そして四日目の朝。

 「この間見たケントス。

 憶えているかい。」

「ああ・・」

 ランダの問いかけに枕の向こうからエミリオスが気怠そうに答える。

 「十年ほど前だったか、突然教祖を名乗る者が現れ、アモール教などと唱えサンクルス教に敵対した。

 田舎の片隅だったケントスが今や城壁を構え、一端(いつぱし)の街になっている。

 そればかりか、国を興そうとまでし、兵士を、奴隷を求め、その上兵士を慰める女を求めている。

 そこに私の商売の機会がある。」

 「そうだな。」

 尚もエミリオスは尚も気怠(けだる)そうに答えた。

 「フン・・たかがこれしきで・・・

 待っておいで。」

 ランダはエミリオスをベッドに残して部屋を出て行き、部下を一人、屋敷の裏に呼んだ。

 その男は精力絶倫と仲間内で噂されていた。

 「私を抱いてみたいかい。」

 ランダはその男の前で妖艶に身をくねらせた。

 男が頷く。

 「口吻(くちづけ)をさせてあげるよ。」

 望外の喜びに男は飛びつくようにランダの唇に己の分厚い唇を重ねた。

 その身体をランダが抱きしめる。

 それに応じるように男は舌を動かした。

 ランダもまた男の舌を、いや、息を吸った。

 男が苦しげにもがく。

 その頭を獣の力で押さえつけ、ランダは尚も男の息を吸い続ける。

 息・・ではなく精を吸い尽くされ、干涸らびた男の躰がゴロンと大地に転がった。

 「後はお前等にやるよ。片付けておきな。」

 ランダは湿った土にそう声を掛け、その場を立ち去った。

 寝所に帰ったランダは、まだ気怠(けだる)そうにベッドに横たわるエミリオスに長い口吻をした。

 部下達の前に現れたランダは男の精を存分に吸い、輝くような肌の色をしていた。そして、荒淫の果てにやつれ果てていると思われていたエミリオスもまた、皆の意に反し、いっそう精力的に見えた。

 「十人ほどついておいで。ケントスにガキ共を売りに行くよ。」

 その日ランダは屋敷を出た。


「さてお前の教育か。」

 エミリオスはサイゼルの前に立ち、そこにぼうっと突っ立つ子供の顔を覗き込んだ。

 「ものになるやら・・・」

 エミリオスは軽く首を振った。

 だが側に落ちていた木の棒を握らせてみてエミリオスの表情が変わった。

 (速い・・・これが七つのガキか・・)

 その素早さに舌を巻く。

 が、技巧は稚拙。

 速さになれると直ぐにエミリオスはサイゼルを叩き伏せた。

 「無駄に動くな。」

 サイゼルの動きが止まる。

 そこへエミリオスが打ち込む。

 それを、サイゼルが大きく跳び、避ける。

 宙に浮かんだサイゼルの躰をエミリオスが打つ。

 「跳ぶな。

 跳べば躰の動きが止まる。

 最小の動きで(かわ)せ。そうすれば直ぐに次の攻撃に移れる。」

 連日の稽古。(したた)かに打たれ呻き声さえ上げるサイゼルが、翌日には傷一つなくケロッとしてエミリオスの前に現れる。

 (異常に回復力が優れているのか・・・)

 エミリオスは疑問を持つ。

 (それとも・・・)

 「お前は本当に人の子か。」

 思わず疑問が口に出る。

 その問いにサイゼルが静かに頷く。

 「人の子・・とは思えんがな。」

 いきなりエミリオスが打ちかかる。それをサイゼルが大きく避ける。

 「何時もいているだろうが。

 小さく動け。」

 サイゼルが降り立つであろう所をエミリオスの手にした木の棒が薙ぐ。

 だがそこにサイゼルの姿はない。

 「何・・・」

 その頭上からサイゼルが降ってくる。

 それを躱し、もう一度棒を振り、サイゼルを叩き伏せる。

 そうやって一月(ひとつき)。ランダの一行が大金を持って帰ってきた。

 「どうなの、サイゼルは。」

 ランダはまずサイゼルのことをエミリオスに尋ねた。

 「強くなった。

 特に身のこなしが素晴らしく・・。」

 「そうかい。」

 ランダがニコッと笑う。

 「魔道士は。」

 エミリオスの問いにランダが首を横に振る。

 「居ないもんだねえ・・なかなか。

 代わりにこれを買ってきたよ。」

ランダはドンと数冊の書物をエミリオスの前に置いた。

 「読ませな、サイゼルに。

 それにこれ・・」

 ランダはサイゼルに木剣を投げ与え、そして部下達に向き直り、

 「三日後。

 皆でまた人買いの旅に出るよ。」

 そう言うとランダはエミリオスに寄り添った。


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