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12.黒き影


 白い雪の中を隠れるように、少年たちの様子を窺う人間がいた。フードを深く被っているせいか、その表情はよく見えない。



「まぁ多少の役には立ったか」



 死んだ者たちを見ながらそう言うと、死体に群がろうとする魔物たちをその男の後ろのモノが薙ぎ払った。

 それは圧倒的な強者だった。周囲の動物も、魔物もそれの存在の前では無力だ。逃げ回るしかないそれらの存在を歯牙にもかけず、フードを外した。


 黒の髪が露わになる。目つきは鋭く、右の頬には大きな三本の傷跡がある。どこか印象的なオレンジ色の瞳が前を見据えた。



「もう少し暖かい季節であれば、おまえも楽であったのにな」



 死体に投げかけた時よりも遥かに優しく穏やかな声で、後ろにいる相棒に語りかける。それは「ぎゅるる」と少しだけ甘えたような声を出した。

 そこにいたのは漆黒のドラゴンだった。赤い目が静かに細められる。



「デイビッド様をお助けするためだ。このような村一つくらい安いものだろう」



 己の主人の無事以外のことは些事であると、少しだけ痛む心を無理やり捩じ伏せる。所詮、見ず知らずの他人だ。それに、いかに加護持ちと言えど、家族や友人を目の前で消しとばしてやれば心も折れるというものだろう。あるいは、己の相棒に恐怖して従うはずだ。

 神からの愛なんて儚いものだ。そうでなければ、20年前の賢者も、10年前の聖女も人の手によって殺されたりはしなかったはずだ。神罰だって、現地の民が負うことがほとんどだ。母国さえ無事であれば構わない。


 撒いた香水はしっかりと機能しているようで、例の村は混乱しているようだった。その際に彼の相棒の姿も目に入ったようだが、それがさらに混乱を助長している。



「あの子供が大人しく付いてくるならばよし。そうでないのなら、おまえの出番だ、アルマ」



 相棒に撫でられて気持ちよさそうに、ぐるると喉を鳴らす。

 確実にそれは、女神の加護を持つ少年に近づきつつあった。




「ここもだな」


「よし。加熱」



 悪臭を消すために、二人は一緒に村の周囲を回っていた。というか、アーロンが「臭いがヤベェ」とグロッキーになっていた。思ったよりも多く撒かれていたそれに、ハロルドはどれだけの人間が買収されて、こんなに命知らずな真似をしているのだと少しだけ苛立ったような顔をした。それを見たアーロンは「そんな顔すんなって」と肩を組んだ。



「そんな顔って?」


「若干殺意の籠った目」


「そんな顔になってたか?」



 指摘されてキョトンとした顔になる。不思議そうにする姿を見ていつものハロルドだ、と安心したように笑った。

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