11.混乱は大きく
冒険者ギルドも混乱している様子だった。けれど、それは魔物寄せの香水が原因というわけではなさそうだ。ところどころで「黒いドラゴン」云々と聞こえる。
「もう何なの!?俺たち魔物寄せの香水みたいな禁制品だけでお腹いっぱいなんだけど!!」
聞き覚えのある声が報告書を見ながら苛立った声をあげている。その中心にいるのはやはりアシェルだった。ピンクブロンドの髪を無造作にかき上げて、「近くで高ランクの冒険者は!?難しいと思うけど!!」と尋ねている。
「アシェルさんとギルマスくらいです!!」
「僕はBランク!!ドラゴン殺すなら最低でもAランク、できればSランクだって習ってねぇのかお前らは!!ギルマスはAランクだけど、支援型だしサブマスは出張中だし何で!厄介ごとは!!面倒な時に起きるわけ!!?」
部下に容赦なき怒号を飛ばしているアシェルだが、よほど混乱しているのか一人称がぶれている。
「ドラゴンか。俺たちはランク足りねぇから、戦いにはあんま関係ねぇけど避難準備は始めるべきか?」
「そうかもね。あの香水だけじゃなくて、ドラゴンが現れたせいで怯えた魔物が逃げ込んでる可能性も高いな」
鳥系やムーンベアーのような熊系の魔物は、冬季は冬眠をするはずだ。だというのに村に降りてきて人を襲うというのは理由が一つだけではない可能性もある。
とりあえず、香水の件については「加熱すれば臭いが消える」ということは報告しなければいけないと荒ぶる受付のお兄さんに近づいた。
「アシェルさん」
「ごっめん、今ちょっと相手する余裕ねーかも!!」
「香水の件でわかったことだけ報告いいですか」
「……おっけ。ちょっぴし待ってね」
瞬時に落ち着いて見せたアシェルに部下たちは目を見張る。深呼吸をして、冷静になった目で「こちらで報告を」と二人を面談室へと通して、書記を連れて話を聞く。
そこで、魔物寄せの香水が撒かれていた場所とその臭いの消し方を伝えると、彼は「ご協力に感謝します」と頭を下げた。
「村にもムーンベアーが出没しています。避難はどうしましょうか」
「変に移動するよりも、辺境伯の派遣してくれている兵団がいるここの方がマシなんだ。村一つとはいえ、それなりの人数だしね。そろそろ辿り着いてると思うから、村はよほどのことがない限りは守れると思う」
魔物寄せの香水だけならばそれにも納得をしたかもしれないが、ドラゴンの話を聞いているからか彼らは疑うような顔を見せた。
その時だった、慌てたように冒険者が一人部屋へと入ってきた。「どうした」と言うアシェルの声は冷たい。何のために人払いをした部屋に来ていると思っているんだ、と目が語っている。
「すみません、こんなものが」
受け取った手紙を見て眉を顰めた。
「ごめんね。ちょっと会談の予定が入っちゃった」
この状態で優先しなくてはいけない相手であれば、それは誰か想像がつく。二人は一瞬だけアイコンタクトをすると、素直に彼らと別れて帰宅の途についた。
「ねぇ、軽く見回りしてヤバそうだったら避難させる?」
「そうだな。つーか、現段階でもだいぶ混乱してるけど」
「領主様も結構強い人雇ってるって聞くし、疑いすぎるのもね」
ここは国の境に近い土地でもある。自然に強い人間を集めなくては有事の際に国が危ない。冒険者以上の腕を持っている人間を雇っていないとも限らないので子供である自分たちが口を出すのも、とは思っている。
けれど、信用しすぎて任せてもいいのだろうかと思ってしまう気持ちもあった。避難経路くらいは見ておくべきかもしれない、なんて思ってしまう二人だった。
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