7.神託と謎の卵
別れる時にグレンを先に家の中に入れて、ハロルドとアーロンは話していた。まだ少し具合が悪そうな様子を見せるハロルドではあるが「病気じゃないから」と青い顔で少し息を吐いた。
護衛のうち一人も側に近寄る。もし何かあった際には王家や領主へ報告をしなければいけない。
「まぁ、簡単に言うとすごい必死な声の神託が降りた」
「神託」
女神は音のボリュームを調整できないのか、と思いながらこめかみを叩く。
アーロンの拾ったそれは、神獣が生まれる卵だそうだ。拾った者の精神性や適性に合わせた「何か」が生まれるもので、何が生まれるかは育ててみないとわからないらしい。
「それで、フォルテ様がそれをアーロンに育ててほしいらしい」
「ハルじゃなくて、か?」
「卵が君を選んだ」
さらりとそう言われたアーロンは不思議そうにそれを見つめた。選ばれた人間というのは目の前にいる友人のように特別な存在だと思っていた。本人に言ったなら「え、君がそれ言うの?」と返されるだろう。
ハロルドを見るもアーロンが選ばれたということには特に思うところがないらしい。おそらく近くにいる妖精やら精霊やらでお腹がいっぱいなのだろう。
「ごめん、そういうことだからあとはお願い。俺は帰ってちょっと寝る」
ハロルドが知る由もない話ではあるが、そもそも神託を受ける側というのもそこそこに能力を要求される。夢の中で干渉されるならともかくとして、今回は現実世界で思いっきり力加減を間違えて神託を降ろしてしまったせいで、頭痛と吐き気を訴えることになってしまった。割とアーロンが「卵食えんのかな?」と思ってしまったあたりが原因ではある。女神もちょっと焦った。神獣が生まれるかもしれないのに、割られるのは困る。
夜中に白い卵を見つめる。
流石にイタズラされると洒落にならないので、妹から隠し通さないといけない。
「そっか。お前は俺を選んでくれたのか」
指でそれを少しだけつつく。
そして、少しだけ考え込んだ。
アーロンは自分が選ばれる側の人間だと思ってはいなかった。今でもそうだ。孵化するかどうかはまだわからない。
エレノアのことがあってから、ずっと考えていた。このままではまずい、と。
(ハルは俺のことを相棒だと思ってくれてる。でもこのままだとハルにおんぶに抱っこ。寄生したくて声かけたわけじゃねぇんだ)
友人としてハロルドの隣で対等にありたいと思うものの、妖精や精霊に好かれて勝手にパワーアップさせられた彼に比べれば、アーロンは己の力不足を感じていた。
努力はしている。けれど、それでも何かが足りない気がした。
アーロンは守られたいわけではない。であれば、友と並ぶためにその足りない“何か”が必要だ。
「でも、それが何かはわっかんねぇんだよなぁ」
窓から外を眺めれば、澄んだ冬の空気の中で輝く星が見える。
焦る気持ちがないとは言えない。けれど、無理をして家族や友人を悲しませるのでは元も子もない。
──覚悟を見せよ。
どこか幼い声が、聞こえた気がした。
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