5.食べられた薬草
ホワイトクックは雪の季節にしか現れない。時折、秋の暮れにも現れるが、その時期は目立つため対策がしやすい。
「やっぱり保存庫を作ったのは正解だったな」
それなりに雪が降る地域なので、多くの村人は雪の下に野菜などを入れて、使うときに掘り起こしたりしている。しかし、ハロルドの野菜があの白い悪魔のようなホワイトクックや他動物、小型の魔物にそれらを食べられてしまうという事態が多く、仕方なく対処法として冷蔵庫的なものを作った。
薬作りで勝手にレベルアップしていったジョブスキルが「これがあると作れるよ!」というものを集めて作成したそれは一見木の箱だ。けれど、それは偶然こちらで狩ることができたトレントという木の魔物を倒して手に入れた特殊な木材でできており、粗悪な金属よりも耐久性が高かった。それにゴリゴリと薬草数種類を粉にし、魔石を削って、それらを混ぜ合わせて溶かしたものを、木材に古語で刻んだ命令文に筆で丁寧に流し入れた。それらが乾くことで術式が完成して魔道具になった。さらに普通の木で覆うことで、一見魔道具だとわからないようになっている。
孫が血眼でやたらと芸術性の高い箱を作り出したかと思えば、戸を開けたら中がひんやり冷えている不思議な魔道具を作っていたことを知った祖父母は酷く驚いたけれど、「俺の野菜が、薬草が……」とショックを受けている姿を見ていたので、「まぁ、執念の産物だな」と少し可哀想だなという目を向けた。間違ってはいない。
王都の自宅でもそれは大活躍している。アーロンも祖父母と同じく「執念だ」と思っているけれど黙っている。本人にも自覚がありそうだった。
今ハロルドが眺めているのは、割とそこら辺に生えている薬草を「わざわざ取りに行くのも面倒だな」という理由で育てていた鉢植えを日光に当てるため外に出していた……その跡地である。
綺麗に平らげられていた。
「えっぐい」
「外に出す時は、目を離しちゃダメね」
「魔物、絶許」
「これ、貴重なやつだったらハル泣いちゃってたわねぇ〜」
仕方がないなと溜息を吐きながら、外套を着込んだ。
リュックに色々と詰め込んで外に出ると、仕留めたであろう魔鳥を片手にちょっぴり嬉しそうなグレンと、それを褒めているアーロンに出会した。
「どうしたんだ、ハル?今日、狩りに行くのか?」
「薬草を取りに行くんだよ。初級の回復薬とかに使うやつがホワイトクックに根こそぎやられて」
「ハル兄が育てた植物、やたら狙われるよね。確かに美味しいけどさ」
「そうなんだよな。ヤツらの気持ちもわかるけど厄介だ」
「それ。ミラもハル兄の野菜なら喜んで食べるんだよ。普段文句しか言わないくせに」
野菜が好きではないミラが食べるというのは初耳だと目をぱちくりさせる。
「ハルのトマトとか、俺らから泣いて駄々こねて奪ってまで食うぞ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
姿を隠しているネモフィラが少し得意げに「トマト、絶品。分かってるヤツ」と呟く。ネモフィラはハロルドの野菜が大好きだからか、少しだけ親近感を持ったようだ。
「ハル一人だと危ねぇだろ。俺らもついてくよ」
「勝手に数に入れるのやめてくれない」
「嫌なのか?」
「べ、別に、行ってあげてもいいけどさ」
ぷんすこしながら、「兄貴たちは世話がかかるんだから」と言っているが満更でもなさそうだ。
付いてきてもらうからと、鳥を手早く捌くハロルドは「ハル兄早……めっちゃ綺麗に羽根残すじゃん……」などとグレンに少し引いたような声で言われた。
「この羽根綺麗だからそれなりに売れるよ」
身体に洗浄魔法をかけてから、食肉と素材に分けられたそれを持って、アーロンは「さっすがハル!」と肉は家に置いて、羽根は行きがけに冒険者ギルドで引き取ってもらおうとカバンに入れた。
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