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9.越冬とトラブル




 初めての土地での越冬は苦労するかと思いきや、いつもより断然楽だった。少なくともハロルドたち一家は。

 いつも邪魔をしてくる親や、ともすれば薪を強奪していく幼馴染(年上の方)もいないので冬支度はいつもより楽だった。



(母さん(あのひと)、生きてるかな)



 どうしようもない親だとは思うけれど、死んで欲しいとは思えない。そこは前世から引き継いでいる記憶のせいなのかもしれないと苦虫を噛み潰したような顔になった。

 しかし、それでもあのような場所で生きるくらいであれば逃げ出した方がマシだった。いくらハロルドでもいつ自分に危害を加えられるかわからない場所で過ごすのは嫌だったし、祖父母だって何を言われてきたか知っている。祖父母はあの母親を叱り、嗜めてきた。無視したのは彼女だ。それを知っているハロルドとしては、これ以上二人が傷つかないように、自分は真面目な働き者であることを示していかなければならないと感じている。


 鉢植えに入れ替えて部屋の中に入れた薬草に水をやっていると、扉を叩く音が聞こえた。次いで、「ハル、居るか!?」というアーロンの声が聞こえた。雪が容赦なく吹き付ける外の音を聴きながら何事だろうか、と眉を顰める。部屋から出ると、祖父のユージンがすでに戸を開けていたようで真っ青な顔の友人が近づいてきた。



「熱冷ましの薬草はないか!?妹の熱が下がらないんだ!!」



 慌てた様子の友人の肩を掴んで「落ち着いて」と声をかける。ハロルドの声に正気に戻ったのか少し大人しくなる。



「とりあえず連れて行け」



 薬師もこの雪で来れないだろう。何が原因か分からなければ安易に薬草も渡せない。それを理由に症状が悪化しては目も当てられない。ハロルドはせっかく出来た友人とそれらの理由で険悪になりたくなかった。

 ハロルド自身も素人ではあるので褒められたことではないな、と内心では考えているが選択肢が少ないので仕方ない。幸いと言って良いのか、ハロルドには女神フォルテから与えられた鑑定眼があった。それはおそらくチートというに相応しいスペックであり、与えられたジョブスキル錬金術師と相俟って薬剤の調合も不可能ではない。ともかく、状態を見なければ判別がつかないと同行を申し出た。祖父母は渋ったけれど、人の命がかかっているし現状ではどの薬草が必要かの判別がつくのが自分の目だけであると思ったハロルドは押し切った。アーロンの家が窓から見える程度には近くて助かった。


 ストック分も合わせて抱え込み、吹雪の中を突っ切ってアーロンの家に向かう。

 個人情報云々などは考えると大変な事態になると彼の勘が告げていたので出会い頭にサクッと魔眼で調べる。



「肺炎だな」



 風邪を拗らせてそうなったと発動した魔眼に出ている。急激に悪化したらしい。元々、あまり身体が強い方ではないのだとアーロンは言っていた。

 すり鉢でゴリゴリと擦り始めた薬草の臭いが部屋に充満した。この村には薬師はいない。隣村の薬師のおばあちゃんは外の様子を見るにしばらく来れないだろう。

 ハロルドの目の前には自分にしか見えない液晶画面のようなものがあった。そこに細かなレシピが提示されている。工程ごとに光る仕様は女神の親切かもしれない。

 それに従って薬を作っていると後ろで心配そうにソワソワとしているアーロンが「大丈夫なのか?」と何度目かの質問をしてきた。



「大丈夫かどうかは彼女の体力次第だな」



 煮詰めている薬を見ながら苦そうだ、と思う。そして、瓶につめて適量のカップを探す。全てフォルテに与えられたスキル頼りだ。神が与えてくる情報なのだから、それはプロの判断と変わらないだろうと自分に言い訳する。



(それにしても、神棚作ってお供物とか置くようになってからあからさまにスキルが強くなった気がするな)



 攻撃関連のスキルを所持しているわけではないが、魔眼の精度の上がり方に迂闊に使えないなと考える。今回はジョブスキルとかいうのにも魔眼にも大変お世話になっているので文句などはない。ただ破格のそれが変な人間に利用されないようにしないと、とは思うけれど。



「この薬を毎食後、このラインまで注いで飲ませること。症状が軽快しても無くなるまでは飲ませて」


「お、おう……。詳しいんだな」


「いや、女神の加護」



 アーロンと二人であるからか、さらりと言われた言葉に目をまんまるにした。「絶対秘密にしろよ」、と付け足せば壊れた人形のように頷く。

 神様の加護を持つ人間は少ないが存在する。そして、そういった人間は教会や権力者にも狙われがちだった。なので、アーロンは墓まで秘密を持っていくことを決めた。



「でも治ったあかつきには信仰してくれ」


「絶対する」



 なお、母親は朝方に帰ってきた。どうやら風邪気味の娘に煎じて飲ませるための薬草を摘んでいたら吹雪で帰れなくなったらしい。冒険者にギルドで泊まるように説得されて帰れなかったそうだ。呼吸の落ち着いた様子にペコペコと頭を下げられてハロルドは困惑した。弟は部屋ですぴすぴと眠っていた。


 更にその翌日、家で眠っているハロルドに女神が突撃してきて「信仰を増やすのは良いことよ!!」とウキウキしながら言ってきた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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