3.家族団欒
夏に帰っていたはずなのに、思ったよりも懐かしく感じるのは色々あったからだろう。本当に色々と。
うっかり思い出すと一気に疲れが増す気がする。そんなことを考えながら、ハロルドとアーロンは自宅へと帰った。「あら、ブライトちゃんは来ないのねぇ」と祖母ユイが残念がっていたが、彼は任務中だ。偉い人に気に入られたみたいだ、と告げると、「良い子だものねぇ」とホワホワ笑った。
「実際、ルイってばぁ、えらいヒトらしいもんねぇ」
リリィがハロルドの頭の上で肘をつきながらそう言う。この国の王子様なのだから、その通りである。しかも彼の母親はここに隣接したマーレ王国の元王女である。とはいえ、そのマーレ王国とは距離を置いているそうだけれど。
(なんか、薬草買い漁ってる国って聞いてるし、夏もちょっかいかけて来てたらしいあたりが不安要素だけど)
あの(アンネリースが関わること以外では)基本穏やかで優しい側妃エヴァンジェリンの祖国ではあるけれど、正直そこまで好感度は高くない。10年前の聖女の件はマーレ王国から流れてきたものでもある。
荷物を整理すると、祖父ユージンに呼ばれて一緒に薪を割ったりする。去年と変わらなければ、集めたもので足りそうだ。少しだけそれにホッとする。少し嬉しそうに孫から贈られたコートを着ている。もしかしたらこれを見せたかったのかもしれない。
「別にわざわざ帰ってこなくてもよかったんだがな」
「俺がじいちゃんたちに会いたかったんだよ」
「……ふん、いつまでも子供だな」
そんなことを言いながらもユージンの顔は嬉しそうだ。
娘であるミィナは行方知れずではあるが、穏やかに笑う孫の姿を見ていれば引き離したことは正解だと思えた。どうやら友人にも恵まれたらしく、祖父としてはホッとしている。その反面、その“友人”がやたらと身分が高いのは気にかかるが、そうなった経緯は真っ当だという報告があった。孫のことを信用していないわけではないけれど、彼らに残ったたった一人の血縁であるハロルドのことはユージンも気にかけていた。
(まぁ、まさか神様にまで気に入られるとは思っていなかったが)
こんな田舎の、どこにでも……はいない美貌だが、それでもただの平民の少年だ。特に別段すごい血筋というわけでもない。
どこを気に入られたのか、と国からの報告を受けた祖父母は困惑していた。けれど、その勤勉さと自分たちを気遣う姿を見ると、孫が変わらずにいてくれてホッとする気持ちもある。
ハロルドの祖父母は領主であるオブシディアン辺境伯家の保護を受けていた。とはいっても、あくまでそっと、である。近くに新しい集落ができて自警団ができたり、交友が広がったりなどの変化だ。あまりに大規模にやってしまうと目立ってしまう。辺境の地であればこそ、それは良いことではないと判断された。
もしハロルドが厄介神子であれば、そういった事情なども利用して「いっそ隣国にくれてやろう」だなんて思われただろう。けれど、オブシディアン辺境伯子息から知らされたハロルドの様子はあまりにも普通の少年だった。だから領主はその保護を決めた。
「ハルちゃん、今日はシチューにしましょうね。鳥さんのお肉が欲しいわ」
「あー……うん。すぐに取れると思う」
ひょっこりと顔を出したユイに苦笑しながらそう返す。
実際にハロルドが収穫して持ってきていたにんじんを切ってばら撒くと、上空から何羽かがすごい勢いで急降下してきた。少し引きながらそれらを仕留めると、溜息を吐いた。
「この白い悪魔共、羽根が売れなきゃ多少美味くても許せないところだ」
雪の季節にだけ訪れるホワイトクックは、この季節のハロルドの畑をめちゃくちゃにする常習犯だった。確実に自分の育てた野菜だけを突いて平らげていく白い鳩擬きを憎々しげに見つめて、彼はそれを捌きに向かった。
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