2.継続は力なり
ハロルドたち四人とも学科、実技共に高成績でクリアした。学年主任などは「勤勉な子が多くて良いな!!」と嬉しそうに課題を作っていた。彼らだけ追加で課題を出されているのに気づいている者はまだいなかった。出された四人は「なんかやたらと難しいのが交ざってるんだけど」と困惑はした。日々の勉学の継続が力になることを知っている彼らはあまり気にはしなかった。
「終わりだー!!」
教室で学園長の無駄に長い話が終わって解放されたアーロンは嬉しそうに背伸びをする。もう頭の中にあるのは「あいつら、土産喜ぶだろうな!」というお兄ちゃんな思考だけである。
ハロルドもまた、注意事項が書かれた紙を片付けながら「早く家に帰らないとね」なんて言っていた。
ここから家に帰って着替えてから、荷物をまとめて王城へ。そこで挨拶をしてから帰省をするのが今回の帰省の流れだ。
「薪とか用意できたかな。一応夏のうちに集められるだけは集めておいたんだけど」
「うちも弟が数集めてるか不安なんだよな」
ハロルド家は老人二人、アーロンの家は父親がいない。母親は食堂で働いており、弟はいるがいつもは二人で分担して作業をしていたため、一人で任せるのが初めてだ。二人は少しだけ心配しながら準備を進めた。
「アタシたちのお花、大丈夫!?」
「王城から人が来るから大丈夫」
「ボクの野菜……」
「収穫済み!」
「ウチのおやつはぁ〜?」
「帰ってから!!」
アーロンは口から出そうになった「かーちゃん……」という言葉を呑み込んだ。完全に子供にわがままを言われているお母さんの図である。まだ今日がマシなのは、ちょくちょく来るブランがいないことだ。絶対に「我も行くぅ!!我もハロルドとアーロンと遊ぶぅ!!」と駄々をこねるに決まっている。
「薬草は……うん。これだけあればだいたい何とかなるだろ」
メモを見ながら確認して、最後に温室を開く。護衛数名が収穫をしている血眼の薬師を見張っていた。謎のテンションで「発育状態最高!!」「早くコレを使いたい……ふへへ……」と薬草を見ている。涎も出ていた。その後ろで護衛が「使う事態にならないのが一番に決まってるだろーが!!」と返していた。それはそうだ。ここに植えてある薬草のほとんどは王太子アンリからのお願いの産物だ。違うものもあるけれど、回収できるものは回収済み。薬師たちは小さく立ててある札を見て「この薬草は!?我々も見たい!!触りたい!!使いたい!!!」と泣きながら崩れ落ちて、地面を叩いていた。いい大人の態度ではない。
「すんません、ハロルドくん。ここにいる奴ら、ほとんどただの薬学オタクだから宝の山にしか見えねぇみたいで」
「この様子でよく就職できましたね」
「優秀なんですよ、アレ」
今は威厳もへったくれもない男たちだが、普段は王宮薬師として立派にやっているそうだ。珍しい薬草や新しい薬の発見でテンションぶち上がって変になること以外の欠点がないので無事に働けている人間たちなのである。
薬学オタクなんて言われるだけあってか取り扱いは丁寧だ。ハロルドたちがいない間も世話をしてくれるとのことなので、その丁寧さはありがたい。
護衛のお兄さんにお見送りされて、王城へと向かった。ルートヴィヒを先頭にして今回同行するらしい護衛の人たちがいる。どことなくげっそりとしていて首を傾げた。
「ハロルド、アーロン。本当に帰ってしまうのか?」
「うん。じいちゃんとばあちゃんが心配だしね」
「俺も家が心配だからな」
少し寂しそうな顔をする彼だけれど、彼も流石に家族より自分を優先しろだなんて言う性格ではないので大人しくお土産を渡したりしていた。お返しとばかりに、ハロルド特製グッズを受け取る。中身はハーブティーに入浴剤、ハンドクリーム、身体回復薬(中級)、魔力回復薬(中級)を2セットである。もう一つはブライトのものだ。
「前とは色が違うな」
「材料揃ったから、中級の回復薬に挑戦してるんだ。確実に毎回作れるわけじゃないから、量を作るのは無理なんだけどね」
材料も初級の時ほど手に入りやすくはない。けれど、何かあった時にそれらがあるのとないのとでは安心感が違う。またエレノアのようにやらかす人間がいないとも限らないのだ。継続して勉強と練習をする方が生存率が上がる。
(もっと穏やかに暮らしたい)
ハロルドの願いは細やかなのに、難しかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
感想もありがとうございます。とても嬉しいです!!
ちらっとだけ名前が出てるもう一人の妖精ちゃんは、本当にマジでしばらくは出ないです。続けばいつかは……くらい。別の国にいるから……。