1.冬の訪れ
肌を差す風が冷たく鋭さを増してきた。
ハロルドの買った防寒具の一部はアーロンが着ており、アーロンもまた「良いの見つけたんだ!」とハロルド用のものを購入していた。一緒に暮らしていると思考も似るのかもしれない。
学期末試験が近付き、周囲も勉学への熱量を上げているけれど、ハロルドたちはいつも通りだ。彼らは普段からそれなりに勉強をしている方なので焦りはない。ルートヴィヒも「最近掃除が進んでいるのか環境が整ってきたからね。家でもそれなりに打ち込めているよ」と呑気なものだ。彼の場合は勉学に加えて、兄の手伝いもやらされているらしい。婿入りやら臣籍降下はどうなっているんだと本人も眉を顰めていた。
ルートヴィヒは兄ほど国民思いではなかったりするので、そこまで仕事をしたくはないのである。王族としての義務だしなぁ、くらいの感覚だ。そして、その仕事を真面目にやるあたりはいい子である。
「僕も一緒に行きたかった〜!でも、ルイがダメって言うんだ。まぁ、ルイを一人にするのも不安だからいいけどさぁ」
「そりゃ、婚約者と破局しかけってあれだけ噂されればね」
向こうも色々と情報操作をしていたようだけれど、少しでも時間ができたアンリによるそれとは規模が違うようだ。
色々とバレたせいで王家の方でも結構な鬱憤が溜まっていた。弱みもそれなりに握っているので動き始めても構わないと感じたのだろう。王家から切り捨てられると思っていなかったらしいマラカイト家は今更慌てているようだ。
「おかげで今更媚を売る人間が増えてな。お前たちなど、どんな手を使われても選ぶものかという気持ちしかない」
「部屋に入り込まれたりして、既成事実?とか作られたらヤベェもんな。そりゃ、ブライト動かせねぇわ」
「夜這いされれば殺せばいいでしょ?やっばいのは、王位の継承権争いをさせようとする馬鹿」
さらりと殺せばいい、が出てくるあたりブライトは相変わらずぶっ飛んでいる。彼の家庭環境も関わっているので何とも言えない気持ちになるけれど、確かに彼の言うことも確かではある。今更、王位継承権をどうこうだなんてすれば各所に混乱が生じる。アンリの働きぶりは彼らの想像を超えるものだ。少なくともルートヴィヒにそこまで国民に人生を捧げる覚悟はない。
「なんかきな臭いことになってるんだね」
「第二王子派が水面下で動いているしな。まぁ、反抗期というやつだろう」
「弟にそう言われてるとか知ったら、ルイの兄貴スゲェ嫌な顔するんだろうな」
アーロンは「俺も弟に言われたら恥ずかしくて死にたくなるわ」と続けた。
ハロルドはそんな事情を聞きながら、何もなければいいけどとだけ考える。ただでさえなぜかハードモード人生なのだ。庇護者にいなくなられては困る。
(大体の毒に効く薬とか作れないかな)
各々の毒薬に対応する薬とか考えるのは面倒だし、その毒薬が何かを調べるのに時間がかかりそうだ。そう言った毒消しの薬があれば暗殺で薬を盛られた時に「困った時にこれ一本!」で済む可能性がある。
流石にそれは無理なので、いざとなれば鑑定魔眼が仕事をしてくれることを祈る。
とりあえずは身体回復薬と魔力回復薬をいくつかルートヴィヒとブライトに預けておくことにした。準備をしておかないと、と冬支度の準備にそれを足す。
妖精たちが付いていれば安心かもしれないけれど、もうすでに付いてくる気満々なのでここでお留守番を言い渡してしまった時の彼女たちがどんな行動を取るか予想ができない。ブランはアンネリースにくっついているようだったし、そこはもう王城と彼らの手腕に任せるしかないだろう。
3章開始です。
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