35.精霊樹の復活
妖精たちに転移してもらった場所は以前とは見違えるほど緑でいっぱいだった。
「見てくださいまし!!ハロルド様からいただいた肥料とそのレシピを使って、みんなであの森を作りましたの!!わたくしも木とかたくさん生やしたのですよ」
「素晴らしいことをなさいましたね。ご立派です」
心の底からアンネリースを褒めると、彼女は憧れのお兄さんに褒められて照れた。彼女の兄である王太子も褒めてくれたし、ルートヴィヒも手紙で褒めてくれたけれど、ハロルドに褒められるともっと嬉しかった。肥料などで協力してくれたという気持ちも入っているからだろう。
森に入ると、妙齢の女性が「こんな時間に何用じゃ」と怪訝そうな顔をしながら現れた。結界的なものがあるために、感知は容易らしい。
「こちらハロルド様と精霊のブラン様ですわっ!精霊樹を植える場所を探し……長老様!?」
長老と呼ばれた女性はものすごいスピードでハロルドとブランに近づき、周囲をぐるぐる回りながら舐め回すように見ていた。居心地悪そうにするハロルドを見たネモフィラが「頭、冷やして」と水をかけた。この季節にそれは寒いだろう、と慌てるけれど、彼女は「ひっ、ひひ……妖精様までいらっしゃるぅ!!」となぜかボルテージが上がった。怖い。
「精霊樹ぅ?どこにでも植えてくだされ!!妾が大事に、だーいじにお世話しますぞ!!」
ヒートアップしていく長老をいきなり後ろに現れたメイド服のエルフが殴った。スリッパで。
ペシーンっ、と小気味の良い音と共に「申し訳ございません。アンネリース様、神子様」とお辞儀をする姿はとても美しい。
「わたくしはアナベルと申します。こちらは我らエルフの集落の長老、ルルティア様です」
アナベルは普段、アンネリースに仕え、アンネリースがこの森やバリスサイトの田畑で実験や作業をしている際に付き従っている。間近でこの土地への献身を見ているだけに、やけに懐いているハロルドを疑いの眼で見てしまうのは仕方がないだろう。
いくらエルフ基準で言っても美形とはいえ。アンネリース曰くたくさん肥料を送ってくれたとはいえ。肥料のレシピを惜しげもなく教えてくれたとはいえ。
いや、もしかしたら姫様と結婚してここに来てくれたら繁栄するかもしれないなとか思うまでに時間は掛からなかった。
「あ、はい。今からブランがお世話になります」
そこそこ礼儀正しく見える。プラス査定だ。
ブランの手を引いている様子も、妖精たちに懐かれている様子も将来を見据えると良き父になる可能性が高いとさらに脳内プラス査定が入った。
当事者たちは「友人の妹」と「憧れのお兄様」という認識である。アンネリースの方はちょっとだけ「神様の愛し子だし、アレらが王女を求めることが大丈夫なら有りでは!?」とか思っていなくもないが。
ブランの「こっちに良い感じの場所がある気がする!」に従ってついていくと、集落の真ん中にある広場に出た。
中心に噴水を作る予定だったらしいそこを指差して「ここだ!!」と飛び跳ねている。予定と違うようになるのでルルティアの許可を得ようと振り返れば、「中心に精霊樹とか最高の暮らしよな!!」とノリノリだった。それでいいのか、と思わなくもないけれど精霊と土地の責任者がいいと言っているのだから良いのだろうと思い直した。
スコップを借りて、穴を掘り、丁寧に精霊樹を植える。ついでに精霊樹専用の栄養剤をサクッと土に差した。エゲツない量の魔力を吸い取って成長したので特殊な配合の栄養剤が必要不可欠だったのだ。おそらく、これがなければ精霊樹は根を伸ばさなかっただろう。
「それでは、いっきますわよぉ〜!!」
両手を前に出したアンネリースが力一杯「大きくなれー!!」とやっているけれど、以前ほどの速度では伸びない。
少し考えてから、ハロルドはアンネリースに「手に触れても構いませんか?」と尋ねた。コクコクと頷く彼女の手を取ると、魔力が足りないように感じた。
(あれでも足りないのかー)
このままこんなところに放っておくとおそらく、土地の魔力を吸われすぎてせっかく復活した森が枯れる。精霊樹のためにそうなっては本末転倒だ。
手を離してリリィの名を呼ぶと、「ふふん、ウチので・ば・んー!」と黄色い光をハロルドに向けて放つ。
「大地よ、俺たちの力を受け取って」
リリィによって増幅された地の魔力が広がった。肩に乗ったリリィが「ハルの魔法はキレーね」と蕩けるような声で呟く。それは精霊樹によって吸い込まれていく。ハロルドとアンネリースの魔法が作用しあって、やがて木は成長を始めた。
気がつけばエルフの集落の者たちが集まってきて、精霊樹の前で祈りを捧げている。祈りが力となり、キラキラと光り輝くように精霊樹へと向かっていた。
柔らかな緑色の光が精霊樹から放たれると、ブランの身体に力が満ちていく。
その頃には、一夜で大きくなったとは思えないような美しく立派な樹と嬉しそうにそれに頬を寄せるブランがそこに在った。
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