8.冬支度
「最近、寒くなってきたな」
吐く息が白く、少し薄着だったかもしれないと家に戻った後に上着を着ることを決める。
アーロンと一緒に動き出してからそれなりに狩りが捗っているからか食料はそこそこ確保できている。
結果的に嫌がらせで早く出たのは良い方向に向かっているかもしれない。そんなふうに思いながら、やっと実をつけ始めた大根の葉やキャベツを啄みに来る魔物の鳥を氷の礫で撃ち落として掴み上げる。いやに多いそれに、ハロルドはそっと嘆息をもらす。
お裾分けをしたアーロンの母による言葉でようやく知ることになったのだが、ハロルドの育てた野菜は他のものより美味しいらしい。少し大ぶりな気はしていたけれど、そう言われるほどに差があるのだろうかと疑問には思う。
(なんか実際、ばあちゃんのスペースの野菜はそこまで狙われないんだよな)
ハロルドの育てたものをしつこく、執念深く狙ってくるヤツらを敵視しないというのは難しかった。ハロルドにとって忌々しい鳥たちだが、これはこれで食べられるものなので気分を落ち着ける。
ハロルドは気づいていないけれど、ジョブスキル・魔眼・異空間収納以外に女神から与えられたわけではないスキルも持っていたりする。それが作物やら薬草に影響を与えていた。彼が育てた薬草は通常のものより買取価格が高い。そのことに気がついていないハロルドに対して、ギルド職員は「多分、植物関連のスキル持ちだよな」と思っている。
「ハルー!!」
遂に愛称で呼び出したアーロンの言葉に我に返る。アーロンはハロルドの手に持っている鳥を見ながら瞳をキラキラさせていた。
「それ、ブラウンクックじゃねぇか!うわぁ、まるまる太ってる!!」
「俺のキャベツをたらふく食ってたみたいだからな」
ハロルドの視線の先にあるキャベツを見て、ワクワクしていたアーロンはその口を閉じた。一角がえらい食い散らかし方をされていた。流石に残った部分にはネットを被せられているが、酷い有様だ。友人の金色の目は冷え冷えとしている。
「まぁ、上手いモン育てたと思っとこうぜ。羽根も売れるし」
「味を占めたヤツらが厄介だから複雑だ……」
アーロンの言葉にそう返して、それを冒険者ギルドに持っていくために台車に乗せた。
「薪とかはもう用意したか?」
「うん。それなりにはね。一応多めには集めたんだけど、こっちがどれくらい寒くなるのか想像つかないしな」
「あとでおまえんとこのばあちゃんが確認するだろ。雪が降ると干し肉とかしかなくなるのが嫌だよな」
唇を尖らせるアーロンだけれど、茶色いクックの中に稀に白いクックを見つけてしまっているハロルドは若干嫌な予感を感じている。ハロルドが一部の野菜を倉庫内に持ち込むのをじっと見つめていた。流石に考えすぎかとは思うけれど、魔物は稀に考えもつかないことをしでかすので少し不安だ。
人ではなく、ハロルドの野菜をしつこく狙ってくるとはいえ間違いなく魔物であるそれは冒険者ギルドに引き渡された。解体待ちである。
「肉持って帰る?」
「良いのか!?」
「うちはじいちゃんもばあちゃんも肉はそこまで食べないからな。アーロン家の弟妹は結構食うんだろ?」
「うちはある時に食わないとしばらく当たらない時あるから戦争」
毎回あれば良いけれど、収穫がない時だってある。育ち盛りの体は肉を必要としているのかアーロンの家とハロルドの家ではその消費量が桁違いだ。ハロルドもそれなりに食べるけれど、人数の差が大きいのかもしれない。
ちなみに、ハロルドのお裾分けはアーロンの母が料理して返ってくることが多い。他所のご家庭の味はそれはそれで美味しいのである。ハロルドの母親は料理がからっきしダメだったので初めの時は妙な感動もあったものだ。彼は祖母のご飯で育っていた。祖母のご飯も美味しい。けれど若者向けの食事が出てくるのはアーロンの家のおかずだった。
解体が終わって、羽根が売れるので買い取ってもらう。クック類の羽は通常のブラウンやブラックのものはそこまで高くはない。羽よりもむしろ食用肉としての需要が高い。なので本当は肉を売った方が金にはなったりする。しかし、ハロルドの異空間収納内では時間経過がないので中に入れておけばそれだけで長期の保存が可能だ。時期も時期なので、食料はいくらあってもいい。備えあれば憂いなし、と食料をある程度溜め込んでいた。
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