31.不思議な露店
アンリとの調整を終えたハロルドはブランと手を繋ぎながら街を散策していた。
祭りの用意が始まっていて俄かに浮き足立っており、活気に溢れている。
(もうじきに寒くなるしな。ばあちゃんにはストール、じいちゃんにはいい感じのコートとかあるといいんだけど)
手元にはあの日、アーロンと一緒に倒しまくったリッパースクワロルの討伐報酬やらその素材の一部を売り払ったお金がある。ジュエルリッパースクワロルの討伐報酬だけでもそれなりの金額だった。その魔石を売り払えばしばらく働く必要がないくらいの金額になったことは予想ができるけれど、それはハロルドが使用しようと思って素材丸ごと引き取っている。
アーロンもおそらく今日はローズと一緒に市場を回っているはずだ。
「ハロルド!いい匂いがする!」
「あとでね」
キラキラと輝く瞳で周囲をキョロキョロと見ているブランは、その愛らしさからもほっこりとした目で見られる。
素直に「あとでね」という言葉を信じた彼女の足取りは軽い。頭の上のネモフィラは「ボクもあれくらいサイズが大きければ」とちょっとだけ悔しそうだ。
ちなみにリリィはハロルドとアンリの計画に巻き込まれてお手伝いをしている。彼女が今回の件で一番適当であろうと判断した。性格的な面で言うと一番気が短いが、ハロルドのご褒美が目の前にぶら下がっているので早々やらかしたりはしない。
「おじいさまとおばあさまへの贈り物だったな!我、あそこの店などいいんじゃないかと思う」
指差した先には人が集まっていない小さな露店が出ていた。不思議な存在感があるのに何故気が付かなかったのだろうか、と首を傾げるものの、ネモフィラとブランの危険センサーが働いていないので「まぁ、いいか」とその店へと足を進めた。
そこにいたのは無愛想で厳つい壮年の男性だった。背は普通だが、ガタイが良く耳が尖っている。この国は単純な人族が多いけれど、ファンタジーらしく妖精・精霊に始まって、エルフや獣人も存在している。そのことは知っているので「異種族か。珍しいな」とだけ思った。
「すみません。商品を見せてもらっても構いませんか?」
「勝手にしろ」
何故か少しだけ驚いたような顔をした男は、ハロルドをじっと見ているが、ハロルドは「俺みたいな子どもが来るのが珍しいんだろうな」なんて思っていた。ある意味では正しい。妖精を頭に乗せ、精霊と手を繋いで買い物に来る少年なんて他にはいない。店主はそれがそういうものだとわかる人間だった。そして、目線が頭の上にあるのでもしかして、と思っていると「ここ、姿隠しできないみたい」とネモフィラが言った。
「我はこのストールとかオススメ!火が散っても燃え移り難い」
「フレイムディアーの毛皮を使用している」
「あの火口から這い出てくるという噂の……」
じゃあ絶対高いだろうと値札を見ると思ったより高くはなかった。一桁間違ってないかと尋ねるが、適正価格らしい。
「フレイムディアーなんぞ、斧の一振りで殺せる」
「それ、人種とか鍛錬とかにもよる。ハルはしないで」
店主の言を受けてネモフィラが心底嫌そうに口に出した。なんでも、「他のより魔法、効かない。クソ鹿。嫌い」だそうだ。それでは自分も倒すのは難しいだろうな、とハロルドは少しだけ遭遇する未来がなければいいと思った。
「こっちは丈夫!ちょっと木に掠った程度じゃ破けない!」
ブランに勧められるがままに商品を手に取った。思ったより柔らかく軽いそれに本当に丈夫なのか疑っていると、店主は「リッパースクワロルの毛皮を使っている」と言ってきたのですぐに疑いは消えた。
あの連中はそこそこの威力で消しとばさないと何もなかったかのようにピンピンしている。最近大量殺戮したことでそれを知っている。焼き尽くす気で撃った魔法だったが、少し離れたところにいた奴らは気絶しているだけでしばらくすると元気に動き出した。そのため氷を突き刺したのだ。
「うわ、安……。本当にこの値段でいいんですか?」
不安にかられてそう問うけれど、「構わん」と店主は告げた。
そこで他にも新しいナイフや、冬用の防寒具なども買い込む。防寒具に関してはアーロンのものも購入した。彼が要らないと言えば自分で使うつもりだ。少し大きいけれど着れなくはない。
良いものがたくさん買えたとホクホクしていると、不意にアンネリースへの返礼品も必要か、と思い出す。流石に年下の女の子に貰いっぱなしもな、とアクセサリーを覗く。
「髪飾りとか、必要?」
「必要というか、最近貰ってばかりだからこの機会に何か返そうかなって」
美しい金色の髪をした少女には何色が似合うだろうか、なんて思いながらやがてそのうちの一つを選んだ。
「見る目がある」
それを見ながら店主はつぶやいた。ハロルドが選んだ物は彼が採取し、妻が細工を施したとっておきだった。
店主は客にそれなりの技量を求める。妖精や精霊と共に生きる少年はそのお眼鏡にかなった。
店を開きながらもその露店は認識阻害の魔法によって常人に見つけることは困難だった。店を去るハロルドの背中を見ながら、またいつか、どこかで巡り会うだろうと店主は口角を上げた。
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