30.密談
フォルテの神殿の改装という名目で行われたほぼ建て直しが済んだらしく、「異世界の建築技術も結構すごいな」なんて思いながらハロルドたちは人払いの済んだそこを訪れていた。
たまに「不審者だ、とらえろ!!」だの「ちっ、アイツ確かフォルツァートの信者だぞ」だの聞こえるが、完成に至るまでにそこそこ妨害があったためフォルテの神官たちも結構気が立っている。そして、未だに火をかけようとする者もいるらしく、不審者が現れた瞬間鬼のような顔をした神官や聖騎士が追いかけてくる。
「フォルテ神の神殿だというのに、やったらトラブルが多いな。なんでだ?我の記憶では豊穣は女神の領分のはずだが」
「なんでも、フォルツァート神以外は邪神だっていうのが向こうの考えらしいから」
「そんな奴らがいるから森が減り、自然の恵みが減るんじゃないか。我らも棲家を探すのが大変になっているしな」
学園には流石に連れて行くことができないが、終わった後に彼女を迎えに行った。今日の面会相手がブランにも一度会いたいというので仕方がない。
「来たか、ハロルド。どうだ、あの女神像などウィリアムのこだわりの逸品だぞ」
約束をしていた相手はもうすでに来ていたらしく、先に神殿を見てまわっていた。
相手は王太子アンリ・シャルル・エーデルシュタインである。
王太子アンリが指差した先にはフォルテを少しだけ美化した感じの像が建てられていた。ウィリアムがあれこれと口出ししたということもあってかかなり似ている。
エドワードとダニエルも後ろに控えている。エドワードは静かに会釈を、ダニエルは軽く手を振っている。
「こんにちは、だいぶ元気そうですね」
「初めて会った時より随分マシだよ。ルイが手伝ってくれるからな。あとは逃げ回るハゲネズミさえ捕まれば万事解決なのだが、なかなかな」
例の司祭はあれこれと理由をつけて逃げ回っているらしい。目を引いた以上逃げ切れるはずはないのだが、彼女はどデカい一発を狙っているためにまだ無事でいる。
そんな彼らはブランを見て「その子がもしや?」とハロルドに尋ねた。
「精霊ブランです」
「我は風の精霊だ!!」
元気よく答えた彼女に目の前にいるアンリたち三人は手紙の内容を思い出して少し複雑な気持ちになった。まさか精霊が棲むような大樹を伐ってしまう馬鹿がいるだなんて普通思わない。そういった樹は、通常伝承やら文献で大切なものであると伝えられているものだ。それが伝わっていないとすればあまりにも杜撰だし、伝わっていたのにやったとなればどうかしているとしか思えない。
「まぁ、精霊っていっても幼子のようなものよ」
「何もできない」
「そぉ〜!可愛いだけぇ!」
いってることが何気に酷い妖精たちに全員が苦笑した。
ただその答えは現状の真実である。守ってやらなければ、身を守る術すら少ない。王都に来るまでにブランはその力のほとんどを使い切ってしまった。その力だって魔物から隠れたり、悪い人間から逃げるのがやっと。精霊としての権能はほぼ喪失状態にあった。
(しっかりとした関係性を築けていれば、その土地を守ってくれただろうに)
良くも悪くも環境に依存する存在であるが故に、そう思ってしまうことも無理のない話であろう。
「それで、会える場所とかは決まりそうですか?」
「ああ。調整を進めている」
この精霊の復活のために二人は割とあれこれやっていた。お姫様を動かすのだから上に許可がいるのは当然だ。荒ぶる宰相が死に物狂いで某司祭を追い詰めようと手を打っているので、王もフォルツァート関連の人間を整理して回っている。この件はアンリにと任されてしまった。
アンリは「まぁ、アンネは真っ直ぐだからやらかすにしても真正面からぶつかって砕けるしまだマシ」だと容認の構えだ。
「しかし、あの子の力が必要になる時が来るとはな」
アンネリースのスキルは植物の成長に関わるものだ。種があれば植えた数分後には実をつけることだってできる。ただし、それは「それが育つことができる環境がある」という条件が必要だった。
ちなみにバリスサイトに行くまでの道のりで木を生やすことができたのはアンネリースの魔力が土地と相性が良かったということと、側にハロルドがいたという理由があったりする。
「我の樹!根っこが生えてきたんだ!!頼むぞ、人間っ!!」
ハロルドも驚きの驚異のスピードで復活しようとしている精霊樹。アンネリースの助けと植える場所があればすくすくと大きくなり、ブランもまた力を取り戻す時は近いだろう。
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